悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「上司に話が伝わらない」という人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「上司に話が伝わらず、関係がギクシャクしている」(29歳女性/事務関連)
もちろん、それを肯定するという意味ではありません。けれども現実問題として、「上司に話が伝わらない」というケースは往々にしてあるものです。上司に理解力がない場合もあるでしょうし、あるいはこちらの伝え方に原因があるということも考えられます。
いずれにしても残念ながら、それは「あること」なのです。
しかも「伝わる、伝わらない」というレベルを超え、いつしか人間関係までもがギクシャクしてしまうのだとしたら、話はさらに厄介ですよね。
人の考え方や価値観はそれぞれ違いますし、ましてや上司と部下という関係性であれば、解決するために乗り越えなくてはならないハードルは、さらに高くなってしまうに違いないのですから。
ところで「伝わらない」ことについて悩んでいる方には、「一生懸命話したにも関わらず、相手から『で、結局なにがいいたいの?』『話が長いんだけど』などと指摘されて頭が真っ白になってしまった」という経験もあるのでは?
「1分で伝える」コツ
そんな場合、まずは「伝えるスキル」を磨く必要があるかもしれません。そこで参考にしたいのが、『「結局、何が言いたいの?」と言われない 一生使える「1分で伝わる」技術』(沖本るり子 著、大和出版)。
著者は、ビジネスパーソンの伝え方に関する悩みを解決すべく、「話を1分以内にまとめる」を合言葉にして研修や講演を行なっているという「1分トークコンサルタント」です。
上司も部下も忙しく動き回っている毎日。きれいな声で丁寧に話さなくていいから、大事な要素だけを簡潔に伝えてほしいと、みんな心の中で思っているはずです。
つまり、本当に現場で使えるのは、いきなり意見を求められたり、上司に話しかけられたりしたときのような、とっさのシーンでこそ使える方法。
そして、その方法の肝となるのが「1分で伝える」ということなのです。(「はじめに」より)
たとえば「なにがいいたいのかわからない」といわれる人には、ひとつの傾向のようなものがあるのだといいます。著者が紹介している、「よくあるやりがち例」を確認してみましょう。
「夏休みは9月に取得する予定で、有給休暇も含めて10日間で、安価で近場なところと考えて韓国へ8日間行ってこようと思ってるので、今、韓国のどこに行こうかと調べてるんですよ」(44ページより)
このように「〜で」「〜ですが」「〜なので」「〜が」などの接続詞を一文にして連呼すると、聞き手は耳につきやすいそれら接続詞に意識が向いてしまうもの。そのため話の内容が頭に入りにくくなるわけです。
問題は、これがクセになると、だらだらと話が続き、自分では気づかないうちに一文が長くなってしまうこと。著者も、これまで自身が見てきたなかで「話が長い」「なにがいいたいのかわからない」と感じる人には「接続詞の多用」という共通点があると指摘しています。
そのため、話を聞きやすくするためには、一文で接続詞を多用しないように心がけるべき。接続詞を多用するクセがついている人は、「一文で1回まで」と決めておくとよいそうです。
そのことを念頭に置いて、上記の文章を修正してみましょう。
「夏休みは9月に取得する予定で、有給休暇も含めて10日間です。安価で近場なところと考えて韓国へ8日間行ってこようと思ってるので、今、韓国のどこに行こうかと調べてるんですよ」(44ページより)
違っているのは「夏休みは9月に取得する予定で、有給休暇も含めて10日間で、」と以後も続いていく話が、「夏休みは9月に取得する予定で、有給休暇も含めて10日間です」と一度終わっているところのみ。
しかし、たしかにそれだけでも話がずいぶんわかりやすくなります。
「安価で近場なところと考えて韓国へ8日間行ってこようと思ってるので、今、韓国のどこに行こうかと調べてるんですよ」という部分も「安価で近場な韓国へ8日間行ってくるつもりなので、韓国のどこに行こうか調べているところです」とすればさらに簡略化できますが、いずれにしてもこうした工夫をしてみるだけで、相手に伝わりやすくなるわけです。
次に進みましょう。
自分で自分を満たしてあげる
「話が伝わらない上司との関係がギクシャクしている」のであれば、それはたしかに困りもの。しかし、そんな思いの根底には、「他人とうまくやらなければならない」「人間関係を壊してはならない」というような思い込みがあるのではないか?
