悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、年下上司との関係にストレスを感じる人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「職場での(パート仲間)人間関係。私は年齢的には上なのですが、入社した順でいうと後になります。年下上司があきらかに間違った指示や仲間に対する嫌がらせをしていても、注意をすることが出来ません。良い方法があれば知りたいです」(47歳女性/販売・サービス関連)
昨年の末に、古い友人とひさしぶりに飲みました。彼は僕よりも何歳か下の、50代前半。すっかり落ち着いた雰囲気になっていたので、「大人になったなぁ」と時の流れを実感したものです。
ところが残念なことに途中から、ちょっと深刻な愚痴を聞くことになってしまったのでした。
「いや~、いつか来るんじゃないかと思ってたんだけど、いよいよ来ました」
「なにが?」
「社内での人間関係ですよ。ついにね、"年下上司"の下につくことになっちゃったんです」
「あー、よく聞くパターンだね」
「サラリーマンですからそれは想定内のことですし、従わなきゃいけないってことも理解はしてるんです。考え方が違ったとしても当然ですしね。ただ、予想していた以上に、私自身のプライドみたいなものが障害になっちゃってるんでよねー。それではいけないとわかっているのに」
納得できる話だと思いました。理屈ではわかっているけれど、彼にも30年近く積み上げてきたビジネスパーソンとしての誇りがあるわけです。でも、年下上司が現れたことによって、そうしたプライドを打ち砕かれてしまったのでしょう。
おそらく、どちらかが悪いというわけではなく、多くの場合は"どちらも正しい"場合のほうが多いのではないかと思います。けれど、そういうこと以前に感情が邪魔をしてしまうわけですね。また場合によっては、ご質問にあったような嫌がらせなどに発展していく可能性だってあるのかもしれません。
とはいえ仕事である以上、「あの人いやだ」では済まされませんから、やはり難しいところではあります。
年齢の呪縛を追い払う
そこでまずご紹介したいのが、『年下上司にイライラしない40の技術』(門脇竜一著、秀和システム)です。著者は、社会に出てから15年余の間に自動車販売会社(出向)を含め、プラントエンジニアリング・外食・化学と合計5つの会社を渡り歩き、そののち独立開業したという人物。現在は新入社員から管理職までを対象とした「階層別研修」の専門家として活躍しているそうです。
つまり本書ではそのような実体験を軸に、年下上司とつきあう上で心にとどめておきたいことを紹介しているわけです。
この本で何をおいてもお伝えしたかったのは、そして、あなたに会得してほしいと願っているのは、上司が年上だとか年下だとかいうのは、個人の単なる属性でしかなく、職場というチームで力を合わせて良い仕事をしていく上では、そんなに大事なことではないということです。
このことに気がつかない方が、意外に多いのです。持っていても仕方がない「こだわり」を捨てる人が環境の変化に対応できる強い人なのです。 職場チームの中での必要な役割を、それを務めるのにふさわしい人が、思い切り果たし切る。これぞ適材適所であり、全国の会社のさまざまな職場チームで必要とされているところです。(「おわりに」より)
年齢の「呪縛」を、意識のなかから追い払うことが大切だという考え方。そうすれば、柔軟に考えることができるようになるということです。
注目すべきは、年下が上司になるとわかったとき、「なぜ怒りの感情が湧き出てくるのか」という問いに対する答え。簡単な理屈で、つまり「自分のほうが上だ」と思っているからだというのです。
端的にいえば、年下のことを心のどこかで下に見ているということ。そのため、立場を逆転させられることに我慢がならないわけです。しかし当然のことながら、それではなにひとつ解決することはできません。そこで参考にしたいのが、「上司からのマネジメントを受ける名キャッチャーを目指す」という発想。
年下の上司を抱く年下部下(上級社員)の腕の見せ所は、上司からの指示への反応の仕方です。
たとえば、ある営業所において、売上の厳しい月末に所長が発破をかけるや否や、真っ先に受話器をとって、クライアントへの働きかけをするような年上の部下がいたら、ほかの部下も右に倣えと動くようになります。(中略)
年下上司にとっても、先輩風を吹かすことなく、自分の意向を詳しく語らずとも忖度して動いてくれる年上部下のリーダー的な動きは、本当にありがたいものです。部下役のリーダーと言ってもよいでしょう。
