悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「働く意味を見いだせない」人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「会社と自宅の往復だけで、なんのために働いているかわからない」(45歳男性/建築・土木関連技術職)

  • 働くことに疑問を感じることはありますか?(写真:マイナビニュース)

    働くことに疑問を感じることはありますか?


今回のご相談を拝見したら、会社勤めをしていた数十年前のことを思い出してしまいました。

当時の僕は、会社員生活を「生活のため」だと割り切っていました。結婚したばかりで定期収入が必要でしたし、楽しみは妻との暮らしのなかに見つけていけばいいやと考えていたのです。

ところが現実にそれは、「割り切っていたつもり」にすぎませんでした。慣れていた仕事からはおもしろさを見いだすことができず、上司と部下との間に挟まれ、そんななか「このまま、何十年も同じ生活が続くのかな?」という焦りばかりが大きくなっていったのです。

ただ、やはりそれでは納得できなかったため、そののちアクションを起こしてみました。音楽が好きだったので音楽ライターになりたいと思い、原稿の持ち込みをしたのです。その結果、ありがたいことにライターとしての道が開け、平凡だった日常が刺激的になっていきました。

もちろん、だからといってすべてが解決したわけではなく、以後も会社との両立についてとか、フリーランスになってからの生活をどうしていくかなど、さまざまな問題に直面してきました。

それはそれでまた大変だったわけですが、しかしそれでも、あのとき「動いた」からこそ運命が変わったのだろうという実感ははっきりあるのです。

そして、そんな経緯をたどってきたからこそ、「なんのために働いているかわからない」という思いもよくわかります。

しかし結局のところ、もし現在の生活に疑問や不満があるのなら、自分で考え、自分で動いてみる以外にはないという気もするのです。

とはいっても、無計画に突っ走ったのでは怪我をするだけ。まずは"動くためのヒント"を見つけ、熟考してみることが大切なのかもしれません。さて、今回ご紹介する3冊は、そんなヒントとしてお役に立つでしょうか?

偉人やお笑い芸人から学ぶ

『人生の先輩たちに学ぶ 生きる理由』(西沢泰生著、かんき出版)は、古今東西の名言を通じ、「生きる理由」や「生き方」を問いなおしてみようという考え方に基づいた書籍。

  • 『人生の先輩たちに学ぶ 生きる理由』(西沢泰生著、かんき出版)

    『人生の先輩たちに学ぶ 生きる理由』(西沢泰生著、かんき出版)

「なぜ生きる?」「どう生きる?」「何を考えて生きる?」「いかに生ききる?」の4章に分かれており、歴史上の偉人からお笑い芸人まで、さまざまな人々のことばが紹介されているのです。

たとえば今回のご質問に対しては、以下のようなことばが参考になるかもしれません。

生きることの達人は、仕事と遊び、労働と余暇、心と体、教育と娯楽、愛と宗教の区別をつけない。何をやるにしろ、その場で卓越していることを目指す。仕事か遊びかは周りが決めてくれる。当人にとっては、常に仕事であり遊びでもあるのだ。老子(中国の思想家)(38ページより)

人生はトランプゲームに似ている。配られたカードをどう切るかはあなた次第だ。ジャワハルラール・ネルー(インドの初代首相)(53ページより)

誰もが自分の視野の限界を、世界の限界だと思い込んでいる。アルトゥル・ショーペンハウアー(ドイツの哲学者)(165ページより)

なお著者は第4章「いかに生ききる?」内の「人生の意味」という項目において、「生きる意味探し」をすることは必要がないとも主張しています。生きていること自体がすでに「意味のあること」なのだから、「生きる理由」を探す必要などないということ。

これも、なんらかのヒントになってくれそうではあります。

人生で成功するためのコツ

次にご紹介したいのは、『やってみてわかった成功法則完全実践ガイド』(高田晋一著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。タイトルからも想像できるように、テーマは「成功」です。

  • 『やってみてわかった成功法則完全実践ガイド』(高田晋一著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

    『やってみてわかった成功法則完全実践ガイド』(高田晋一著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

