悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、老後の生活に不安を感じる人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「老後、年金生活になったとき、本当に暮らしていけるのだろうか。老後破産などにならないだろうか」(63歳男性/IT関連技術職)
少子高齢化に伴って年金制度のバランスが大きく崩れるなか、「本当に年金がもらえるのか?」「もらえたとしても、それだけで生活していけるのか?」と不安を感じている方は少なくないはず。もちろん、かくいう僕もそのひとりです。
言うまでもなく、不安から逃れることができないのは、明確な答えが見つからないから。しかし少なくとも、ただ年金に期待しているだけではどうにもならないのではないでしょうか。
極端な言い方をすれば「もらえない」という最悪の状況が訪れることを想定したうえで、「自分の身は自分で守る」という気持ちを持つ、そんな時代を生き抜くすべを見つけ出す、そうした姿勢が必要だと考えるわけです。
その手段は貯蓄かもしれませんし、投資かもしれません。あるいは、リタイア後に起業するなどの手段も考えられるでしょう。
ただ問題は、「これをやっておけば大丈夫」というような決定的な方法は存在しないということ。どのようなやり方をするにしても、相応のリスクを背負うことは避けられないわけです。
だからこそ大切なのは、少しでも多く知識や情報を吸収しておくこと。基盤を固めておけば、リスクを最小限にすることは不可能ではないからです。また有力な知識や情報があればあるほど、それは精神的な強みにもなります。
そこで今回は、来たるべき老後のために参考になりそうな3冊をチョイスしてみました。
金融初心者にも理解しやすい投資
『お金を増やしたいなら、これだけやりなさい!』(大井幸子著、フォレスト出版)の著者は、米ニューヨーク・ウォール街で20年近く、大口の機関投資家向けビジネスをしてきた実績を持つ金融アナリスト。
そのようなキャリアを武器に、本書では最新のウォール街のテクニックを、家庭の主婦でも実践できるように解説しているのだそうです。具体的には、「積立投資の口座をつくって、資産運用をすること」。そのシステムを自分でつくってしまえば、月イチ程度のチェックでお金が増えていくようになるというのです。
「投資」と聞いたとたん、眉間にしわを寄せている人もいそうですね。その気持ち、わかります。「投資」はとかくダーティーでブラックなイメージがあります。確かにお金は増えるかもしれないけれど、そのためには大きなリスクを背負わなければならない。イチかバチかのギャンブルと同じだから、近寄らないほうが賢明だと思っている方が多いのではないでしょうか。
でも安心してください。私は、そのくらいお金について慎重な方のほうが、この手堅い資産運用には向いていると思っています。(「はじめに」より)
豊富な知識が必要なようにも思えますが、難しく考える必要はないと著者はいいます。「お金を融通する」ことなので、必要なときに必要なお金を調達できれば困ることはないという考え方。
そのための手段として著者が考案したのは、金融初心者にも理解しやすい「じぶんちポートフォリオ」というもの。
「ポートフォリオ」とは、自分の資産のいろいろ、預貯金、不動産、株式、債券といったものがひとつに入ったバスケットのようなものとイメージしてみてください。「じぶんちポートフォリオ」は、金融商品を売る側に振り回されることなく自分で選び、自分にとって本当の意味で安全に人生に必要な資産を運用、形成していくことを目的にしています。パソコンに「じぶんちポートフォリオ」のデータをつくってアクセスすれば、いつでもどこでも一日で自分の資産状況がわかるツールです。一人ひとりが主体的にお金と関わり、資産運用に日常的に励むことは、人生の可能性をさらに切り開くきっかけになると考えています。(「はじめに」より)
個人レベルで資産形成ができれば、35年の住宅ローンや年金のために悩む必要もなくなるということ。資産運用は、人生の選択肢を広げるチャンスを自ら創出することだと著者は主張するのです。
株主優待で生活する
さて、ちょっとした変化球もご紹介しておきましょう。テレビなどにもたびたび投稿している著者による、『定年後も安心! 桐谷さんの株主優待生活 50歳から始めてこれだけおトク』(桐谷広人著、 祥伝社)がそれ。
というのもこの方、「原資を目減りさせずに豊かな生活を送る方法」として、「株主優待」のメリットをフルに活用している人物なのです。その方法は、「いい優待がついた株に分散投資する」というスタイル。
株と聞いただけで「ギャンブルだよね」と難色を示す人は少なくないと思いますが、それは値上がり益(キャピタルゲイン)を狙った株好き投資での話だと著者。値上がりを期待して買った株が、思惑とは逆に値下がりしたしまったことから悲劇は起こるということ。
一方、「株式優待」に着目した私の手法は危険度ほぼゼロ。なぜなら、そもそも優待に力を入れている企業の株は、価格が安定しているからです。(中略)値動きの少ない堅実な株を、安い価格で済む最小単位で買い、株主優待だけはしっかりゲットするというのが私の手法です。(「はじめに」より)
