悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「相手の嫌な面ばかり気になる」人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「人にちょっとでも嫌な所があると無視するクセがついてしまい、孤立してしまう」(49歳男性/IT関連技術職)
これはちょっと困ったクセですね。こういうことを続けていたのでは、孤立してしまったとしても当然だと思います。というよりも、そんな状況下にいらっしゃること自体が、とても苦しいのではないでしょうか?
そう感じるからこそ、一刻も早くなんとかしたほうがよいと思います。そうでないと、余計つらくなってしまうだけだから。
「それができれば苦労しないよ」という声が聞こえてきそうですが、ご安心を。すべての問題を瞬時に消し去ることはできないにしても、「少しずつ改善していく」ことは可能だと思います。
そこで、まずは根本的なところから考えなおしてみましょう。「人にちょっとでも嫌なところがあると、無視するクセがついている」という現実についてです。
人の嫌なところを見つけるとき、その判断基準は自分のなかにあります。最初から相手を否定的に見ているため(いいかえれば決めつけているため)、嫌な側面ばかりが気になってしまうということです。
しかも「嫌なところ」と感じるのは、あくまで自分自身の主観によるものです。自分の価値基準にあてはまらないからこそ「嫌だ」と感じるわけで、それは「なんとなくアイツ、気に入らない」というような感情と大差ありません。
ましてや無視してしまうとなると、状況はさらに厄介なことになるでしょう。無視されて気持ちがいいという人はいませんから、結果的にどんどん人が離れていき、孤立してしまうわけです。
状況を改善するためには、やはりご自分の意識や感じ方、考え方を変えてみるのがいちばん。現状では「自分基準」だけしかない状態であるようにお見受けするので、そこをなんとかすべきだということです。
とはいえ性格を変えることは、それほど簡単ではありません。そこで、まずは自分を変えるための「とっかかり」を利用してみてはいかがでしょうか?
身近な人とうまくつきあうノウハウ
「人にちょっとでも嫌なところがあると無視してしまう」のだとしたら、嫌なところを見ないように、そして無視するというような行動を選ばないように、日常的にエクササイズをしていけばいいはず。
そこでご紹介したいのが、『嫌なことを言われた時のとっさの返し言葉』(森 優子著、かんき出版)です。
コミュニケーション・アドバイザーである著者が、身近な人とうまくつきあっていくためのノウハウを明かした書籍。著者はシングルマザーとして昼夜を問わず働き続け、さまざまな人たちと接してきたという方ですが、その結果、あることに気づいたのだそうです。
嫌なことを言う人は、嫌な人ではあるのですが、悪人ではありません。平気で人をだますような人に比べれば、決して本質的に悪い人間ではないということです。
お子さまだったり、寂しい人だったり、ただの短気な人だったり、自信がないだけの人だったりするのです。そんなふうに見方を変えてみることができれば、かわいいものです。 だとすれば、たしかに対策は難しいことではないでしょう。ちなみに著者は、自分を守りながら上手に反撃するための戦術を3種挙げています。戦術その1「嫌なことを言われたときのために、自分を守る準備をしておく」
戦術その2「心が折れないように、盾となる言葉で上手に反撃する」
戦術その3「時と場合に応じて、矛となる言葉で相手をやりこめる」
(「プロローグ」より抜粋)
そうすれば、必要以上に傷つくことなく、怒ることもなく、上手に反撃できるということ。
そして、こうした「基本」を軸として、以後の章では「避けられない上司や先輩の嫌な言葉」「思いもかけない後輩の嫌な言葉」「お酒の席での嫌な言葉」「父母会などでの嫌な言葉」「親しい人の嫌な言葉」と、相手のタイプやシチュエーション別の対処法が紹介されます。
「応急処置的な意味での戦略」として、このようなテクニックを身につけておくだけでも、気持ちはずいぶん楽になりそうです。
発言の真意を確かめる
『すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な人』(安達 裕哉著、日本実業出版社)の著者は、仕事やマネジメントに関するメディア「Books&Apps」を運営しながら、企業の現場でコンサルティング活動を行っている人物。
当然のことながら、過去には「人の話を聞かない上司」「仕事をしない同僚」「アドバイスを聞かない後輩」「無茶な要求を出す取引先」など、「嫌だなぁ」と感じる多くの相手と出会ってきたといいます。
しかし、そんななか、自分自身が「相手がなにを考えているのかわかろうとせずに、相手を『バカ』と決めつけ遮断していた」ことに気づいたというのです。
そのため、「聞くこと」「話を吟味すること」が「バカ」から抜け出すもっともよい方法だと考え、以後は相手の発言の真意を必ず確かめるようにしたのだそうです。
すると、あらゆる人は「自分の見えている世界の中では合理的な選択をしている」ことがわかってきました。
「バカ」は人の属性ではなく、考え方の属性なのです。
バカな人がいるのではなく、バカな考え方や振る舞い方があるだけなのです。
「バカに見える発言」も、その裏には素晴らしいアイデアや、熱い想い、強烈な体験などがあり、それは決して軽んじてよいものではありませんでした。(「はじめに」より)
そんな考えに思い至ったからこそ、本書には著者自身が体験した「バカな振る舞い」に関してのエピソードを集めたのだということ。
自分とは違う考え方の持ち主と衝突すると、人は相手のことを否定したり「バカ」扱いしたりするもの。しかし「バカ」の原因がわかってしまえば、対人関係に不条理を感じることもなくなっていくわけです。
そしてその結果、どんな人ともある程度は歩み寄れるようになっていくはず。だからこそ、気軽に読める本書を参考にしてみてはいかがでしょうか?
雑談力で距離を縮める
ところで相手の嫌なところが気になってしまう原因は、自分自身のコミュニケーション能力の影響だという考え方もできるはず。話下手だと相手に気持ちをうまく伝えられないものですし、気持ちが伝わらないと誤解されてしまうもの。そうやって、どんどん悪循環に陥ってしまうことも考えられるわけです。
そんな状態から脱却するために活用したいのが、『雑談力が上がる話し方――30秒でうちとける会話のルール』(齋藤 孝著、ダイヤモンド社)。「雑談にたいした意味なんてないじゃん」と思われるかもしれませんが、雑談をする力を持っていると、相手との距離が縮まり、場の空気をつかめるようになれるというのです。
雑談についてよくいわれる2つの誤解があります。
(1)初対面の人やあまり親しくない人と、何を話していいのかわからない
(2)雑談なんて意味がないし、する必要なんてない。時間のムダ
(「はじめに」より)
(1)について著者は、必要なのは会話力ではなくコミュニケーション力だと主張しています。ちょっとしたルールや方法を知り、やってみるだけで、口下手な人やシャイな人にも身につくというのです。
(2)に関していえば、決してムダではないそうです。雑談は会話ではなくコミュニケーションなので、「中身がない話」であることに意味があるという考え方。そう考えれば、気持ちは楽になるかもしれません。
いきなり何を話せばいいのか……。
悩んだら、まず「ほめる」。どんな些細なことでもいいので、ほめることが雑談の基本です。それも真剣にではなく、「とりとめのないことをほめる」「なんとなくほめる」のです。(38ページより)
理由はいたってシンプル。雑談とは、お互いの場の空気を暖め、距離を近づけるためのものだということです。ほめられて、うれしくない人はいません。そして、よほど屈折していない限り、ほめられれば「この人は自分を悪くは思っていない」と感じるはず。
相手に一歩近づくためには、ほめることが近道だという考え方。口下手な人にとっては難しいことかもしれませんが、やってみれば意外に簡単だったりもします。
それに、ほめるということは、相手のいいところに注目するということ。嫌なところを意識的に見ないようにするということでもあるので、それを習慣化することができれば、気持ちはかなり楽になるのではないでしょうか?
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。