こういった動きをしてくれる人がいないと、いくら上司が旗を振ったとしても円滑な組織運営というのは叶わないものです。(80~81ページより)
「上司がどんな局面で、部下になにを期待しているのか」を理解できる年上部下は、上司を理解するプロ。著者はそう主張しています。それが年下部下の最大の強みだとも。たしかにそう考えれば、年下上司の下につくことにもメリットがあることがわかります。
自分の考え方を変える
『バカ上司の取扱説明書』(古川裕倫著、SB新書)は年下上司だけにフォーカスしたものではなく、上司との関係性そのものについての考えがまとめられたもの。しかし当然のことながら、その内容は年下上司との関係にも応用できるものばかりです。
野球では「いかにデッドボールを避けるか」を知っていないといけないでしょうが、果たしてそれで十分でしょうか。そうではなくて、「デッドボールも投げてくる投手から、いかにクリーンヒットを打つか」ということを考え、打てるバッターにならないと楽しい人生は送れないのではないかと思います。(「はじめに」より)
そうなるためには、場合によっては自分の考え方を変えることも必要でしょう。また、(ひどい上司を含めて)多くの人から高く評価される人になることが最大の近道だと著者は考えているそうです。
そこで本書では、まず「デッドボールの避け方」を、そしてそののち「クリーンヒットを打てる人材」になるためのヒントを解説しています。
暴言を吐いたり、人前で叱咤したりすることも、セクハラも、上司の上司だって知っているはずです。
今のご時世、ここは上司の上司に「パワハラ(セクハラ)問題があります」と言って出ましょう。何人かから申し出れば、上司の上司も解決しなければならない課題として強く認識すると思います。(76~77ページより)喧嘩をしても始まりません。優越感と劣等感を持ち合わせたかわいそうな人と思っていればいいです。きっと上司の上司も「たいしたヤツではない」と思っているのですから」(79ページより)
たとえばこうした考え方は、今回のご相談にある「あきらかに間違った指示や仲間に対する嫌がらせ」をしてくる上司への対処法としての参考になるのではないでしょうか。
両者が半歩下がる
『相手の「絶対に譲れない!」を「OK!」に変える 説得の極意』(河瀬 季著、大和書房)の著者は、誹謗中傷、風評被害、契約交渉、労働問題など多くのトラブルを解決してきた実績を持つ弁護士。しかも「元エンジニア」という肩書きもあるだけに、現場のビジネスパーソンの気持ちを理解しやすい立場にあると言えます。
トラブル状態になってしまった2人、あるいは2社の間に立つ時、ほとんどの場合「どっちもどっち」です。
互いに「100%自分が正しく、相手は間違っている」と思っているのですが、客観的な立場から見ると「どっちもどっち」である場合がほとんどなのです。(中略)
「どっちもどっち」は、言い換えれば「どちらもそれなりに正しい」という意味です。 「どちらもそれなりに正しい」のですから、まず、それぞれの正しい部分を大切にし、両者がともに満足し、納得するような合意点を探せばいいのです。(「はじめに」より)
これは、年下上司との関係についてもいえるはず。互いに譲らずキリキリとした状態のままでいたのでは、なにも改善できなくて当然。しかし両者が半歩下がってみれば、さまざまな答えが見えてくるというわけです。
著者は弁護士として、あらゆる人間関係の調整をしてきたといいます。本書には、そうした経験を通じて心がけていること、実践していることがまとめられているのです。
テーマは、「お互いが最大利益を得るためには、どのように相手を説得すればいいのか」ということだとか。
なるほど、交渉や説得によって、その問題に関わる全員が納得できる合意点を見つけ出せれば、なかなかうまくいかなかった年下上司との関係も改善できるかもしれません。
『年下上司にイライラしない40の技術』の著者も指摘していたように、年下上司との関係がうまくいかない原因の大半は「感情」だと思います。それがすべてではないでしょうが、多少なりとも「自分のほうが上だ」という思いがあれば、それが障害になっても無理はありません。だからこそ、一歩引いてみることも必要。もちろん納得できないことも多いでしょうが、同じ目線でやりあっていても、なにひとつ解決しないのですから。
だからこそ、一歩引いてみることも必要なのではないでしょうか。もちろん納得できないことも多いでしょうが、同じ目線でやりあっていても、なにひとつ解決しないのですから。
あえて冷静に現実を見据えてみれば、答えが見えてくるかもしれません。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。