悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「部下をうまく動かせなくて困っている」と悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「部下をうまく動かせなくて困っている」(33歳男性/営業関連)
「伝えたいことが伝わらない」「いうことを聞いてくれない」など、部下とのコミュニケーションに関する上司の悩みは尽きないもの。年齢も価値観も、育ってきた環境も異なるとなれば、悩みを抱えてしまうのも当然ではあります。
しかし、だからといって自分を追い詰めてしまうのは避けたいところ。違った人間同士である以上、必ずしも上司が悪いとは限らないのですから。
そこで、そんなときこそビジネス書の助けを借りてみるべき。いろいろな書籍に目を通してみれば、なにかのヒントが見つかるかもしれません。
相手の"自己重要感"を高める話し方とは?
人の心は想像以上に繊細なものです。
特にリーダーの言葉というものは、思いのほか、下の立場にいる人に大きな影響を与えます。
しかし、それはいい意味で使うと、相手の可能性を大きく引き出せるということにもつながります。
うまくいくリーダーは自然と相手の自己重要感を高める話し方をしています。私はこれを「フォーユートーク」と呼んでいます。平たく言えば「相手のことを思い、寄り添いながら話をする」ということです。(46ページより)
『リーダーは話し方が9割』(永松茂久 著、すばる舎)の著者はこのように述べています。優秀なリーダーは、フォーユートークを自然に使いこなし、部下の自己重要感を高めているというのです。そこで、著者が提示しているフォーユートークについての大きなポイントを確認してみましょう。
1:相手を主役にして話をする
人は誰しも自分自身のことを無意識のうちに考えながら生きているもの。そのためフォーユートークができるリーダーは、つねに「私は」より「あなたは」を多用しているのだとか。
自分を主役にして話してくれる人というのは、普段からたくさん考えているその人自身のことを言語化してくれる人なのです。(48ページより)
2:相手に疎外感を与えない
うまくいくリーダーは、常に目の前にいる人に関係のある話を心がけます。(49ページより)
なぜなら、人は自分の興味のない話をされると疎外感を持ってしまうから。そしてその気持ちが高まると、「私には関係のないことだから」と話を聞くことをやめてしまうことになる可能性も。そうならないように、うまくいくリーダーは相手が話に参加するゆとりを生み出していくべきなのです。
3:相手を否定しない
どんな人でもそれぞれの気持ちや信念を持っていますから、それを否定されてしまうと、自分の存在を否定されたような気分になってしまうことでしょう。したがって、相手を否定することは禁物。
相手の考えを一概に否定するのではなく、まずはいったん相手の考え方や気持ちを受け入れることがスムーズに相手と話を続けていくための第一歩になります。(50ページより)
4:事前に相手の興味を知っておく
フォーユートークができる人は、相手とうまくラポール(心を通じ合わせること)を構築することに長けています。そういう人はまず会話する際に、相手はどんなことに興味を持っているのか、どんなものが好きなのかということをしっかりと理解することから始めます。(51ページより)
なお、最初に意識すべき基本は、相手の話をよく聞くことのようです。
5:相手が自分の未来にワクワクできるように話す
うまくいくリーダーは、
「ちょっと想像してみてほしい。あなたがこういうふうに動いたとしたら、こんな素敵な未来が来ると思わないかい?」
と相手に想像させる話し方をよくします。(52ページより)
相手を主役にし、「自分にはもっと可能性があるんだ」と感じさせることによって、自らの意思で動き始めるように働きかけるわけです。
6:「求められているもの」と「伝えたいこと」のバランスを取る
フォーユートークができるリーダーは、まずは「伝えたいこと」ではなく、「相手の興味があること」にフォーカスして話を始めます。(53ページより)
そうすれば、相手が心を開いたあとに初めて、自分が伝えたいことをスムーズに伝えることができるようになるはず。まずは相手の興味が先で、自分の伝えたいことはそのあとにするのです。
7:相手のことに集中する
相手と話すとき、人に何かを伝えるとき、人前で話さなければいけないとき、フォーユートークができる人は、「自分がどう話すか」ではなく、「どう話せば相手が良くなるか」に集中します。(55ページより)
すると自分自身の我が自然と消え、相手主体の話ができるようになるというのです。
「部下を動かそう」と思うのは間違い
ところで今回のご質問は「部下をうまく動かせなくて困っている」というものですが、『だから、部下がついてこない!』(嶋津良智 著、日本実業出版社)の著者は「部下を動かそうと思うのは、大きな間違い」だと断言しています。
自身が同じようなことで悩んでいたころ、ある人から「そもそも人を動かそうと考えること自体チャンチャラおかしいですよ。上司というのは、部下が自ら動こうとする環境をつくることが大切なんです」といわれ、大きな衝撃を受けたというのです。
上司になる人は、少なからず能力や業績が認められたからこそ、そのポストを与えられているはず。そのため自分のやり方に自信を持っており、部下に対しても「こうすれば間違いないから、こう動け」と命じてしまいがち。だから、部下がそのとおりに動いてくれないと悩むことになってしまうわけです。
でも、よく考えてみると、自分が部下時代に積極的に動いていたということと、目の前の部下が動かないということは、決定的に違うのです。
何が違うかわかりますか?
