悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「働く意味がわからない」と悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「一応働いていますが、正直働きたくないです。働く意味がわからない」(29歳男性/営業関連)
働きたくないなら働かなければいいし、実際のところ、「好きなことをやって生きていこう」というようなメッセージを投げかける人も世の中には存在します。
が、現実的に考えれば、それは難しいことでもありますよね。ましてや「好きなことだけを」という考え方は、きわめて短絡的で幼稚だと個人的には感じます。
ともあれ、この問題に関しては重要なポイントがあると思います。
それは、「はたして働く意味を理解している人は、働くことに納得できている人はどのくらいいるのか?」という本質的な問題。働く意味がどうという以前に、「働かなければならないから働いている」という人だって少なくないはずなのです。
仕事とはそういうものですし、しかも、そもそも働くとはそれ自体が有意義な行為です。
「働く意味」を理解しているかどうかは別としても、人は働くなかでいろいろなことを学び、人間的に成長することになります。したがって、それこそが働く意味だと考えることもできるのです。
嫌なことも多く、苦手な人とつきあわなければならなかったりもするでしょう。けれども、そういったひとつひとつのことが働く意味であるということです。
だとすれば、「働きたくない」とネガティブな状態でいるよりも、いまある状況を受け入れ、余計なことを考えないほうがいいのではないかと僕は感じます。
また失礼ながら、ご相談内容を見る限り「働く意味」について真剣に考えているように思えない気もします。目先のものに気を取られすぎて、本質に目が向いていないというか。
「続ける」ことで見えてくる
そして、そのことに関連して思い出すのが、『答えを探さない覚悟』(山元賢治 著、総合法令出版)の著者のことばです。
20〜30代の若い人たちとふれ合う中でよく目にするのは、彼らの多くが自分の進路に明確な方向性を見出せず、さまよっている現状です。
テレビなどのメディアが取り上げる「名の知れた企業で働くこと」に価値があると錯覚し、それが人生のゴールだと思い込んでしまう。己の内面を見つめることなく、他人の言うことを疑いもなく「正しい」と捉えてしまう。いわば、表面的なものの見方をしてしまっているように思います。(「はじめに 〜成功も幸せも自分で定義する人になる」より)
30年間にわたり、IBM、オラクル、アップルといった外資系企業で働いてきた実績の持ち主。現在は自ら立ち上げたコミュニカという会社で「山元塾」を主宰し、次世代のリーダーを育てていらっしゃいます。
つまり、ご自身が経験してきたことを次の世代へと伝えているわけです。だからこそ、本書のメッセージにも力がこもっているのです。
ところで「働きたくない」という以上、ご相談者さんは仕事を続けていくこと自体に疑問を感じているのかもしれません。けれど、仕事を辞めたところでどうしたらいいのかわからない。だから悩んでいるという側面もあるのでは?
だとすれば、働くことの意味を問いなおしてみるべきかもしれません。このことに関しては、著者も次のように述べています。
「ローマは1日にしてならず」。この言葉通り、そんなに簡単にできる仕事はありません。やると決めたらできるまでやる。状況が変われば、もちろん戦略は変えなくてはいけませんが、やると決めた芯の部分は変えません。まさに継続は力なのです。(56〜57ページより)
著者の場合、会社で常に持ち続けていたのは、最初に入社したIBMの7つの心情((1)最善の顧客サービス、(2)完全性の追求、(3)個人の尊重、(4)株主への責務、(5)公正な購買取引、(6)卓越したマネジメント、(7)社会への貢献)だったそうです。とくに最初の3つは、自分自身にとっての仕事の基本になっていると確信しているのだとか。
ちなみに、これまで3,000人以上の人を面接してきたという著者は、面接時に次の4点を見ているといいます。
まずは柔軟性と素直さ。新卒で会社に入れば新しいことばかりが起きます。それに対して、被害者意識ではなく、前向きに受け取るためには、柔軟で素直でなくてはいけません。当然のことながら、地頭の良さも見ます。質問を少しずつはずして、ついてこられるかどうかを見るのです。そしてリーダー的視点をもっているかどうか。最後の一つが、継続する力があるかどうかです。(59〜60ページより)
