悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、新年に読みたいビジネス書です。
あけましておめでとうございます。
新しい年になりました。今年は年号が変わる年でもありますから、気分も一新したいところですね。
もちろん、それは仕事についても同じ。いまからあれこれ思いをめぐらせ、「今年は○○を達成してみせよう」と、意欲に燃えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
僕も引き続き、この場でより多くのビジネス書をご紹介し、多少なりともビジネスパーソンみなさんの役に立てればと考えております。今後とも、よろしくお願いします。
さて、そんなわけで今回は新春特別企画……なーんて、おおげさなものではありませんが、せっかくなので「新年に読みたいビジネス書」をテーマに選書してみました。
成果を最大にする「考える力」を高める
まずは、『考える力とは、問題をシンプルにすることである。』(苅野 進著、ワニブックス)。「『本当に取り組むべき問題(イシュー)』を見つけ出す力をつけてもらうため」に書かれたものだそうです。
問題解決力が高い人、創造力がある人、生産性が高い人、仕事が速い人など「考える力」がある人は、この力を持っているもの。そして、最小の労力、資本、時間で、最大の効果を生む問題を見つけ出せる人だと著者は言うのです。
つまり彼らのように「根本的な解決策を生む、本質的な問題」を設定できれば、ビジネス、仕事、勉強などの作業量は減り、スピードが上がり、成果が最大になるということ。
「考える力」とは、「解くことができる問題」を見つける力であり、「よい問題」とは、
・解くことができる
・解いたら効果が出る
という2つの条件が揃ったものだといいます。そこで本書では目の前の複雑な混乱状態に惑わされることなく、「解くことができて、解いたら効果が出る」というシンプルな問題を設定できるようになることを目指しているというわけです。なぜなら、それが最も大事だから。
ちなみに著者は、小学校1年生から高校3年生までを対象に、「問題解決力」を養うことを目的とした学習塾「ロジム」を運営している人物。従来の「見たことのある問題を教わった解法で解く」という反復練習ではなく、「見たことのない問題に対して、どうアプローチしていくか」について議論しながら学んでいるのだそうです。
本書は私の学習塾での指導経験と、経営コンサルタントとしての経験を活かし、「問題を正しいものとして扱う学校教育」と「問題を自ら設定することが求められる社会人」を橋渡しするために執筆しました。
15年にわたって小学生低学年の生徒でも理解できるように授業を設計してきた経験が反映された、わかりやすい内容になっていると思います。(「はじめに」より)
「なぜ、LINEに登録するだけで"大きな割引"をしてくれるのか?」「ブックオフとバイク王のCMが『売るなら』である理由」など、着眼点もユニーク。「考える力」を、無理なく高めることができそうです。
ハーバードに学ぶ「共感」「幸福」の力
「ハーバード・ビジネス・レビュー(Harvard Business Review)」(HBR)とは、ハーバード・ビジネス・スクールの教育理念に基づき、1922年に同校の機関誌として創刊された世界最古のマネジメント誌。
そして1976年に創刊された「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」(DHBR)は、HBR誌の日本語版。HBR論文と日本オリジナルの記事を組み合わせ、時代や状況にあったテーマを特集として掲載していることで知られます。
『共感力』(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部/編、 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部/訳、ダイヤモンド社)と『幸福学』(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部/編、 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部/訳、ダイヤモンド社)は、そのダイジェスト版。
まずは『共感力』。その内容について、脳科学者である編者はこう説明しています。
知能よりも共感力が重要であってほしい……。なぜか私たち人間には、そう願う人が多いようです。(中略)また私たちは、知能が高い人よりも共感力が高い人のほうに好感を持つ、ということも事実です。残念ながら、成績がよいだけではむしろ畏怖の対象となり、協働的に仕事をするというわけにはいかないこともしばしばあります。(中略)
嫌われるかもしれないという可能性を私たちは恐れます。そして、自分が好感を持っている相手のようになりたいと望む性質があるのです。これはつまり、畏怖されるよりも好感を持たれたほうが人間社会のなかでは生きやすいのではないかという仮説を無意識的に立て、それに基づいて多くの人が生活を営み、共同体を形成しているということにほかなりません。(「[日本語版に寄せて] なぜ共感力が必要とされるのか」より)
つまり、いまこそ「共感力」が求められているということ。そこで本書では、HBRの論客による「共感力」についてのさまざまな考え方を紹介しているのです。11種の論文が簡潔にまとめられているため、自身のビジネスに役立つ知識を無理なく身につけられるのではないかと思います。
そして次は『幸福学』。読んで字のごとく、「幸せ」についての学問です。でも、なぜ幸福学が重要なのでしょうか? このことについても、編者の言葉を引いてみることにしましょう。
私は日本企業の幸せの研究や、日本人の幸せの統計的研究を行っている。日本の幸せな会社を取材すると、その結果は、一見、本書で書かれたことと似ている。すなわち、仕事ができる社員は幸せな人であり、社員が幸せな会社は経営状態が安定した良い企業である。だから、社員を幸せにすべきである。経営者は、社員を幸せにすることを、社会を幸せにすることを同じように、会社の理念に掲げるべきである。(「[日本語版に寄せて] 幸せに働く時代がやってきた」より)
だからこそ「幸福学」も、現代に必要な学問なのかもしれません。なお編者は本書のことを、「さまざまな知見が濃縮されたバランスのよい本」だと評しています。「幸せ観は人それぞれなので、賛同する視点と疑問を持つ視点を併せ持ちながら、よいところは取り入れ、合わないところはあえて取り入れないという取捨選択をしながら味わってほしい」とも。
新しい年がスタートしたタイミングで、幸せについて考えてみるのもいいかもしれません。
今回は「新しい年」を意識してこの3冊をチョイスしてみましたが、次回からはまたいつものように、テーマに沿った選書をしていきたいと考えています。取り上げて欲しいテーマも引き続き募集しておりますので、ご希望があればどんどん教えてください。
では、本年もよろしくお願いします。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。