悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「やる気にが出ない」人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「がんばらないといけないときもなかなかやる気が起きません。やる気に満ち溢れた人を見ると焦ります」(29歳男性/営業関連)


やる気が出ないとき、ありますよね。しかも、「がんばらないといけない」ときほどやる気になれなかったりするので、なおさら困りものです。

でも客観的に考えてみれば、「どんなときにも高いモチベーションを維持できる人」などいないのではないでしょうか? 仮にいたとしても、そちらのほうが例外的な存在であるはず。

つまり大前提として、誰にとっても「やる気が起きないとき」は"あるもの"なのです。にもかかわらず、やる気が出ない自分を否定してしまうから、ますますつらくなっていくのです。

そこで、まずは「やる気が起きない自分」を肯定してみて、そこを出発点としたうえで、やるべきことや進むべき道を考えてみては? 少なくとも僕は、そのほうがいいと思うんですよね。

「めんどくさい」気持ちをなくす

『「めんどくさい」がなくなる本』(鶴田豊和 著、フォレスト出版)の著者は、行動心理コンサルタントとして多くの方々の悩みを解決してきた人物。ここでは、生活のあらゆることについての「めんどくさい」を解消するための心理テクニックを紹介しています。

  • 『「めんどくさい」がなくなる本』(鶴田豊和 著、フォレスト出版)

「めんどくさい」という感情は、喜怒哀楽、妬みに続く、人間誰もが持ち合わせている「第6の感情」だと考えています。
私たちが行動できないのは、この「めんどくさい」という第6の感情が大きく目の前に立ちはだかっているからです。
もし、この「めんどくさい」という感情と上手に付き合っていけたら、ストレスのない、とても楽しい毎日が過ごせると思いませんか?(「はじめに」より)

そして、ここで明かされているのが「行動するのが、めんどくさい」をなくす4つの原則。

◎第1の原則: 「やらなきゃいけないこと」を減らす
◎第2の原則: 「やらなきゃ」と思わないようになる
◎第3の原則: 「やらなきゃ」と思っても、いろいろと考えない
◎第4の原則: 工夫して、とにかく行動する
(52ページより)

「めんどくさい」と感じるのは、「やらなきゃ」と思うから。そこでまず、普段の生活のなかで、できる限り「やらなきゃいけないこと」を減らすべき。

多くの人は、本来やる必要のないことを「やらなきゃいけない」と思い込んでいるというのです。そして、その結果、時間を無駄に使ってしまう。だからこそ、本当にやらなければいけないことに絞るべきだということ。

また、いままで「やらなきゃ」と思っていたことに対して「やらなきゃ」と思わなくなれば、当然のことながら「めんどくさい」という気持ちはなくなっていくに違いありません。

そもそも「やらなきゃ」は、あくまで主観に基づく思い。そこで、それを「やりたい」とか「やってもいい」などに変換することができれば、「めんどくさい」という気持ちがなくなるわけです。

ところで、「めんどくさい発生のメカニズム」というものがあるのだそうです。

「やらなきゃ」と思う

いろいろと考えてしまう

「めんどくさい」と感じる
(50ページより)

こういう構造になっているからこそ、「やらなきゃ」と思っても「いろいろ考えない」ことが重要なのだということ。

たとえば「会社に行かなきゃ」と思ったとき、「きょうも会社で上司に嫌味をいわれるのかな」「今月のノルマはきつい」「もう、会社を辞めたい」などと考えてしまうと、「めんどくさい」という気持ちはどんどん強くなっていきます。したがって、「会社に行かなきゃ」と思ったときに、余計なことを考えないようにすべきなのです。

そして、工夫をし、とにかく行動することも大切。行動しはじめれば、「めんどくさい」という感情は薄れていくからです。重要なポイントは「工夫して」という部分。努力や根性、感情のコントロール、やる気やモチベーションではなく、心理テクニックを用いて工夫することで、無理なく行動できるようになるからです。

「出口が見えない仕事」への対処法

やる気が起きず、モチベーションを維持できないのだとしたら、多少なりとも精神的に落ち込んでいる、つまり「メンタルダウン」しているということも考えられるかもしれません。

そこでご紹介したいのが、『メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術』(わび 著、ダイヤモンド社)。

