悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「精神的な疲れが取れない」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「常に気持ちが張り詰め、精神的な疲れが取れない」(28歳女性/飲食関連)

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程度の差こそあれ、仕事に臨めば緊張状態が続くのは当然の話。したがって、疲れが取れにくくなってしまうことも充分に考えられるでしょう。しかも気遣いが求められる飲食関連となると、なおさら気持ちは張り詰めてしまうかもしれませんね。

とはいえ、そんな状態からはなんとかして抜け出したいもの。いつか緊張の糸がぷっつりと切れ、さまざまな弊害が生まれてしまうことになるかもしれないのですから。

「意味のない我慢」はやめていい

しかしその一方、仕事の場においては我慢しなければならないことが少なくないのも事実。そこが悩ましいところではありますが、『そんな我慢はやめていい』(午堂登紀雄 著、日本実業出版社)の著者は、このことについて重要な主張をしています。

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    『そんな我慢はやめていい』(午堂登紀雄 著、日本実業出版社)

我慢には「意味のある我慢」と「意味のない我慢」があり、後者に関しては「やめよう」と呼びかけているのです。ここでいう「意味のない我慢」とは、自分の成長や人生の発展に貢献することなく、ただ耐え忍ぶというような理不尽な我慢のこと。

パワハラや、飲食店であればカスハラ(カスタマーハラスメント)がそれにあたるでしょうが、そういった「意味のない我慢」を続けていたのでは、いつまでたっても気分は良くならないはず。それどころか、絶望したりうつ状態になったりする可能性も考えられます。

そこで、自分を追い詰める我慢、自分をイライラさせる我慢をやめるのです。(中略)大切なのは「意味のある我慢」と、やめていい「意味のない我慢」を峻別し、「ここぞ!」というときは我慢して「がんばる」、そうでないことは「流す」「やめる」「減らす」「逃げる」を選べる知性を獲得することです。(「人生で我慢しなければならない場面は少ないーーはじめに」より)

ましてや人と接することの多い仕事であれば、人間関係について我慢をすることも多いかもしれません。お客様との良好な関係を維持するためには、ある程度は自分を抑えたり、周囲に合わせたりすることも必要だからです。

とはいえその我慢が行きすぎると、人間関係は息苦しく、窮屈になってしまうはずです。誰とでも良好な関係を築きたいと思って、自分を押し殺してでもまわりに合わせて自分の本心を隠していたのでは、逆に誰ともいい関係を築けないのですから。

「こうすれば嫌われない(好かれる)のではないか」と思ってする我慢は、じつはまったく正反対で、むしろ自分を追い詰めているだけの行為なのです。(92ページより)

たしかに、ある程度は自分を出さなければ、「本当の自分が他人や社会にどう思われるのか?」についての反応を得ることはできません。だから、自分のどこをどう調整すればいいのかがわからなくなってしまうわけです。

そうなると、自分を出すことが怖くなり、ますます自分を隠してしまうという悪循環に陥ってしまうかも。しかし、本当はもっと自由に振る舞っても大丈夫なのだと著者はいいます。

「つい我慢してしまう人」はもともと気配り上手なのだから、むやみに他人を攻撃したりしなければ、少しくらい自分を出しても嫌われることはめったにないのだと。

興味深いのは、著者がここで24色の色鉛筆セットの話を引き合いに出している点です。

色鉛筆セットを見たときに、これは青みがきついからヘンだとか、これは赤みが弱いから価値が低い、なんてことは感じないでしょう。
どの色も、その色だからこそ価値があるわけです。
これは人間も同じです。あの人やこの人とは違う「あなた」という色を持っているからこそ価値があるのです。にもかかわらず、「いい人でありたい」「嫌われたくない」と、周りと同調して自分の色を消そうとすると、あなたの魅力まで消えてしまいます。少なくとも、周囲の人にはそう映ります。(93ページより)

しかしそれは、「自分を出さなきゃ」「個性的でなきゃ」と無理をする必要があるということではありません。あくまで自然体で、素のままの自分で生きることこそが大切だという考え方。

たしかにそのとおりでしょう。しかし困ったことに、それでも人間関係がうまくいかなくなることはあるもの。相手が上司であれ部下であれ同僚であれ、あるいはお客様であったとしても、人間関係がうまくいかないと気持ちがくじけてしまうわけです。

「くじけない」コツとは

けれど、もし気持ちを病んでしまった結果、信頼を得ることができなくなってしまったり、会社を辞めることになってしまったのではあまりに残念。では、どうすればいいのでしょうか?

この問いに対して『くじけない心のつくりかた』(植西 聰 著、あさ出版)の著者は次のように答えています。

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    『くじけない心のつくりかた』(植西 聰 著、あさ出版)

人間関係でも大切なのは、「工夫すること」なのです。
相手との距離の取り方を工夫する、という方法もあります。
相手に対する言葉遣いを工夫する、という方法もあるでしょう。
相手と一緒にいる時の過ごし方を工夫する、という方法もあります。
相手と一緒にいる時間を、もっと楽しく、もっと充実したものにするために、どんなことができるか模索し、工夫するのです。
そのような工夫をすることが、「人間関係でくじけない」ための大切なコツの一つです。(65ページより)

当たり前のことではありますが、それでも工夫という発想は新鮮です。ちょっとした工夫をしてみれば、緊張感も和らいでいくかもしれませんね。

いずれにしても、自分の気持ちと違った行動をしていたり、本音を隠し続けていたりしたら、いつかは限界が訪れることになってしまうでしょう。そこが難しいところ。

怒りたいときは怒っていい

そこで参考にしたいのが、『人生の主導権を取り戻す「早起き」の技術心療内科医が教える本当の休み方』(鈴木裕介 著、アスコム)。著者はここで、「怒りたいときには怒ってもいい」と主張しているのです。

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    『人生の主導権を取り戻す「早起き」の技術心療内科医が教える本当の休み方』(鈴木裕介 著、アスコム)

多くの人は、「怒り」という感情とつきあうことを苦手としているはず。社会に「人前で怒りをあらわにするべきではない」という暗黙の了解のようなものが存在していることもあり、多くの人が知らず知らずのうちに、怒りの感情を出すことを抑えてしまっているわけです。

しかし、「怒りに任せて相手を攻撃すること」と、「怒ること、怒りという感情を抱くこと自体を我慢すること」とはまったく異なります。
社会で生き抜いていくために、適切に攻撃性を発揮することはとても大事です。
直接的な暴力ではなく、コントロール可能な興奮を伴って発揮される「健全な攻撃性」は、支配的な相手から身を守ることや、交渉において意志を貫くこと、挑戦することなどにつながります。(252ページより)

著者によれば怒りとは、ラインオーバーしてくる相手を「押し返す力」として働き、他人との健全な境界線をつくるうえで欠かせない大切な感情。

怒りの蓄積を感じたときに交感神経が活発化し、イライラしたり心拍が速くなったりするのは、正常な反応だというのです。

相手に直接ぶつけられないとき、怒るべき相手が目の前にいないときなどは、ひとりで怒りのことばを口にしたり、紙に書いたりしてもいいようです。

怒りは、自分を不当な攻撃から守るための自衛官や警備員のようなものです。
決して的ではありません。
手放さず、うまく関係を作れるようにしましょう。(254ページより)。

つまり怒りを否定するのではなく、うまく共存していくことが大切なのでしょう。そうすれば、心を穏やかに保つことができるかもしれません。