悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、プロ書評家の印南敦史さんに選書していただきます。
■今回のお悩み
「入社四年目です。後輩への指導に悩んでいます。後輩にどう言えば伝わるのか、後輩のモチベーションを上げるにはどうしたらいいのか教えてください」(27歳男性/営業関連)
「わからない」ことを認める
入社四年目は、ビジネスパーソンとしては悩める時期なのかもしれません。たしかに自分自身に関していえば、やっと仕事に慣れてきたタイミング。しかしその反面、後輩を指導する必要性が生じてしまうからこそ、決して気を抜くことはできないわけです。
いくら仕事に慣れたとはいえ、自分としては「俺なんかまだまだだ」と感じていたりするかも。それは客観的に自分を見ることができているということですから、むしろ正常な状態だともいえるでしょう。
つまり、自分がまだ成長過程なのです。なのに、さらに若い、社会経験のない後輩たちが入ってきたとなると、自分のことを後回しにしてでも彼らをまず指導しなければならない。非常にアンバランスな状態にあるということです。
もちろん彼らとは年齢的に数歳しか違わないわけですが、厄介なのは、その「数歳の差」がとても大きいこと。なにを考えているのかよくわからないし、わからなければ年齢差を痛感し、より自信がなくなってしまったりしてもおかしくはないのです。
でも、そんなことで悩んだり精神を病んだりしてしまったのでは、あまりにもったいない。なぜって、なにひとつ悪いことはしていないのですから。むしろ、「どうしたら彼らを指導できるのだろう?」と悩み続ける毎日なのですから。
だからこそ大切なのは、あえて「わからない」ことを認めてしまうこと。 自分を卑下しろという意味ではなく、そこを出発点として、「じゃあ、彼らのモチベーションを上げるにはどうしたらいいんだろう?」と考えてみればいいだけの話だということです。
そう考えれば、多少は気持ちが楽になりませんか?
そしてそんなときには、ぜひビジネス書を参考にしてほしいと思います。いろいろな書籍に目を通してみれば、そこから答えを見つけ出すことができるかもしれないから。
そこで今回は、後輩を指導する人に役立ちそうな3冊をピックアップしてみました。
若者たちの特徴を知る
ご存知の方も多いと思いますが、『若者わからん!』(原田曜平著、ワニブックス)の著者は博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。若者研究の第一人者であると同時に、「マイルドヤンキー」「さとり世代」「伊達マスク」「女子力男子」「ママっ子男子」など、若者に関するキーワードを次々と生み出してきた人物です。
つまり本書においては、そのようなバックグラウンドを軸に「わからない」若者たち(日本版ミレニアル世代)の姿を浮き彫りにし、「では、どうすべきか」を明らかにしているのです。
具体的には、第1章では「若者に目を向けない企業は消えていく」と警鐘を鳴らし、第2章では「表面上は従うが動かない」「我慢、忍耐力がなさすぎる」「自分の意見を主張しない」など「ミレニアル世代」の特徴を解説しています。
が、「でも、具体的にどうしたらいいのよ?」と悩んでいる人に役立ちそうなのが、第3 章「好かれる上司、嫌われる上司」。
「相手の否定は絶対にダメ」「昔の価値観を押しつけない」「若者の行動習慣を受け入れる」など、若者=後輩に対して先輩がすべきことを、具体的にわかりやすく解説しているのです。つまり、後輩を指導している人にとっての教科書的な側面があるということ。
「すべきでないこと」を把握する
でも現実問題として、先輩には先輩なりに「俺だって失敗してきたよなぁ……」という反省点は、誰にでも少なからずあるはずです。
そこを原点とし、あえて失敗体験から学んだ「上司の教訓」を明らかにしているのが、『私が「ダメ上司」だった33の理由』(午堂登紀雄著、日本実業出版社)。
現在は不動産投資コンサルティングを手がけているという著者は、数年前までは青山にオフィスを構え、30人近くの従業員を抱えていたという人物。ところがリーマンショックの影響で経営が悪化し、組織を空中分解させてしまったというのです。
つまり、そのような自身の失敗体験を軸に、「すべきこと」ではなく、「すべきでないこと」をまとめているのが本書。
「リーダーになること」から逃げていた
部下から好かれようとした
部下を叱ることから逃げてしまった
部下の「価値観」が理解できなかった
部下の成長を待つ根気がなかった
退職を未然に防げなかった
などなど、上司・先輩として「すべきでないこと」は、ひとつひとつが具体的。だから読者はここに書かれていることを、「すべきでないこと」として把握できるわけです。
自らの成功をこれみよがしに自慢するような書籍も少なくありませんが、そういうものはやはり説得力に欠けます。むしろ「失敗」を明らかにし、そこから「では、どうすべきか」を明確に示した本書には、強い説得力があるのです。そういう意味で、本書は多くの人に響くのではないかと思います。
「仕事が楽しい」と思えるマインドを伝える
ところで、モチベーションを保つことができない後輩に対し、上司が伝えられる、あるいは伝えるべきこととはなんでしょうか? おそらくそれは、理屈ではなく、「仕事が楽しい」と思えるマインドであるはず。
そこでご紹介したいのが、『いきいき働くヒント』(小山哲郎著、徳間書店)です。著者は、株式会社日本プレースメントセンター(JPC)という会社を経営している人物。おもに情報系専門学校の新卒者を採用し、システム運用要員としてスタートする彼らを、より価値の高い人材に育てることが仕事なのだそうです。
本書は、そのような役割を担っている著者が、毎月発行している社内報「翌檜(あすなろ)」のなかの「オヤマコラム」として、若い従業員(平均年齢27歳)に向けて送っているという「オヤマメール」という連載記事をまとめたもの。
若い彼らの意識や行動がよりよい方向に変容するきっかけになればと思いつつ、できる限り自分が実際に体験したことを書いているのだそうです。つまり若い世代は、その内容を"自分ごと"として受け止めることができるわけです。
発行は2015年なので少し時間は経っていますし、著者も認めているように話題も決して新しいわけではありません。しかしそれでも推すことができるのは、書かれていることが時代を超えた普遍的な考え方ばかりだから。
そのため、「これ、いいよ。よければ読んでみて」と、さりげなく後輩に勧めることができるわけです。また同時に、先輩である人にとっても、手元に置いておく価値のある一冊だと言えます。
広告マンとしての立場から若者の生態を切り取った『若者わからん!』、自分自身の"黒歴史"をもとに「こんなときはどうすべきか」を明かした『私が「ダメ上司」だった33の理由』、そして、社会人としての普遍的な姿勢を示した『いきいき働くヒント』と、タイプも主張もさまざま。しかし、だからこそ、これらのなかから自分なりの「進むべき道」を見つけ出す可能性はあるのではないかと思います。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。