  • 『メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術』(わび 著、ダイヤモンド社)

著者は、自衛隊で幹部自衛官としての人生を歩むも、上司のパワハラと激務が原因で倒れ、大きくメンタルダウンしてしまったという過去の持ち主。そののち、通院しながら心の状態を改善させ、メンタルダウンしたときに学んだ"心を病まないためのノウハウ"をツイッターで発信しはじめ、多くの評価を得ることになったのだそうです。

印象的なのは、そんな経験を持つ著者が「どんな仕事も『出口』が見えていれば耐えられる」と断言していること。

「上司の意見がコロコロ変わってゴールが見えない」とか、「プロジェクトの目標が高すぎて、達成する見込みが立たない」とか、「誰も手をつけたがらない案件を任されてしまった」など、働いていると、体力的にというより精神的に削られる仕事に直面することがあるものです。

そういった"心身が疲れ果ててしまう仕事"には「出口」が見えないという共通点があるというのです。

たしかにそのとおりで、出口さえ見えていれば、どれだけつらかったとしても「いつか終わる」と思えるはず。暗いなかでも、出口があればそこから光が差し込んでくるわけです。ところが出口が見えないと、いつ終わるのかわからず、光が見えないなかを進んでいかなければなりません。

それが、やる気の低下につながっていってしまうのです。では、そんなときにはどうしたらいいのでしょうか? この問いに対して、著者は2つの手段を提示しています。

まず1つ目は、いまの自分でできることをやって、少しでも進んでみること。

しんどい仕事を経験したことがある人はわかると思いますが、はじめは「しんどいな……」と感じながらも、たいていの仕事は乗り越えていると思います。
ほとんどの仕事は進めていくうちに出口が見えてくるからです。まずは一歩進んでみることが大切です。(129ページより)

そして2つ目は、自分で出口を設定すること。最終的な目標に到達していなくても、あるいは泥沼のなかにいても、「今週はここまで」というような中間目標を置くことが重要だという考え方です。

ずっと暗いなかで正しい方向がわからずに進むよりも、一応の目印をつけて進む。
こうすることで、ひと休みする機会を設けられるし、「少しは進んだぞ」という実感を持てます。(129ページより)

そもそも絶対に終わらない仕事などはなく、どんな形であれ、いつかは終わるもの。ですから、自分で仮の出口をつくりながら少しずつ前へ進めばいいということです。

キャリアが停滞したらどうする?

『「中だるみ社員」の罠』(山本 寛 著、日経プレミアシリーズ)の著者は、「誰でもキャリアが停滞するときはあるもの」だと述べています。つまり、やる気が起きないのはキャリアが停滞しているからだと考えることもできるわけです。

  • 『「中だるみ社員」の罠』(山本 寛 著、日経プレミアシリーズ)

だとすれば停滞を解消させる必要がありますが、たとえばその手段として、著者は「目の前の仕事に没頭する」ことの大切さを説いています。これは、あえて戦略的に考えないことを意味するのだとか。

その一例として挙げられているのは、市役所職員のFさんの例。停滞しながら、相談できる人も頼れる人もいず、すべての仕事を自分でやらなければいけないという状況だったとき、次のように見方を変えたそうなのです。

「ある意味開き直りましたね。結局前に出ても止まっても、仕事は終わらないんで。『一個一個やるしかない』っていう。要は仕事が多いから駄目だとか、まわりがあれだから駄目だとか、まわりのせいにするんじゃなくて、マラソンじゃないですけど、『歩いてればいつかゴールに着くんだから』っていうふうに、取りあえず目の前のことをやれることから一個ずつ片付けていくっていう感じで乗り切った感じです」。(「151ページより)

目の前に積み上がった仕事の量を見てウンザリし、やる気がなくなるということもあるでしょう。しかし、そんなときは"多すぎる仕事量の全体"を考えるのではなく、まずは視野をできる範囲に狭め、少しずつこなしていくことが大事だということ。

学生時代にも、問題集を1冊終わらせなければならないとき、1日にこなす量を決め、それをこなしていくことで目標を達成しようとしたことがありませんか? 同じことで、そういった"目標のブレイクダウン"が停滞を打破するきっかけになることもあるわけです。