悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、職場の電話応対に悩む人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「電話が苦手で、どうしたらあがらずに応対できるでしょうか?」(49歳女性/IT関連技術職)
冗談でもなんでもなく、20世紀最大の発明は「メール」だと僕は思っています。「いや、インターネットのほうが上だろう」という反論があっても当然。そのとおりかもしれません。けれど個人的には、やはりメールの出現に大きな意義を感じるのです。
なぜなら、メールにとても助けられたから。
簡単な話で、つまり基本的に僕は電話でのやりとりが苦手なのです。当然のことながらいまでも得意ではありませんが、昔の電話でのトークは、さらにひどかったのです。
・相手の顔が見えないと、とにかく緊張してしまう
・だから自分でも気づかないうちに、話す速度が上がってしまう
・話す速度が上がると、さらに余裕がなくなる
・もともと滑舌が悪いので、"余裕のない早口"になると、さらに泥沼状態
電話で話すたび、多少なりともこういうことになるわけです。そのためかつては、電話をかけなくてはならない用事があったりする場合、その数時間前から重たい気持ちになってしまったのでした。
しかし、そんなストレスをメールが解消してくれたのです。なにしろ話す必要がありませんし、書いたものなら読みなおせばミスにも気づけます。ミスがあったら書きなおせばいいので、伝えたいことがきちんと伝わるようになり、コミュニケーションがだいぶ改善されたということ。
ただし、だからといって電話をする必要がなくなったわけではありません。ビジネスであれプライベートであれ、人とコミュニケーションする際には、メールだけでは立ち行かないこともあるわけです。
僕自身がそんな人間なので、「電話が苦手」だというお気持ちはとてもよくわかります。そこで今回は、電話が苦手な人に役立ちそうな3冊をチョイスしてみました。
「声」と「話し方」
『たった1日で声まで良くなる 話し方の教科書』(魚住りえ著、東洋経済新報社)の著者は、フリーアナウンサー。日本テレビのアナウンサーとして報道、バラエティー、情報番組などさまざまなジャンルをこなして実績を積んだのち、フリーアナウンサーとして独立した人物です。
話すことのプロフェッショナルであるわけですが、そんな立場から、本書においては「声」と「話し方」に焦点を当てています。
話すことに苦手意識を持っている人は、「声」「話し方」を「高いハードル」と捉えてしまうかもしれませんが、そこまで気負う必要はなさそうです。なぜなら、「ほぼ100%の人が、声や話し方にまつわるなんらかの悩みを持っているといっても過言ではない」というのですから。
事実、かつての著者も同じだったそうです。そして、そんな過去があるからこそ、「声も話し方も、ちょっとしたコツで劇的に変わる」と断言しています。簡単なコツを実践するだけで、声も話し方も劇的に変わるというのです。
本書は、そんなコツを50にまとめたもの。もとになるテキストのようなものがあったわけではなく、すべて著者が経験や失敗からひとつひとつ学んできたものなのだそうです。
もちろん、電話で話す際のコツも紹介されています。具体的には、電話のときは「低い声」で相手の緊張を和らげることが大切なのだというのです。
たとえば一対一の電話では、声が高すぎると、エネルギー量が多すぎて相手が疲れてしまいます。
とくに、電話の場合は意識して声を下げてエネルギー量を減らすことが大切です。
ところが声が低いと、今度は暗い印象になりがちなので、それを防ぐために、電話中は口角をきちんと上げて、口元を緊張させておくことが大切です。
もちろん相手には見えませんが、口角を上げて話すことできちんとした感じが出て印象がよくなり、相手も落ち着いて聞いてくれます。(73ページより)
なるほど、これだけでも印象は改善され、心にも余裕が出てくるかもしれません。試してみる価値はありそうですし、他にも応用できそうなアイデアが本書にはたくさん詰まっています。
電話で話すときに守る4つのポイント
