悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「職場での自分の印象」に悩む人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「どうも他人から嫌われるキャラになっています。どうしたらいいですか? 元気をください」(40歳男性/公共サービス関連)
まず、お聞きしたいことがあります。
「他人から嫌われるキャラになっている」とおっしゃいますが、なぜ、そう感じたのでしょうか? きっかけのようなものがあったのでしょうか?
なによりも先に、そのことが気になりました。
もちろん嫌われているのだとすれば、その原因について考えてみる必要はあるでしょう。自分を俯瞰し、「どこが悪いのだろうか」と考え、そこで気づいたことを修正していくべきだということ。
でも本当の意味で嫌われている人は、そもそも嫌われているという自覚がないような気もするのです。だから反省しないし、反省しないから嫌われる……という悪循環のなかにいる可能性が高いということです。
でもご質問者さんは、「他人から嫌われるキャラになっている」と感じているご様子です。だとすれば、少なくとも自覚しているということにはなるはず。自覚しているということは、本当の意味で嫌われている状態ではないとも考えられるわけです。
少なくとも、「なんとかしたい」と考えて差し支えないだろうと思うのです。
ただ、これは誰にとっても言えることですが、「いまの自分はこれでいいのか?」「よくない点があるとすれば、それはなにか?」と考え、改善していく努力をすることはやはり必要でしょう。
いわば人間は、その作業を繰り返しながら成長を続けていくということなのかもしれません。
人から好かれる100の方法
さて、この問題についてビジネス書はどう答えてくれるでしょうか? まずご紹介したいのは、タイトルもそのものズバリの『人に好かれる100の方法』(植西 聰著、集英社文庫)。
著者は、資生堂を経て独立し、現在は産業カウンセラー/著述家として活躍する人物。本書の冒頭では、「人に好かれる」ということについての本質を簡潔に表現しています。
友だちができないのも、上司と反りが合わないのも、
片思いの人とうまくいかないのも、同僚とケンカしてしまうのも、
自分自身に「人に好かれる魅力」が足りないからです。
逆に言えば、人から好かれる人になれば、
ほとんどの悩みを解決することが可能なのです。
(「はじめに」より)
そこで本書においては、人から好かれるための100の方法を紹介しているのです。しかも決して難しいことではなく、「人を立てる」「人をほめる」「人にゆずる」「人に誠実に接する」などテーマ別に分けられた方法は、すぐに実践できることばかりです。
たとえば今回のご相談に関していえば、「人をバカにすると自分がバカにされる」という項がなんらかのヒントになるかもしれません。
人から嫌われている人の言葉を聞いてみると、(本人は無自覚のまま)他人をバカにするような言葉を使っていることが多いというのです。
あなたは、無意識のうちに人をバカにするような言葉を使っていませんか?
もし、あなたが次のような言葉を使っているなら、まわりかた、「あの人はひどい」とウワサされているかもしれません。
心当たりのある人は、次から別の言葉に置き換えて使いましょう。
短い言葉ですが、毎日の積み重ねを繰り返せば、あなたの印象はだいぶ変わるはずです。
一、そんなことは知っています。→よく言ってくれましたね。
二、くだらないことを言わないで。→気がつかなかったわ、ありがとう。
三、できないわよ、あなたには。→あなたなら必ずできるわ。
四、能力的にみて、あなたには無理ね。→あなたの能力なら絶対できるわ。
五、その考えは幼稚ね。→もっと話してくれない?
六、何でこんなことがわからないの。→私もあなたくらいのときはわからなかったわ。 七、いつまでたっても成長しない人ね。→この経験を生かして、これからもがんばってね。
八、誰のおかげだと思っているの。→あなたの力よ、よくやってくれたわ。
(22〜23ページより)
なお、これらの用例は女性の言葉遣いになっていますが、当然のことながら男性の言葉に置き換えることも可能。応用してみる価値はありそうです。
相手の右脳に訴える
『空気を読まずに0.1秒で好かれる方法。』(柳沼佐千子著、朝日新聞出版)の著者の人生には、「どうして、私は嫌われてしまうんだろう?」という言葉が常につきまとっていたのだといいます。
子どものころから人づきあいが苦手で、学校ではいじめに遭い、社会人になってからも、なにかと浮いてしまったというのです。そこで「なんとかしなくては」と、学生時代からコミュニケーションの勉強と実践に没頭。
コミュニケーションスキル、心理学、脳科学などの本を読み漁り、そこで得た方法論や知識を生活のなかで実践するという「実験」を繰り返したのだとか。
こうして20年の間、試行錯誤を重ねる中で、私は徐々にやりすぎと言えるほどの表情や身振り・手振りをすると、相手からプラスのリアクションを得られることに気づきはじめます。そして、それは、相手の人柄や様子に合わせなくても、どんな相手に対しても同じでいいことがわかったのです。
そして、いつの間にか、私の人間関係の悩みは消えていました。(「プロローグ」より)
そのようにして著者がたどりついた「大げさなほどの表情や身振り手振り」は、好感を持ってもらうための「形」なのだそうです。そしてそれは、相手の右脳に直接訴えかけるものなのだといいます。
そこで本書では、著者の経験と研究に基づき、人に好かれるための方法をさまざまな角度から紹介しているのです。
人は会った瞬間の様子で、相手が感じが良いか悪いかを判断していて、それがその後の関係性にも大きな影響を及ぼします。極端に言うと、「ぱっと見」の印象だけで、その後、良い関係性が続いたり、それが仕事上の成果につながったりする人もいれば、逆に、その一瞬で、多くのチャンスを失っている人もたくさんいます。(21ページより)
たとえば「印象で得する人、損する人」という項に書かれているこの指摘には、ちょっとドキッとさせられます。
目の前の人を笑顔にする
ラストは、これら2冊とは異なるアプローチに基づく書籍をご紹介しましょう。『半径3メートル以内を幸せにする』(本田晃一著、きずな出版)がそれ。タイトルからわかるように、「目の前の人を笑顔にする」ことを目的としている書籍です。
本書では「半径3メートル以内」を幸せにすることで、幸福感でいっぱいの人生をつくっていこうという話をしていきます。
半径3メートル以内とは、心の距離。つまり、自分が心から大切にしたいと思う人たちのことです。(「Prologue」より)
幸せの基準はさまざまですが、ひとつだけたしかにいえるのは、大切な人たちと自分が笑顔でいることだという考え方。だとすれば、そこには「嫌い」だとか「嫌われている」というような感情が立ち入る隙はなくなると考えることもできるでしょう。
相手と一緒に、より豊かな幸せに向かっていくためならば、相手の素敵な一面をより多く味わう。思い出して実感する。
相手が自分の心の半径3メートル以内にいる限り、そんな都合のいい味わい方をしてもいいんじゃないかと思うのです。
それが人生を豊かな方向に動かしていくからです。
(136ページより)
たとえば「大切な人の素敵なところだけをキャッチしよう」という項目には、上記のような文章が出てきます。相手のよい面だけを意識的に見るようにしていれば、必然的にその人間関係は穏やかなものになっていくわけです。
「嫌われている」と感じてしまうと、ネガティブな感情はどんどん大きくなっていきます。しかも、その感情に終点はありません。だからこそ厄介なのですが、でも、そんなことをいつまでも引きずる必要はないのです。
大切なのは、自分を冷静に見つめ、反省すべき点は反省し、目の前の人のことを好意的にとらえることではないでしょうか。それを習慣にすることができれば、やがて人間関係は少しずつ改善されていくと思います。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。