悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、時間を有効活用したい人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「時間を有効活用するのが苦手で、つねに仕事が山積している」(34歳男性/総務関連)

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決して手を抜いているわけではなく、むしろ力を尽くしているはずなのに、いくらやっても仕事が終わらないーー。

そんな悩みを抱えている方は、決して少なくないはず。しかも思うように時間を使えなかったりすると、ご相談にあるように、つい責任を自分で抱え込んでしまいがちでもあります。

とはいえ当然ながら、自分を追い詰めても意味がありません。大切なのは、少しでも時間を有効活用し、精神的な負担を軽くすることなのですから。だからこそ、「苦手」だからと苦しみを倍加させることではなく、少しでも楽な方法を見つけるべきなのではないでしょうか?

そこでビジネス書の出番です。

「やること」を減らす

「こなさなくてはいけないこと」が次々に降ってくると、一日があっという間に終わってしまった経験、僕たちみんなが持っているのではないでしょうか。
そんなとき、人によっては「やり遂げた感」を感じるのかもしれません。でも、それって本当に時間をうまく使って、効率よくやれていたのでしょうか? ちょっと振り返ってみてください。(29ページより)

『やることを8割減らすダンドリ術』(飯田剛弘 著、大和書房)の著者は、このように問題提起をしています。根底にあるのは、朝から深夜、さらには週末までずっと仕事をしていた10数年前の自身の体験。

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    『やることを8割減らすダンドリ術』(飯田剛弘 著、大和書房)

やりがいもあったため「納得できる成果を出すためには、長時間労働は当たり前」と思っていたものの、そののち外資系企業に転職した際、「がんばり続ける」だけではうまくいかないことを痛感したというのです。

なぜなら、そこでは「定時内」で成果を出すことが求められたから。

自分の役割を果たすためには、これまでの働き方や考え方を根本的に見直す必要があると感じました。
そこで気づいたのが「余計なこだわり」を手放すこと。そうすることで、ムダなことが減り、自分の時間を有意義に使うことができるのです。
時間と労力をたくさん使って働くことが、結果を出すための唯一の手段ではない、ということを、このとき学びました。(30ページより)

このときの経験が、「自分がなぜ苦労していたのか」という新たな視点をもたらし、新しい自分と新しい世界を見つけるきっかけになったのだといいます。

事実、作業の量を減らしてみると、短時間で仕事が終わり、本当に定時で帰れるようになったのだそう。やって当然だと思っていた作業を見なおし、無駄かもしれないと感じた部分の作業回数を抑えることで、タスクを完了させる時間を短縮できるようになったというのです。

このときは、本当に、「自分の、これまでの考え方は一体何だったんだろう」と思いました。これまで、自分の勝手な思い込みで、自分が特に興味あるものでもないのに、意味不明にこだわっていたことに気づかされました。
やるべきことを増やしたり、減らせなかったりしたのは、主に「自分の思い込みが原因だった」ということです。(34ページより)

そう気づいてからは、「相手(お客様)にとって価値があることのみをやる」「効果が出ることだけに集中する」「それ以外は、自分のエゴ」「自分が本当にやりたいからやる」「こだわることはこだわるけど、どうでもいいことにはこだわらない」といった判断基準を持つようになったのだそうです。

「自分の時間」を確保する

同じく、『仕事に追われず自分の時間を確保する』(ハック大学 ぺそ 著、ポプラ社)の著者も次のように述べています。

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    『仕事に追われず自分の時間を確保する』(ハック大学 ぺそ 著、ポプラ社)

あなたがやっている仕事の半数以上は、「やるべき仕事」だと思います。ですが、中には案外あなたがやる必要のない仕事もあるものです。
「なんとなく」やっている仕事、「ずっとやっているから」やっている仕事、「やるのが当たり前だから」やっている仕事は、バイアスによって職場に残っているだけの無意味な(非効率な)仕事である可能性が高いのです。(「はじめに」より)

たしかに、目の前に積み上がったすべてが「やるべき仕事」ではないのかもしれません。ならば、まずは目の前にある仕事の質を客観的に判断することが重要。「そのタスクは、そもそもやる必要があるのか?」ということを考えるべきだということです。