これは新入社員だけではなく、すべての若いビジネスパーソンに求められるべきことであるはず。なお著者は、この文章を以下のようにまとめています。
なんでもすぐにやめる人は、いろいろなものに負けます。継続は力なり。続けることで見えてくることは必ずあります。(60ページより)
「小さな習慣」を実行する
では、続けられるようになるためにはどうしたらいいのでしょうか? それは「小さな習慣」を身につけて実行することだと主張するのは、『小さな習慣』(スティーヴン・ガイズ 著、ダイヤモンド社)の著者です。
小さな習慣とは、毎日これだけはやると決めて必ず実行する、本当にちょっとしたポジティブな行動です。"小さすぎて失敗すらできない"ものなので、気軽に取り組むことができ、それでいてびっくりするほど効果があるため、新しい習慣を身につけるには最適な方法といえます。(「はじめに」より)
小さな習慣の基本は、「こんなに簡単でいいの?」と思いたくなるくらいの課題を自分に与え、それを"ほんのわずかな意志の力"を使って実行するというものだそう。
ポイントは、小さな課題をこなしたあとには多くの場合、さらにもっと多くをこなせるようになるということ。
基本的に私たちはポジティブな行動を望んでいるので、いったん始めてしまえば、やりたくないという気持ちも弱まるというわけです。したがって、小さな習慣として始めた行動は徐々に生活の一部になっていくのです。
この考え方を、今回のご相談にあてはめてみましょう。働く意味がわからないのなら、日々の仕事のなかに小さな課題を設定してみてはいかがでしょうか?
たとえば、これまでより10分早く会社に到着する習慣をつけるとか。
その程度のことでしたら習慣化することはさほど難しくないでしょうし、続けることができれば相応の自信がつくはずです。そこまで到達したら、その自信をバネにしてさらに上を目指せばいいのです。
とても小さなことですが、たしかに小さなことはすべての基本。そう考えれば、著者のいう小さな習慣の価値も理解できるのではないでしょうか?
小さな習慣とは、毎日これだけはやると決めて必ず実行する、本当にちょっとしたポジティブな行動です。ばかばかしいほど小さなステップの積み重ねなので失敗する心配などまったくなく、毎日続けるうちに習慣として定着します。小さな小さなステップと習慣、このふたつは結ばれる運命にあるのです。(36ページより)
この考え方を、頭の隅にとどめておくべきかもしれません。
「よく働く」人に学ぶ
最後にご紹介する『80の物語で学ぶ働く意味』(川村真二 著、日経ビジネス文庫)は、これまでの時代を形成してきた80人による評伝・自伝のなかから、その生きざまを象徴するエピソードを抽出した「人生アンソロジー集」。
人は人を愛し、愛する者のために生き、働こうとする本能を持った生き物です。
幸福になるには幸福になるための能力が必要です。
一つは、目標を達成する働く能力。二つ目は、生かしてくれる人、自然に感謝する能力、三つ目は知足(ちそく)、すなわち足るを知る、満足する力です。知足は幸福を感じる力と言ってもいいでしょう。これらはすべて努力によって獲得できます。(「まえがき」より)
著者はさらに、よく生きる中心はよく働くことにあるとも述べています。つまり、本田宗一郎、出光佐三、イチロー、山中伸弥、司馬遼太郎、小澤征爾 、山田洋次ら、ここに登場する数々の人物も、よく働くことによって"幸福になるための能力"を獲得したのでしょう。
紹介されている各人のストーリーは、それぞれが重みと説得力に満ちています。そのため、実際に本書を手に取ってじっくり読んでみることをおすすめしますが、ここでは3000本安打を達成した日のイチローのことばを引用しておきたいと思います。
「達成感とか満足感を、僕は味わえば味わうほど、前に進めると思う。小さなことでも満足することはすごく大事。だから僕は今日この瞬間、とても満足ですし、それを味わうとまた次へのやる気、モチベーションが生まれてくると、これまでの経験上、信じているので、これからもそうありたいと思っています」(173ページより)
これは彼が人生を賭けてきた野球のみならず、あらゆる仕事についていえることでもあるはずです。