悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、副業を始めたい人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「副業を始めるにあたって、意識すべきことは?」(35歳男性/メカトロ関連)
数十年前に僕が勤めていた会社は「副業禁止」でした。会社側にさしたる理由があったとも思えないのですけれど、社の姿勢がどうというより、当時の社会ではそれが当たり前のことだったのです。
そんな時代を体験しているので、会社側が副業を推奨するような現代の動きには驚かされるばかり。もちろん深刻な経済状況がそうさせているわけでもありますが、いずれにしてもこうなると、働く側としては副業をチャンスとして活用したいところです。
やりたいことを実現する「スキルエンサー副業」を
とはいえ、「興味はあるけどどうやって始めたらいいのかわからない」という方もいらっしゃるはず。そこで、まずは「副業家」育成コーチである『やりたいことは「副業」で実現しなさい』(下釜 創 著、ダイヤモンド社)をご紹介したいと思います。
手軽にできそうな副業と聞けば、ネットワークビジネス、FXや仮想通貨などへの投資、UberEatsのような宅配・配送業、あるいはユーチューバーやアフィリエイトなどを思いつくのではないでしょうか?
しかし著者は、これらを副業の対象として認めていません。なぜなら、これらはみなお金や収入を得ることだけが目的だから。もちろんお金は必要ですが、こういうやり方だと長続きしないのは目に見えているわけです。
だとすれば、なにをするべきなのでしょうか?
私が提案しているのは、お金や収入が得られるだけではなく、心のど真ん中が満たされる、本当にやりたいことを、やりがいを感じながら続けられる副業です。これは、世間で言われるような表面的なやりがいではなく、心の奥底から満足できるくらい深いやりがいを得られる副業です。
お金・収入×深いやりがい=長く続けられる副業の理想形なのです。(「はじめに」より)
そこで著者は、「スキルエンサー副業」を勧めているのです。あまり聞きおぼえがないかもしれませんが、それは自分のなかにすでにあるスキル、眠っているスキルを活かした副業のこと。
たとえば、パソコンの表計算ソフトが使えない人からすれば、それを楽々使いこなせている人は「十分なスキルの持ち主」だということになるはず。趣味で動画投稿サイトにオリジナルのコンテンツを日々投稿している人も、初心者から見れば「立派なスキルを持っている人」です。
つまり、(もしかしたらいままでは趣味の一環でしかなかったかもしれない)そうしたスキルが、副業のタネになるということ。しかもスキルエンサー副業には初期費用や固定費がかからず、特別な資格も不要。したがって、リスクゼロですぐに始められるという特徴もあるわけです。
しかも副業は、本業に次のような3つのメリットをもたらすそう。
(1)メンタル面でのメリット
(2)タイムマネジメント面でのメリット
(3)人脈面でのメリット
(48ページより)
まずは(1)について。「自分には本業以外に副業もあるから」という安心感があると、将来に対する漠然とした不安やストレスから解放され、心にゆとりが生まれます。そのため、本業にはそれまで以上に心おきなく打ち込めるようになるということです。
次に(2)。未経験者の多くは、「本業だけでも忙しくて手一杯なのに、副業をするような時間の余裕はない」と思われるかもしれません。しかし、いざ始めてみれば、本業&副業のダブルワークも余裕でこなせるようになるそう。
なぜなら、無意識のうちに限られた時間を有効活用し、副業に充てる時間を捻出しようとするようになるから。そのため、次第にタイムマネジメントが上手になっていくわけです。
そして最後は(3)。副業を始めると、本業では出会えないような分野の人と知り合えるようにもなるので、人脈が一気に広がるということです。
そうした新たなネットワークを介して得られた知見の数々は、本業にもフィードバックされるはず。そればかりか、異なる人脈ネットワークとの交流で培われるコミュニケーションや人間力もまた、本業に大きく活かせるはずなのです。
「教える系副業」で才能をお金に変える
『あなたの中に眠る才能を楽しくお金に変える! 「教える系副業」のはじめかた』(仙道達也 著、PHPエディターズ・グループ)の著者は、比較的安定して多額の収入を得やすい副業として「教える系」の仕事を挙げています。