著者は「人生において一定の成功を収めるには、そのためのコツを知らないといけない」という考え方に基づいて、さまざまな文献や統計データを調べ、そこに書かれた成功理論やメソッドを一つひとつ分析、検証しているのです。

そして、その結果として、「成功するためのコツ」を見つけ出したというわけです。

今回役立ちそうなのは、第2章「『やりたいことを見つける』にはどうすればいいのか?」。ここでは「自己分析をし、やりたいことを導き出す」ための方法論が紹介されているのですが、だとすればなによりも大切なのは、自分の才能を見つけ出すことであるはずです。

そこで今回はこの章で引用されている、『ゴール 最速で成果が上がる21ステップ』(ブライアン・トレーシー/PHP研究所)に出てくる「自分の才能を見分ける8つのチェックリスト」をご紹介しましょう。

「自分の才能を見分ける8つのチェックリスト」
(1)それをしているときに最高に幸せで満ち足りるもの。
(2)うまくできるもの。
(3)それをしているのが楽しいし、ほめられることも多いもの。
(4)それを学ぶのが区ではなく自然と身についたもの。
(5)夢中になれるもの。没頭できるもの。
(6)一生それについて学び、向上し続けたいと思うもの。
(7)それをしていると時間を忘れてしまうもの。
(8)それがうまくできる人を心から尊敬し、憧れてしまうもの。
※出所:『ゴール 最速で成果が上がる21ステップ』(ブライアン・トレーシー)
(67ページより)

このチェックリストを使うことで、自分だけの特別な才能を見つけ、自分が向いているかどうかを見極めることができるとトレーシーは述べているそうです。いまやっていることや過去にやったことのあることのなかに、この条件がすべてあてはまるものがあれば、それこそが自分を唯一無二の存在にしてくれるとも。

自分自身にとっての「働く意味」を再認識するにあたり、このチェックリストは活用できそうな気がします。

80人の著名人から学ぶ

『80の物語で学ぶ働く意味』(川村真二著、日経ビジネス人文庫)は、各界の著名人80人が残した逸話のなかから、「働くことの意味」を考察したもの。2007年に刊行された『働く意味 生きる意味』を改題し、新たに司馬遼太郎、イチローなど8人のエピソードが加えられています。

  • 『80の物語で学ぶ働く意味』(川村真二著、日経ビジネス人文庫)

    『80の物語で学ぶ働く意味』(川村真二著、日経ビジネス人文庫)

コンセプトに関しては『人生の先輩たちに学ぶ 生きる理由』に通じる部分があるのですが、アプローチはまったく別。必ずしも仕事の話題に特化しているではありませんが、各人がそれぞれの持ち場で懸命に生きていくさまが、立体的に描かれているのです。

どのエピソードも読みごたえがあるので、本来なら全文をご紹介したいところ。でも、そういうわけにはいかないので、今回のご相談内容に結びつきそうな、印象的な部分を抜き出してみることにしましょう。

のちに帝国ホテルの専務取締役総料理長になった、村上信夫氏のことば。11歳のときに両親を結核で失い、手に職をつけるためコックになろうと決心。いくつかのレストランで腕を磨いたのち、18歳で帝国ホテルに入社し、努力を積み重ねてきたという人物です。

料理の極意を尋ねられると「愛情、工夫、真心」といつも言い、「夢はもち続ければ必ず実現する」「コック人生は幸福の連続だった。人にも恵まれた。しかし、それは準備し、努力した結果でもある」と語った。 村上信夫(1921-2005)『帝国ホテル厨房物語』(145ページより)


毎日同じ時刻に起き、同じ時刻に家を出て出社し、昨日と同じような仕事をしていると、たしかに働くことの意味を見失ってしまいがちです。しかし、そんなときこそ自分と向き合い、「本当にしたいことはなにか」という点をとことん考え抜くべきであるはず。

答えにたどり着くまでにはそれなりの時間がかかるかもしれませんし、決して精神的に楽ではないでしょう。でも結果的には、そうすることでやがて答えの断片に行き着くことができるのではないかと思います。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。