悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「同じ営業職の同期と差がついて焦っている」人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「同じ営業職の同期と差がついてしまい焦っている」(30歳男性/営業関連)
なんでもご相談にある同期は、入社以来のいい友だちでもあるのだとか。だからこそ、営業としてのスキルに差がついてしまうとやや気まずくなったりもするのだそうです。
だとすれば、やはりなんとかしたいところ。ただし焦りは禁物ですし、自分を卑下するとさらに気持ちがネガティブになっていく可能性もあります。そこで余計なことはあえて考えず、できること、やるべきことを考え、実行していきましょう。
「売れている人」の考え方を知る
最初にご紹介する『らくらく売る人のアタマの中 営業・集客の心のブレーキの外し方』(今井 孝 著、ぱる出版)は、著者によれば「売ることがどんどん楽になる考え方」を紹介したもの。つまり、「売れている人の考え方」が網羅されているわけです。
ところでご相談のなかには「同期と差がついてしまった」とありますが、その部分だけを見ると、その同期はいかにも営業が得意そうに思えます。しかし、著者は次のようにいうのです。
売るのが得意だという人はほんの一握りです。ほとんどの人は苦手です。
営業が得意な人は明るくて、人当たりが良くて、話がうまい、というイメージがあるかもしれません。また、最初から勇気や胆力を持っていて、どんな場所でも物おじせず言いたいことを言えて、チャレンジできる人のように見えます。生まれつきの才能なのだと思うでしょう。
しかし、そんな人たちはほんの1割です。
残りの9割は、後から売れるようになった人たちです。まったく普通の人たちで、口下手だし、人見知りだし、勇気もそんなにありません。(8ページより)
では、そもそも「売れる人」はなにをしているのでしょうか? ポイントは「売ることへのブレーキを外す」ことにあるようです。専門用語でいえば「メンタルブロック」、すなわち思い込み。
心のなかに「売り込みをしたら嫌われる」とか「集客なんてかっこ悪い」というような思い込みを持っていると、本当に売れなくなってしまうわけです。そしてもうひとつ。売れている人は、それを楽しんでいるのだとも著者は述べています。そういう人は本当に楽しそうに、呼吸をするように集客営業をしているのだと。
さらには、「自分が商品やサービスを広げることで助かる人がいる」「その結果、世の中がよくなる」とまで思っているのだとか。つまり、売れるためのゴールは、「売ることを楽しめるようになること」だということ。
想像してください。もしあなたが、売ることへの苦手意識を消し去り、売ることに夢中になるくらい好きになれたらどうなるでしょうか?
営業で断られても、SNSやブログで告知をして反応がなくても、それ自体が好きなのでずっとやり続けられます。
そして、やり続ければ、結局は人が集まるし売上が上がります。(28ページより)
だからこそ、メンタルブロックを外す必要があるのでしょう。なお著者は本書において、代表的なメンタルブロックを次の8つに分類しています。
・失敗への恐怖 ・完璧主義
・欠乏感 ・楽したい気持ち
・他人の評価 ・確実性
・無価値感 ・短期的
(40ページより)
思い当たることもあるかもしれませんが、これらのメンタルブロックを取り除くことで、どんどん売ることを楽しめるようになるというのです。そして、次の主張も頭にとどめておく必要がありそうです。
「結果」を出すためには「行動」が必要であり、その「行動」のためには「行動したい!」という「感情」が必要なのです。
人は「やりたい」という感情がないと行動に移せません。人間はロボットではありませんので、決められているからとか、スケジュールだからというだけでは行動できません。自分の感情がワクワクしたら主体的に行動するし、嫌だなと思ったらサボったり、やらないようにできています。(31ページより)
そこでメンタルブロックを書き換え、売ることへの悪いイメジをなくしてしまう。そうすれば、「感情」を湧き上がらせることができるわけです。
自分の「キャラ」を活かす
一方、『キャラ営業の極意』(坂井洋子 著、ぱる出版)の著者は「キャラ営業」の重要性を説いています。営業なら誰でもいいわけではなく、「この人なら信頼できる」「この人とつきあいたい」と、営業自身が選ばれることが大切だということ。そのためには、自分の個性や強みを「キャラ」として表現し、活かしていくべきだというのです。
とはいえ、単に「キャラ」が立っているだけで、そんなにうまくことが運ぶものなのでしょうか?
