悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「がんばっているのに仕事が楽しくない」という人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「がんばっているのに、仕事が楽しくない」(28歳女性/事務関連)
今回のご相談内容を拝見して感じたことがあります。語弊はあるかも知れませんが、「がんばりすぎているのでは?」ということ。
もちろん、まじめにがんばることは大切で、とても意味のあることだと思います。しかし、がんばり方も非常に重要。
がんばりが度を超えると、自分を追い込んでしまうことにもなりがちだからです。その結果、知らず知らずのうちに自分を追い込んでしまっていたとしたら、次第に「楽しくない」という気持ちにつながっていったとしても不思議ではありません。
また多くの場合、「がんばってしまう人」はまじめな性格であり、そのため仕事に対して完璧さを求めてしまいがちなのではないかとも思います。なにをするときにも、心のどこかに少なからず「100点満点でなければ」という気負いがあるということ。
楽天的に考える習慣を
しかし『心を立て直すヒント』(植西 聰 著、青春出版社)の著者は、完璧な結果が出なかったとしてもいいのだと断言しています。むしろ、楽天的な考え方によって人間は成長できるのだと。
たとえ80点の出来具合であっても、取引先や上司が「それでいい」と言うのであれば自分も満足し、後の20点は次の仕事の課題として取っておけばいいのです。
そのように楽天的な考え方に立つほうが気持ちが楽になります。
自分としては物足りない点があったとしても、すぐに立ち直って、「次の仕事をがんばろう」という意欲が大切なのです。(57ページより)
そのとおりではないでしょうか? そして、とくに重要なのは「次の仕事のことを考える」という点。
理想どおりの成果を得ることができず、「100点満点を取れなかったから、自分はダメだ」と落ち込んでいたとしたら、その時点でモチベーションは下がってしまうはず。その結果、次の仕事の集中力が減退し、50点も取れなくなってしまうかもしれません。
でも、それでは意味がありませんよね。だからこそ、あえて楽天的に考えることが大きな意味を持つわけです。
「80点でも満足だ。後の50点は次の課題だ」と楽天的に考えることができれば、次の仕事で90点をとれるはずです。(57ページより)
そうやって気持ちを楽に持ちながら、段階的に点数を上げていけばいいだけの話。
自分に厳しくすることも、努力することもたしかに大切です。しかし、だからといって必要以上の努力する必要はないはず。むしろ楽天的に考える習慣をつけることで、いろいろなことが楽になり、人間的にも成長していけるというわけです。
頑張るのをやめる
このことに関しては、『頑張るのをやめると、豊かさはやってくる』(アラン・コーエン 著、本田 健 訳、PHP研究所)の著者も次のように述べています。
たいていの人は自分がじゅうぶんに努力していないと思っていますが、実は本当に問題なのは、自分自身に厳しすぎるということです。いまの世の中では、ストレス、あまりにも高すぎる自分への期待、絶え間ない自己批判によって、内部から不自然なプレッシャーが生じて、自分自身を萎縮させてしまっています。あなた自身、あなたの財産、あなたの生活のためにできる最大の贈り物は、もっと自分に甘くなることです。(96ページより)
もちろん、いまの自分の力量を上回る目標を掲げ、それを達成しようと努力することが自分のためになることだって少なくはありません。
しかし、だからといってそのことを言い訳にして無理したとしたら、結果的には自分が成功することを自ら邪魔するような結果になってしまうかも。
だからこそ、なにごとにおいても根を詰めすぎる傾向にある人に対しては、「そういった長年の習慣をくつがえし、人生のあたりまえの喜びと満足を感じられるようになるべき」だと著者は主張しているのです。
そのためにまずすべきは、「自分がこれまでやってきたやり方では、求める幸せは手に入らなかった」と認識することだそう。
