悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、スケジュール管理が苦手で悩んでいる人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「仕事のスケジュール管理が苦手です」(42歳男性/IT関連技術職)
恥ずかしながら、僕は基本的に感覚で動いてしまう人間です(しかもつい最近まで、その自覚すらなかったというお粗末)。ですから、スケジュール管理にしても非常に苦手。というより、そもそもスケジュールを立てようという発想がなかったりします。
それではいけないなぁと思って段取りを考えてみても、なにしろ慣れていないので、結局はスケジュールに支配されることとなり、かえって段取りが悪くなってしまったりするのです。
そのため結局は“ノリ”で進めることになり……それがいちばん精神的に楽ではあるので、「まぁ、これでもいいかな」などと思ったりもしているのですが、果たして本当に効率がいいのかどうかはいまだにわかりません。
ですからスケジュール管理の方法などという高尚な問題にお答えする資格などないのですけれど、そんなときこそビジネス書。今回も、お役に立ちそうな3冊をチョイスしてみました。
“実質的な労働時間”を把握する
『1日の仕事を3時間で終わらせるダンドリ術』(山本憲明 著、フォレスト出版)の著者は、会社員から税理士へと転身したという経歴の持ち主。いまから13年前の2006年ごろ、税理士として脂が乗ってきたころは、1日16時間は仕事をしていたのだそうです。
ところが現在は、1日のうち3~4時間しか実質的に仕事をしていないのだとか。誇張でもなく、本当のことだといいます。
仕事をする時間を8時間減らしましたが、特にお客さまに迷惑をかけることもなく、収入が大きく減ったわけでもありません。ムダな経費が減ったことで利益は増え、むしろ手取り金額はけっこう増えています。(「はじめにーーなぜ1日16時間労働を3~4時間まで減らせたのか?」より)
端的にいえば、つい抱え込んでしまいがちだった仕事の仕方を見なおし、なるべく労働をしない方向に持っていくことにしたということ。すると、金額の割に手間がかかるクライアントが離れていき、あまり手がかからない(経営者がしっかりしている)会社が残ったため、仕事の効率がよくなったというわけです。
しかも、売り上げはほとんど減っていないにもかかわらず、仕事に要する時間が圧倒的に減少。ムダな仕事やモノを徹底的に手放し、便利なツールを積極的に使って能率を高めたこともあり、かつての16時間労働が3~4時間になったというのです。
そんな経験を持つ著者は、多くの人が「ムダな仕事」や「やらなくてもいい仕事」で時間を浪費していることを問題視しています。しかも、特定の仕事について「これをやらなきゃ」と感じてしまうケースの大半は、単なる“思い込み”にすぎないといいます。
事実、著者は「これをやらなきゃ」と思っていた仕事の大半をやめても、なにも問題はなかったそうです。
つまり、いまの仕事をすべて見なおし、核心的で「どうしても必要」という仕事だけをやり、残りの時間は自分自身や周囲の人たちの将来をよくするために使えばいいという考え方。
いつ、いまの会社で仕事ができなくなってしまうかわからない時代だからこそ、そうした事態に備える意味でも、本書で明らかにされている「労働時間をいまの2割に減らす」ためのメソッドやノウハウは役に立つはずだと著者は断言しています。
では、どうやって2割まで減らせばいいのでしょうか?真っ先にやっていただきたいのは「今の労働時間の確認」です。たとえば、あなたがお勤めの会社は、始業が8時半、終業が17時半、昼休みが1時間の「8時間労働」だったとします。しかし、“実質的な労働時間”はそれほど長くないはずです。(29~30ページより)
現実的に、しっかりと働いている“実質的な労働時間”はせいぜい2~3時間程度。そこで、その日にやるべき仕事は朝の2時間で済ませてしまうなど、時間の構造を変えていけばいいということです。
いわば著者は本書において、「ムダを徹底的に省こう」というシンプルな提案をしているのです。だから、誰にでも実践できるということ。参考にしてみる価値は、十分にあるのではないでしょうか?