「キャラ」を気に入ってもらっても、商品・サービスが良くなければ選んでもらえないかもしれませんが、商品・サービスが拮抗している場合、営業担当の「キャラ」で選ばれることは十分に考えられます。場合によっては、強烈に「キャラ」を気に入ってもらって、「この人に仕事を頼みたい」「この人と仕事をしたい」と思われたら、他の商品やサービスと比較されずに選んでもらえるかもしれません。(26ページより)
もちろん、「キャラ」にかまけて営業をサボっていたのなら問題です。しかし、営業力や商品力に「キャラ」が加わるのであれば、それは大きな強みやアドバンテージになる可能性があるということ。
とはいえ、なかには「自分は目立つタイプではない」と感じる方もいらっしゃるでしょう。けれども、著者はこう主張するのです。
目立つ「キャラ」である必要はありません。
誠実さ、几帳面なところ、など派手ではなくとも立派な強みです。
但し、その強みも表現しなければ、お客様に伝わりません。自分のキャラを受け入れてもらうためには、自分の「キャラ」を表現する必要があります。(29ページより)
たしかに、もしも自分の個性は出さずに、お客様に合わせた無難な対応をしたとしても、なにも変わらないはず。とくに嫌われない代わりに、とくに好かれることもなく、印象に残らず、誰が担当でも同じと思われてしまう可能性の方が大きいわけです。
それなら、自分の「キャラ」を表現して、自分らしく営業活動をして、受け入れてくれるお客様と付き合った方がお互い幸せです!
お客様とコミュニケーションの方法が合わない時は、営業スキルで補完できます。自分の「キャラ」を変える必要はありません。(30ページより)
つまり、自分らしさを活かした「キャラ営業」をするのであれば、無理せず自然体でいることが可能になるのです。そのため精神的負担を感じることはなく、結果も出しやすいということ。
私が営業で大事にしていたことは「お客様の期待以上の結果を出すこと」と「自分だからできる仕事をすること」でした。 誰が担当でも同じ仕事をしたのでは、自分が面白くない。
自分のキャラを活かして自分ならではの仕事をすると、積極的に取り組めるし、仕事が面白くなります! 仕事に積極的に取り組むと、結果が出てお客様に喜ばれるし、当然、売上も上がってきます! そして「キャラ」がより際立ちます!(31ページより)
自分の凹(弱み)を先に見せる
おもちゃクリエーターである『1分で読めて、悩みの種が片付いていく 1日1アイデア』(高橋晋平 著、KADOKAWA)の著者は起業1年目、いろいろな会社へ営業に行ったのだそうです。
そういった席で「アイデアや企画力がウリです!」というように自己アピールをしたものの、よい出会いはまったく起こらなかったそう。しかし、そんな当時のことを次のように振り返ってもいます。
凸(強み)を最初に語りながら他人にアピールして、それが相手の足りない部分である凹(弱み)に偶然ぴったりはまるなんて、奇跡のようなものです。マッチングは、自分の凹(弱み)を先に見せて、その形に相手の凸(強み)を合わせてもらう方がうまくいきます。弱みの形は変えづらいけれど、強みは前向きに形を変えて、相手の弱みに寄り添えるからです。(288ページより)
そのことに気づいた著者は次第に、「僕っておもちゃ開発者なのに絵が苦手で、デザインにも弱いんですよねー」など、自分の凹の話から始めるようになっていったといいます。するとお客様から「うちの強みはデザインなんだけど、商品アイデアがなくてね」というような話が聞けて、「じゃあ、企画を考えてみていいですか?」とマッチングが生まれるようになったというのです。
不安だと、どうしても先に強みを見せたくなってしまいますが、強みを押し付けても良いことはほとんど起こらないことを、起業して丸1年ほどかけてようやくわかりました。その後は営業しようとは考えず、凹と凸でくっついていろいろな人と友達になっていきました。(288ページより)
そのあとでようやく、人の役に立てる仕事ができるようになったとのこと。しかしこれは著者のようなクリエイターのケースに限った話ではなく、どのような営業活動においてもいえることではないでしょうか?
いずれにせよ、誰にも独自の営業スタイルがあるもの。それを見つけて突き詰めていけば、やがて結果につながっていくはずです。