内なる心のやすらぎを得てこなかった人は、お金、名誉、権力、称賛の言葉の類を、くだらないとは思えないはずです。しかし、過剰に奮闘を続ける人もたいていある時点で、人生にはこれ以上の何かがあるのではないか、ということに気づきます。それはとても意味深く、神聖だとさえいえる瞬間です。(98〜99ページより)
次の段階では、強迫観念にまかせて自分を酷使することがもはや快感ではなくなっていることに気づきはじめるはず。また、そんなときには、よくないことが起こったりもするものです。仕事をクビになったり、法律上の問題に巻き込まれたり。
しかし、そうしたすべては自分に注意を促す警報なのだと著者は述べています。
もうひとつ重要なのは、いつでも「リラックスすることで次に進める」という意識を持つこと。したがって、ストレスを感じていると認めた瞬間に、「次に進むにはどうしたらよいか」と自分自身に問いかけるべきだというのです。
たとえば、次のような方法で「次に進む」ことができるそう。
・長く、ゆっくりと、深い深呼吸を繰り返す。
・机から離れて、洗面所へ行き、顔に冷たい水をかける。
・軽い散歩をする。
・議論が白熱してきたら、自分の考えをまとめるために、小休止を提案する。
・友人に電話をかけて短い雑談をする。
・フィットネスクラブに行って運動をする。
・マッサージしてもらう。
・好きな音楽をかける。
・昼寝をする。
・祈る、もしくは瞑想をする。
・楽しい映画を見る。
・犬や猫と遊ぶ。
(100ページより)
これらは例に過ぎませんが、つまりは緊張を和らげてくれることであればなんでもよいわけです。
「どうすればちょっと息抜きできるか」を自分に問いかけてみてイライラを鎮めれば、次の段階がはっきり見えてくるものだということ。
といっても大きなことをする必要はなく、小さな一歩で十分。
それが積み重なって大きな一歩になるのです。小さな段階を踏むことは、自分をむち打って進もうとする人には特に有効です。どこにたどり着くかよりも、どこにいるかで人生の充実度が決まることを学ぶ必要があるからです。(101ページより)
自然体で生きることがなにより大切
いっぽう、人工知能研究者/脳科学コメンテーターである『前向きに生きるなんてばかばかしい 脳科学で心のコリをほぐす本』(黒川伊保子 著、マガジンハウス)の著者は「『自然体で、がんばらない』は最強である」と主張しています。
戦略がないくせに、「前向き」に生きたいと切望するから、「よかれと思って」のつぎはぎができ上がる。それは最もばかばかしい道なので、努力するなら、せめて戦略的であってほしいと思うのだが、実のところ、戦略のないほうがずっといいのである。(29ページより)
つまり、自然体で生きることがなにより大切だという考え方。ときには好奇心に駆られてがむしゃらに走ることがあったとしても、あえて「前向きに努力をしよう」という発想はしないほうがいいということ。
本人はただ遊んでいるだけ。なのに、その「遊び」が限界を超えて究極を作り出し、どこまでも高みへ行ってしまう。
それこそが、人類の脳の理想系なのだ。(30ページより)
向き合っているものが仕事である以上、それを「遊び」と置き換えることは難しいと思われるかもしれません。しかし、これは意識、気持ちの持ち方の問題。そう考えればこのことばを仕事に当てはめることは充分に可能であり、結果的に"仕事に対して自分がとるべき姿勢"が見えてくるのではないかと思います。
私は幼い頃から、ずっと心に引っかかっていたことがある。
なぜ、人は前向きでなければならないのだろうか。そもそも、前向きってどっち向き?(中略)
60歳になろうとしている今でも、「前向き」がどっち向きかよくわからない。ためしに、脳科学で「前向きに生きる」とは何かを分析してみると、やはり、脳にとっては得策じゃなかった。その先に光はあるみたいだが、細く過酷な道を行くことになるのである。(35ページより)
だから、「人生は楽しんだほうが勝ち、勝負は遊んだほうが勝ち」だと思うというのです。なるほど、そう考えておけば、少なくとも不要なストレスは排除できるようになれそうです。