『いま、人間関係に悩んでいるひび割れさんの本』(塩川哲郎 著、啓文社書房)の著者はそう述べています。
その場の空気を壊したくないがために、「いいたいことを我慢したほうがいい」と口をつぐんだり、関係が壊れることを恐れるあまり、「私が悪者になろう」と悪役を買って出たりします。和を尊重し、関係を守ろうとするあまり、自分のことを犠牲にしがちなのです。
その結果、人間関係が嫌になって引きこもりがちになってしまったり、人と深く関わることが苦手になることもあるのではないでしょうか。(142ページより)
しかし、そもそも人間関係とは、そこまできれいにまとめなくてはならないものではないはず。むしろ良好な人間関係とは、「そこにいるすべての人が自分らしくあること」だと著者は考えているそうです。
だとすれば、「その場の空気を壊さないように、いいたいことを我慢している人がいたり、不快だと思っているにもかかわらず、取り繕って笑顔でいる人がいたりする」のはよい人間関係だとはいえないでしょう。
では、どうすればいいのか?
大切なのは、まず自分が心地よいと思えること。それがなにより大切なのだと著者はいいます。
もしもあなたが人間関係で疲れているのなら、「自分に足りないところがあったのではないか?」と足りないところ探しをするのではなくて、自分で自分を満たしてあげることを始めてみてください。(143ページより)
とはいえそれは、難しいことではなさそうです。たとえば「最近は疲れているからゆっくりしたいな」と思うのであれば、思う存分ゴロゴロするのでもOK。好きなことを思い切りしたいのなら、スマホの電源を切って、自分だけの時間を確保するのもひとつの方法でしょう。
つまりはなんであれ、自分で自分を満たすことができればいいということ。「上司との人間関係とは違う話じゃないか」と思われるかもしれませんが、そうやって自分を心地よい状態においてこそ、他人との関係においても見えてくる景色が変わってくるということです。
そういう意味では、すべてがつながっているのでしょう。
上司の嫌なところをノートに記録する
ただ、とはいっても上司との関係性を良好にすることはやはり困難。したがって部下としては、「上司をうまく活用して仕事を楽しくする方法」を考えていくべき。
『上司との悩みを成長に変える賢い方法』(鳥原 隆志 著、日本能率協会マネジメントセンター)の著者はそう主張しています。そのために大切なのは、「上司を反面教師として、自分の上司像を構築すること」だとも。
人は誰しも、どこかにいいところがあるはず。ただし相手が上司である場合は、悪い特性ばかりが目に入ってしまうものです。
しかし、そんな悪い特性は、自分自身にとっての学びになるものでもあります。著者はそれを「反面教師」と表現しているわけです。
上司の良いところはすぐには見つけにくいものですが、悪いところはノートいっぱいに書けるほどあるという方も多いと思います。
これらはあなた自身が将来犯すかもしれない失敗を、先回りして実演してくれていると考えれば、素晴らしい教えになるのではないでしょうか?
失敗は最大の学びの要素でありますが、どのようにしたら失敗するのかを実演してくれているのが上司かもしれません。(231ページより)
そこで、上司の嫌なところをノートに記録しておくべきだと著者はすすめています。なぜなら、それを自分が上司になったときの「やらないこと10か条」に入れておけば、自分の上司像は素晴らしいものになるはずだから。
この上司像はとても大事で、あなたが部下を持った時に大いに役立ちます。 つまり、部下にあなたと同じような嫌な思いをさせたくないのであれば、今の上司から大いに学んでほしいわけです。(231ページより)
やはりここでも、すべてはつながっているという解釈が成り立つようです。つまりは目先の感情に左右されるのではなく、部下としての立場から未来を見据えて判断し、行動するべきなのでしょう。