「そんなの、たいした儲けにもならないだろう」と感じたとしても不思議はありません。ところがそうではなく、銘柄によっては配当(企業が得た利益の一部を株主へ還元するもの)も手にすることが可能。ときには、思いのほか値上がりした銘柄を売って、値上がり益で儲けてしまうこともできるのだといいます。
しかも、なにより優待が魅力。事実、著者は生活に必要な衣食はほぼ優待だけでまかなっているのだそうです。そのため、財布のなかには優待でもらった食事券や買い物券がぎっしり。ところが、現金はほとんど入っていないといいます。なぜなら、日々の生活において現金はほとんど必要ではないから。
かといって家に閉じこもって隠居生活を決め込んでいるわけではなく、活動的な日々を送っているそうです。そういえば、株主優待で入手した自転車に乗って忙しそうに動き回る著者の姿は、何度もテレビで紹介されています。
私は年齢に似合わず、服も鞄も靴もたくさん持っているし、たびたび外食もします。映画もしょっちゅう観るし、スポーツクラブにも行きます。ただ、それらをほぼ優待で賄っているために、現金支出の機会が極端に少ないのです。(33ページより)
現金を使うのはもっぱら小銭ばかりで、たとえば500円分の食事券を使って540円のランチを食べたとき、差額の40円を支払うというレベル。優待では上等なすきやき肉や海鮮も手に入るので、食材でも買うのは野菜や豆腐などの生鮮食品程度だ。
「株主優待だけで生活できるはずがないじゃないか」と思われるのはごもっとも。けれど本書を読んでみれば、それが不可能ではないことがわかるでしょう。ポイントは、「優待生活をいかに楽しめるか」だと思います。
お金との新たなつきあい方を身につける
ただし基本的な考え方として、やはり貯金は大切です。いざというときに蓄えがないと、困ることも多いですからね。そこで最後に、『年収200万円からの貯金生活宣言』(横山光昭著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)をご紹介したいと思います。
著者はファイナンシャル・プランナーですが、資産運用や金融商品の提案などを行っているわけではないのだといいます。お金の面で苦しい状況にある方を、家計から再生させていくことを得意としているというのです。そのため、「家計再生コンサルタント」という肩書きも持っているのだとか。
つまり私は、「お金をもっとも貯めることができない、そして今後もっともお金を貯める必要性がある人たち」に関わってきたといえるのです。
たとえば、きちんと貯められるような生活環境(例:小学校教師・50歳・年収700万)にあるのに何となく毎月使いきって貯蓄できない方から、悪い習慣を身につけてしまい、借金が多額にある方(例:派遣社員・35歳・パチンコと買い物が趣味)まで、幅広い依頼者がいます。
このような方々のために、お金を貯めていく方法や収入の範囲内ですべきことを、今後の人生を生き抜くための視点で考えながら、これまで約3,800人の家計を「再生」させてきました。(「はじめに」より)
上記にあるように、依頼者にはお金とうまくつきあえない人が大半。しかし著者が掲げる最終目標は、「○○万円貯める」というようなことではないのだそうです。そんなことより大切にしているのは、数字(お金)によって自分をコントロールできるようになってもらうこと。それは、年金生活に不安を抱く方にとって、とても重要な視点であると言えるのではないでしょうか?
お金のある人が資産にレバレッジ(てこ)をかけてさらに増やしていくという次元の話ではなく、資産がマイナスもしくはゼロに近い状況にあり、このままではいけないと感じている「お金の問題児」である(かもしれない)あなたといっしょになって家計を立て直し、貯金をするための実践的なアドバイスをお伝えしたいのです。(「はじめに」より)
そのため、お金の話だけではなく、お金から生き方を見つめなおすための方法なども紹介されているのが本書の特徴。もちろん、「どんな人でも必ず貯められるようになる横山式90日貯金プログラム」に代表される実践的なメソッドも明らかにされています。
いわば、お金が貯められないという人の悩みを解消してくれる、頼もしい一冊。お金との新たなつきあい方を身につけるためにも、書棚においておきたいところです。
冒頭でも触れたとおり、これら3冊を読んだからといってすべてが解決するわけではないでしょう。それどころか、生きていくためのお金については、今後も学び続ける必要があるだろうと思います。
つまり、これらはそのスタートラインだということ。だからこそ、新たな疑問が出てきたとしたら、そのときにはまた別のマネー本に手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。知識の積み重ねが、将来の生活に好影響を与えてくれるのですから。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。