それは、自らの選択によって、納得して行動しているかどうかという違いです。(23ページより)
上司自身は、自らの選択により納得して行動し、自分なりのノウハウを構築していったのでしょう。しかし、上司のやり方や考え方がどれだけ正しかったとしても、同じことを命じられた部下が納得し、自ら動こうとしなければ意味がありません。無理やり動かそうとしても、望みどおりにはならないのです。
部下を動かそうとするのは、自分が先頭に立ってぐいぐい部下を引っ張っていこうとするタイプに多く、著者がまさにそのスタイルだったのだといいます。ところが先述した「人を動かそうと考えること自体チャンチャラおかしい」ということばに衝撃を受けてから、マネジメントスタイルをガラリと変えたのだとか。自分が黒子になって、部下をバックアップしていくというスタイルにシフトチェンジしたというのです。
効果は絶大で、押しつけるのではなく、部下自身に目標を持たせるやり方にした結果、部下は自分から動くようになり、次第に業績も上がっていったそう。
人は、命令されて動くよりも、自らの選択により納得して動いたほうが何倍ものパワーを発揮します。自ら考え、自ら判断して行動するとなれば、そのエネルギーは何十倍にも膨れあがります。(23ページより)
したがって、部下に動いてほしい、能力を最大限に発揮してほしいと思うのなら、部下を意のままに動かそうなどとは考えるべきではないのです。
「リーダーシップ」と「マネジメント」を混同しない
さて、先ほど「マネジメントスタイル」ということばが出てきましたが、そんなところからもわかるとおり、部下を扱うにあたってはリーダーシップやマネジメント能力を発揮することが必要になります。
それは間違いないでしょうが、見落とすべきでないのは、『管理職3年目の教科書』(櫻田 毅 著、東洋経済新報社)の著者は、リーダーシップという"能力"と、マネジメントという"役割"を混同すべきでないと主張していること。
リーダーシップについては、すでに、(1)「自分が実現したいことを打ち出し、(2)自ら行動することで、(3)人が喜んで協力しようとする影響力――このように定義しています。リーダーシップを発揮している人が「リーダー」です。
影響力の「力」という文字は、洞察力や行動力と同じ能力であることを示しており、リーダーシップは、誰もが、誰に対しても発揮しうる「能力」です。
これに対して、「マネジメント」は、課長や部長という組織単位の管理職などが担っている「役割」です。すなわち、「マネジメントとは、目指すゴールに到達するためにチームの成果を最大化させる役割」。マネジメントという役割を担う人が「マネジャー(日本で言う管理職)です。(233ページより)
ちなみに日本企業でマネジメントとリーダーシップが混同されがちなのは、「法人営業グループリーダー」など、「リーダー」と言う名前のポジションがあるためだといいます。そこに誤解が生まれ、本来、全員が発揮すべきリーダーシップをリーダー以外の誰も発揮しようとしない、自立心のないチームになってしまうというのです。
だからこそ、ひとりひとりのメンバーが主体的にリーダーシップを発揮するための意識づけとして、すべての役職名から「リーダー」ということばをなくすことから始めるべきなのだと著者はいいます。基本的にこれは経営者に向けてのメッセージなのですが、部下を持つ上司やリーダーにもあてはまることかもしれません。
いずれにしても、こうした基本に立ち戻ってみれば、新たな気づきを得ることができそうです。