悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「ダラダラした会議の効率を高めたい」という人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「ダラダラした会議の効率を高めたい」(35歳男性/事務・企画・経営関連)
高校生のころ、どこかで「最終案 練った結果が 当初案」というサラリーマン川柳を見て感心したことがあります。なにしろまだ子どもでしたから、「なるほど、社会に出るとそういうことも起こるんだな」と妙に納得したのです。
とはいえそれから数十年が経過した現代においても、いまだに多くのビジネスパーソンは同じことで悩んでいますよね。どれだけテクノロジーが発展しようとも、会議を発展させることは難しいのかもしれません。
近年、「ファシリテーション(会議やミーティングをスムーズに進める手段)」に関する書籍をよく見かけるようになったのも、「会議をなんとかしたい」という気持ちを抱く人が多いからだと考えられそうです。
会議を円滑に促進させる存在=ファシリテーター
しかし、そもそもファシリテーションとはどのようなものなのでしょうか? その点について、『会議の成果を最大化する「ファシリテーション」実践講座』(大野栄一 著、日本実業出版社)の著者は以下のように説明しています。
ファシリテーション(Facilitation)をそのまま直訳すると「容易にすること」「促進すること」などを意味する。ファシリテーションとは本来、会議やプロジェクトなどチームの活動などビジネスに限定されず、集団による問題解決、集団によるアイデアの創出、あるいは集団による学習など、あらゆる方面での知的創造活動を支援し、進行を促進する関わりのことをいう。(14ページより)
つまりは組織が目指す結果を得られるように、そのプロセスを進めやすくすること。そしてファシリテーションを担うのがファシリテーターというわけですが、その役割は大きく2つあるのだそうです。
1つ目は場が機能、働くようにするための、準備、段取り、手順、プログラム、メニュー、構造デザイン、マテリアル、進行そのものなど、その集団の意図、かつ目的を果たすための物理的側面での支援になる。 2つ目は、その会話する場に集うメンバー一人ひとりの心の動きや心の状態、そして、集まってきたメンバー間の関係の質などを考慮し、自己認識や自己開示、ひいては自己表現や自己実現を促進するための心的アプローチという側面になる。(14ページより)
やや難解な表現ですが、これをビジネスにあてはめてみると、
・目的を果たすこと
・それに伴い組織が持つ能力の活性化と可能性を最大化する方法論(14ページより)
ということになるようです。
組織が存在する以上、そこには必ず目的と目標があります。そして目的がある以上、そこにはタスクが生まれます。なお、そのタスクには3つのレイヤーがあるのだとか。
まずは「個人が持つタスク」、次に「プロジェクトが持つタスク」、最後は「企業組織が持つタスク」。いわば、この3つを包括し、さらにその意義を促進させる場が会議。そして、その会議の場を広い視野で捉え、円滑に促進させる存在がファシリテーターだということです。
ファシリテーターに求められることは3つ
もっと噛み砕いてみましょう。『ゼロから学べる! ファシリテーション超技術』(園部浩司 著、かんき出版)のことばを借りるなら、ファシリテーターは「会議が円滑に行われるよう、そのプロセスをリードし、活発な意見が出る"場づくり"を演出する役割を担う人」ということになるようです。
なお、そんなファシリテーターに求められることは、おもに次の3つだといいます。
会議をデザイン(設計)できるか
会議をリードできるか
"場づくり"ができるか
(16ページより)
これらについて、それぞれ確認してみましょう。
(1)会議をデザイン(設計)できるか
ファシリテーターは単に会議を進行する人ではありません。会議の必要性や目的を明確にし、その達成のために"議論の順番を組み立てる"必要があるわけです。
まず会議前にすべきは、テーマについてのアジェンダを作成すること。アジェンダには「議題」という意味もありますが、著者は「会議の進行表」という意味で使っているそうです。
なお、このときに大切なのは、どのような順番で進め、どのように議論すれば結論に至り、どうすれば参加者全員が納得できるのかについてもおおよそ設計しておくこと。
この会議設計で会議の成否が決まると言っても過言ではなく、ファシリテーターの役割の中でも特に重要な役割となっています。(18ページより)
つまり、ファシリテーターは会議を設計する役割を担っているわけです。
(2)会議をリードできるか
会議当日、ファシリテーターは事前位つくっておいたアジェンダに沿って会議を進行させていくことになります。
どんな順番で誰に発言してもらうか、どのように意見を整理するか、どのように時間管理をするかを考えつつ、アジェンダで決めた内容を確実に進めていくわけです。
どれだけ準備していたとしても、会議は時として予期せぬ方向に進んでしまったりもするもの。そのため頭をフル回転させ、そのつど軌道修正を行いながら会議をゴールに導くことも求められるでしょう。
(3)"場づくり"をできるか
上司と部下が会議に同席していると、ポジションパワー(役職がもたらす力)が出やすいため、不穏な空気が流れがち。部下に対して「一人前じゃないんだから意見を聞く必要はない」と心のなかで思っている上司もおり、それが知らず知らずのうちに態度に出てしまうのです。
しかしそんなとき、両者の間でバランスを取れる人がいれば、平等な空気を醸成できるはず。つまり"場づくり"も、ファシリテーターの大きな役割だということです。
ファシリテーターが気をつけるべきこととは?
ところで『超ファシリテーション力』(平石直之 著、アスコム)の著者は、ファシリテーターを次のように表現しています。
会議は、大なわとびによく似ています。
両端に縄を持って回す人がいて、その中に、次々にいろんな人たちが入ってくる。
いわばファシリテーターは縄の回し手であり、参加者のみなさんは跳ぶ人です。(39ページより)
ご存知の方も多いと思いますが、『ABEMA Prime』の進行を担当するテレビ朝日のアナウンサー。つまりはファシリテーターとしての立場からそのあり方をこう表現しているわけですが、たしかにそのとおりかもしれません。
では、だとすれば縄の回し手であるファシリテーターは、どのようなことに気をつけるべきなのでしょうか?
大なわとびの理想は、参加者たちが輪の中に入ったり出たりしながら、心地よく長く跳び続けられること。
もし、なかなか中に入れず戸惑っている人がいたら、「少しゆっくり回しますね」と声をかけ、背中をそっと押して入りやすくしてあげる配慮が必要でしょう。
会議にもこれと同じ構図があります。一部の積極的な人にばかり発言の機会が偏りすぎたり、最後までほとんど意見を言えずに終わる参加者がいるような状況は、できるだけ避けたいものです。(40ページより)
だからこそファシリテーターは、メンバー全員の様子にさりげなく目を配りつつ、要所要所で縄を持つ手を緩める工夫をすべきだということです。
「ところで、この件について◯◯さんはどう思っていますか?」
「そろそろ◯◯さんや△△さんのご意見もうかがってみたいですね」
「これは重要なテーマですから、ほかのみなさんのご意見も聞いてみましょうか」
というように。
一部のメンバーだけがヒートアップする流れをいったん穏やかにし、輪の中に新しいメンバーを招き入れてあげるべきだということ。
これは意見と意見が真っ向からぶつかり合い、議論の着地点が見えにくくなってしまったときにも有効な方法です。それまで会話にあまり参加していなかったメンバーを議論に呼び込むことで新しい視点が加わり、ムキになりつつあった人もいったん冷静になる時間が作れます。(41ページより)
もちろん、一部のメンバーが議論を牽引すること自体は決して悪いことではなく、いわばバランスの問題。つまり、参加者全員にきちんと出番が回ることを、ファシリテーターはつねに意識しておく必要があるのです。