そのため、時間の効率化などを考える前に、「タスクそのものをなくす」という観点を持つ必要があるのだといいます。

なぜ「なくす」ことが効率化よりも優先されるのかというと、「なくす」を実施することで生み出される時間が大きくなるためです。
業務を20%効率化しても20%分の時間が生まれるだけですが、その業務自体がなくなれば100%の時間が生まれます。(44〜45ページより)

そこで、まずは「なくす」ことからスタートしようという考え方。なお、なくすに際しては「タスクの目的」を考えることが重要。「はたしてその目的を達成するために、このタスクは必要なのか?」という視点でタスクを評価していかなければならないということです。

なお、どうしても「なくす」ことができない場合は「へらす」ことに頭を切り替えればいいようです。「やって当然」と思い込んできたタスクについて、「これをへらせないかな?」と考えてみるということ。

へらすことを考えるにあたって、「なにをへらせばいいのかわからない」という人は、タスクに目を向け、そこに隠れている数字に着目しましょう。(52ページより)

たとえば会議について考えてみるなら、重要なのは「開催は週1回」「参加人数は8人」「報告項目は5項目」など、"隠れている数字"をへらせないか検討すること。

その結果、「当たり前だと思い込んでいたことがじつは無駄だった」と気づき、頻度や人数などを減らせるかもしれないからです。そうすれば、それはおのずとタスク改善の大きな武器になるはず。

ちなみに「なくす」ことも「へらす」ことも難しいということもあるでしょうが、そんな場合でも、タスクの進め方や実施方法を「かえる」ことはできるのではないかと著者は指摘しています。

タスクを進める手順をかえたり、タスク処理の方法をかえたり、マニュアル(入力)でおこなっていたタスクにシステムを導入するなどです。(38ページより)

各部署からメールで送られてきた情報を、人事部の担当者が目で見て確認し、Excelに手動入力していたとしましょう。それは、いくつかの点で「かえる」ことができるというのです。

最終的にExcelに入力するのであれば、「報告フォーマット」を作成することはできそうです。フォーマットを事前に作成し各部署に共有しておくことで、人事部の担当者はそのフォーマットさえ確認すればいいので、数字を見落としたり見間違えるなどのヒューマンエラーの可能性は限りなく低くなります。(38ページより)

これはほんの一例ですが、(1)「なくす」、(2)「へらす」、(3)「かえる」という順序でタスクを評価していけば、評価の結果に応じて時間を生み出すことができるわけです。

「人生全体」から今なにをすべきか考える

さて、最後はもう少し大きなスパンで考えてみたいと思います。参考書籍は、『「人生が充実する」時間のつかい方』(キャシー・ホームズ 著、 松丸 さとみ 訳、翔泳社)。

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    『「人生が充実する」時間のつかい方』(キャシー・ホームズ 著、 松丸 さとみ 訳、翔泳社)

著者はここで、広い視野を持ち、数年、数十年という単位で考えることの重要性を指摘しています。その「俯瞰する」という戦略に効果があることは、データが示しているのだとか。

数百人に対して調査を行い、「自分の時間をどう思うか」尋ねたところ、大局的なものの見方をしがちな人ほど幸せであることがわかったというのです。

年齢や人工統計的な属性にかかわりなく、時間を俯瞰的に捉える人はそうでない人と比べ、生活のなかでよりポジティブな感情を抱き、ネガティブな感情は少ないことがあきらかになったのです。(273ページより)

また、人生全般への充足感も高く、生きがいも強く感じていたといいます。そうした人たちは、次のようなことばに強く同意することもわかったようです。

「私は、自分の時間を俯瞰し、人生におけるすべての瞬間を上から全体として見下ろしている」
「自分の時間を考える際は、まるでカレンダーを見下ろすように、日、週、月が目の前に広がっているかのように見る」
「自分の時間について、時間単位ではなく年単位で、大局的に見るようにしている」
「決断を下す際は、人生全体を考える」(273ページより)

たしかに目の前に仕事が積み上がっていれば、必然的に焦りが生じてしまうかもしれません。しかし広い視点を持ってみれば、精神的な余裕が生まれるはず。その結果、「いま、取り急ぎなにをすべきか」を客観的に判断することも可能になっていくわけです。

そういう意味でも、あえて大局的に時間を捉えてみることは大切なのかもしれません。