同じように、『「話す力」が面白いほどつく本』(櫻井 弘著、三笠書房 知的生きかた文庫)も役立ちそうな一冊です。なにしろ、電話での話し方だけのために一章、全16ページをも費やしているのですから。
きょうはそのなかから、「"相手が見えないからこそ"絶対に守るべき四つの法則」をご紹介してみたいと思います。
電話の最大の特徴は「相手が見えない」ということ。つまりは「言葉だけが頼りなので、次の4つのポイントを押さえておくべきだというのです。
ポイント(1)「どのように聞こえるか」に注意する。
電話は相手が見えないので、つい油断が生じます。見えないからこそ、いつも以上に、自分の言葉が相手にどのように聞こえるかを意識する必要があります。
ポイント(2)「態度」に気をつける
電話は相手から見えない分、耳で集中して聞こうとします。その結果、相手の態度・様子までわかってしまうのです。そして、たとえば、ヒジをついて猫背で話していたなら、当然、さわやかな声は出ませんし、してに暗い印象を与えてしまいます。
ポイント(3)主語や目的語を省略しない
大切なのは、「いつ、どこで、誰が、なにを、なぜ、どれくらい、どうするか?」という「5W1H」」をはっきりさせること。特に日本人の場合「主語」と「目的語」を省略してしまうことが多いので、電話に限らず、つねに意識して伝えることが大切です。
ポイント(4)第一声をさわやかに
非対面の電話の場合、「声の第一印象」をさわやかにスタートしなければ、その後のやりとりがうまく進みません。
さわやかな第一声を発するためには、ドレミの「ミ」の音で話しはじめましょう。対面しての「あいさつの声」を「ド」の音だとしたら、それより高い声で発声するのがひとつの方法です。
(以上、164〜166ページより抜粋)
『たった1日で声まで良くなる 話し方の教科書』の著者は「低い声で相手の緊張を和らげることが大切」だと主張していたので、本書の著者の意見とは少し違いますね。でも、TPOや自分自身の緊張状態に合わせて、ふたつの手段を使い分けてみればいいかもしれません。
電話が苦手な人に共通する問題
この本には、初対面の人と話を続かせるコツ、聞き上手になるコツ、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)がスムーズにできるコツ、効果的なほめ方や叱り方のコツ、スピーチやプレゼンがうまくできるコツなど、さまざまな話し方のコツを収録しました。(「まえがき」より)
この文章からもわかるとおり、『仕事ができて、愛される人の話し方』(有川真由美著、PHP研究所)は話し方全般についてのコツを紹介した書籍です。電話での話し方に限らず、「話し方」について、もっと広い視野で考えているのです。
そのため、自分自身の具体的な状況にあてはめて考えることが可能。電話応対についての項目はありませんが、電話が苦手な人に共通する問題に焦点をあてた「あがり症対策」の項目は特に役立つのではないでしょうか。
1:失敗したくないなら練習する
2:「緊張しています」と白状する
3:最初は一点を見て、視線を定める
4:味方になってくれる人を見つける
5:スピーチ前にだれかと関連の話をする
6:うまく話している自分をイメージトレーニング
7:「こんなふうに話したい!」という人になりきる
8:深呼吸で「失敗イメージ」を吐きだす
(以上、144〜145ページより抜粋)
ここにすべてを書き出すわけにはいきませんが、実際には各項目について簡潔な解説がつけられています。でも、上記の項目を意識しておくだけでも、電話で話す際の気持ちが多少なりとも楽になりそうです。
冒頭でも触れたとおり、僕もいまだに電話は苦手です。しかし年齢を重ね、わかってきたこともあります。それは、心に余裕を持つこと。
余裕がないから、早口になってしまったりするのです。「余裕なんか持てない」というのであれば、試しに意識してゆっくり話してみてはいかがでしょうか? 最初からうまくいくことはないかもしれませんが、試してみる価値はあるはず。
上記の3冊と同時に、そのことを参考にしていただければと思います。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。