なぜ「教える系副業」がそれだけ稼げるのかというと、販売しているのが「知識」ではなく「成果」だからです。単に情報や技術を教えるだけではなく、相手が何としてもやり遂げたいと思っている目標を、マンツーマンのトレーニングなどで達成まで導いていくことができれば、それが困難な課題であればあるほど、対価は高くなります。(「はじめに」より)
いわばそれは、上記「スキルエンサー副業」の延長線上にある考え方だといえそうです。
ただ、教える以上は相応の知識が必要なのではないかという気がしなくもありません。しかし著者は、「知識」や「情報」は相対的なものでしかないと主張していまるのです。
たとえば自分の子どもに対しては、読み書きや算数の足し算、引き算を教えることができるはず。自分が中学生や高校生だったときも、後輩に教えてあげられることはいくらでもあったのではないでしょうか。そして会社に入って数年経てば、新卒の社員に仕事を教える必要性とも直面したに違いありません。
そんなところからもわかるとおり、自分が「教える」ことのできる相手、「教える」ことのできる知識は、自分が気づいていないだけで、じつはいくらでもあるということ。
もっといえば、「教える系」の仕事でいちばん大切なのは「知識」ではないということです。もちろん「知識」も大切ですが、それは仕事をしながら勉強することでいくらでも蓄えることができます。
それよりも重要なのは、お客様の「価値」を信じて、お客様自身にその「価値」を教えることです。(26〜27ページより)
たしかにそういう視点で捉えてみれば、自分に教えることができるものは決して少なくないということがわかるはず。だとすれば、それを副業にし、その可能性伸ばしていくことは重要な意味を持つでしょう。
多くの人は自分自身の「価値」に気づいていません。
つまり「自己肯定感」が低いので、すぐに「自分には無理」「自分にはできない」などとあきらめてしまいます。(27ページより)
しかし、それではもったいない。あきらめるまえに、まずはやってみればいいのです。なにしろ、初期費用をかけることなく、自分がいま持っている能力や知識、スキルだけでスタートさせることができるのですから。
副業をするうえで損しないための「税金」の知識
ところで、副業を始める際に見落としがちなのが税金の問題ではないでしょうか? 意識的には「本業で得られる収入を補うもの」かもしれませんが、仕事である以上は当然、税金がかかってくるわけです。
ただ、「副業に対する税金」についての知識を得る機会はそれほど多くありません。そこで参考にしたいのが、『副業をはじめたいんですけど、税金ってどうしたらいいですか?』(福島宏和 著、東洋経済新報社)。
日本初の確定申告専門税理士である著者が、副業をするうえで知っておきたい税の知識をまとめたものです。
副業をしている方は、本業だけでも忙しいことが多いです。そんな中、さらにがんばって副業をされているわけですから、税金の勉強にたくさんの時間はかけられませんよね。
でも、副業をしている、あるいは副業に興味を持っている方にとって、税金のことをしっかり理解しておくことは、じつはとっても大切なんです。
というのも、税金の知識がまったくないと、「2つの損」をしてしまう可能性が高いのです。(「はじめに」より)
まずひとつ目は、「お金の損」。事実、著者は「先に知っておけば損をしなかったのに、いまからでは間に合わない」という方からよく相談を受けるのだとか。たとえば「青色申告」を知らず、その申請が遅れてしまうと、10万円以上余計に税金がかかってしまったりすることもあるわけです。
また当然ながら、経費も"知らないと損してしまう"ことが多いトピックだそう。そもそも自宅で副業をしているのなら、家賃や光熱費も経費になることがあるのですから。
そして、もうひとつは「時間の損」。確定申告の時期になると慌てて1年分の作業をする方も少なくありませんが、前もって準備されていた方とくらべると時間がかかってしまうもの。そのため本業に支障が出たのでは、大きな損失になります。
逆に、税金の勉強に時間をかけすぎ、かえって本業や副業がおろそかになってしまうというケースもあるようです。しかも、そうやって得た知識が、知る必要のないマニアックな知識だったというようなオチもあったりするというのですから、笑い話にもなりません。
だからこそ、著者のノウハウが凝縮された本書のような書籍を活用するべきだということ。そうすれば、安心して本業や副業に専念できることでしょう。