お母さんから学ぶ「段取り」がカギ
私は、ケンブリッジ大学の大学院で心理学を学んだ後、グローバルリーダー育成のジーエルアカデミアという会社を立ち上げ、会社を経営しながら、講演や講義を年100本ほどこなし、通訳や翻訳、企業や大学のコンサルティング、本の執筆などもこなしており、仕事の内容は多岐にわたっています。(「はじめに」より)
自身の仕事について、『ケンブリッジ式1分間段取り術』(塚本亮 著、あさ出版)の著者はこう説明しています。同時に多くの仕事を進行させる必要があるため、自分がすべきこととそうではないことを整理し、任せられる仕事はスタッフやビジネスパートナー、海外在住のフリーランスに依頼しながら進めているそう。
そして著者は、「朝のお母さんのお弁当づくりを思い浮かべてほしい」と記しています。
今日の晩御飯や明日のお弁当のイメージをしながら、足りない食材をスーパーで調達。そして朝になると、炊飯器のスイッチを押して、電子レンジで前日のおかずの残りを温め、その間にソーセージをフライパンへ。ソーセージが焼けるまでの間に野菜の準備をして、レンジが終わったタイミングを見計らって、冷凍食品の唐揚げを温める。子どもたちが起きてきたら、朝食も同時に仕上げてしまう。(「はじめに」より)
すべてが起きた時点での思いつきではうまくいかないため、先を予測し、先に先に準備をしておくからこそ、忙しい朝の仕事をテキパキとリズミカルにこなせるのだという発想。
大切なのは、いかに無駄なく時間を効率的に使いながら、事前に描いた完成図に到達すること。それが「段取り」であり、段取りは自分の強みを最大限に発揮するための仕事術だというのです。その方法論を活用すれば、限られた時間で最大の効果を生むことができるというわけです。
そんな考え方に基づく本書で、著者は「ゴールまでの道のりを描くこと」「頭のなかをスッキリと整理すること」「コミュニケーションを活用すること」「集中できる環境をつくること」などについての考え方を明かしています。
決して難しくはないことばかりなので、実践してみれば仕事の効率を上げることができるかもしれません。
朝時間を制する者は、未来を制す!
さて、最後にご紹介したいのは、『30分早起きして自分を変える すごい朝時間術』(石川和男 著、総合法令出版)。文字どおり、朝の時間を有効に使うことによって効率を高めようという考え方に基づいた書籍です。
著者は、建設会社の総務経理担当部長・大学講師・時間管理コンサルタント・セミナー講師・税理士と5つの仕事を持つ“スーパーサラリーマン”。そのような立場から、時間を有効活用できる人とできない人との差について、明確な指摘をしています。
この差は、ビジネスパーソンに唯一残された時間を無駄にしているか、有効に使っているかの差でしかないのです。私たちビジネスに携わる者にとって、唯一残された時間。それは、ズバリ「朝の時間」です!(「はじめに あなたに残された、唯一の期間!」より)
「朝時間を制する者は、未来を制す!」と著者は断言しています。そして、まずはいつもより30分早く起き、この時間を夢や目標を実現することだけに使ってみようと提案してもいます。
著者自身が、この方法を5つの仕事をこなしながらまったく時間に追われていないというだけに、強い説得力を感じさせます。
朝一番に活動することで、人間はとんでもない力を発揮します。例えば、同じ30分でも朝の30分は、仕事終わりの疲れ果てたあとの30分とは比べ物になりません。まさに、1日のなかで光り輝く「ゴールデンタイム」なのです。(「はじめに あなたに残された、唯一の期間!」より)
なるほど、この考え方については個人的にも共感できることがあります。先日、たまたま朝の5時に目がさめたのでそのまま起きて活動を開始したところ、驚くほど効率が上がったのです。
そんな体験をしたからこそ、以来、なるべく早く起きるように努力しています。なかなかうまくいきませんが、これからもチャレンジしていこうと思っています。
時間を有効活用できれば、仕事を効率よく進められるだけでなく、精神的にもリラックスできるのではないでしょうか? そういう意味でもこれら3冊を参考にしながら、自分なりのスケジュール管理法を見つけ出したいものです。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。