悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、年金がもらえるか不安な人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「将来的に年金がきちんともらえるのか不安」(48歳男性/営業関連(営業・MR・人材・コールセンター他))


恥ずかしながら、長らく年金については自覚の乏しいタイプでした。心のどこかで他人事のように感じていたし、「もらえるとしてもまだまだ先」みたいな気持ちもあった気がするし。

でも、現実的にはそれってナンセンス以外のなにものでもありませんよね。いつかは必ず年金のことをきちんと知る必要に迫られるわけですし、ましてや「まだまだ先」などというものではなく、準備は早いほどいいに決まっているのですから。

というわけで最近ちょうど、少しずつではありますけれど年金関連事項の「学びなおし」をしていたところだったのです。そこで今回は、「同じような不安を抱えている方々と一緒に学ぶ」というスタンスを軸として、年金について考えてみたいと思います。

年金の疑問をわかりやすく解説

年金について「きちんともらえるのか」などの不安を感じるのは、いうまでもなく不明点が多いから。しかも年金問題には、「複雑でわかりにくい」といったイメージがあったりもします。

しかし、社会保険労務士・年金アドバイザーである『図解 いちばん親切な年金の本 21-22年版』(清水典子 監修、ナツメ社)の監修者は、本書の冒頭で次のように述べています。

  • 『図解 いちばん親切な年金の本 21-22年版』(清水典子 監修、ナツメ社)

年金制度は、国民年金が1961年にスタートして61年が経過しました。時代が変わっても、歳をとってからは「老齢年金」、病気やケガで治らない障害を負ったときには「障害年金」、家族の働き手が亡くなったときには「遺族年金」という3つの給付は、年金制度の3本柱として、今後も変わることなく、私たちの生活を保障していくでしょう。国の年金制度は、なくなってしまうような制度ではありませんので、安心してください。(「はじめに」より)

ネットなどで「どうせ年金はもらえない」というような記述を見かける機会は少なくありませんが、実際のところ、そういうことはないようです。

とはいえ年金問題に不安が絡みついてしまいがちなのは事実なので、ここでは「年金の基礎知識」「老齢給付」「障害・遺族給付」という3つの大きなテーマにポイントを絞り、それらについてわかりやすく解説しているのです。

知りたいところ、興味のあるところから読み進められるところも魅力のひとつ。ここでは「Q&A 気になる年金のギモンあれこれ」のなかから3つをピックアップしてみましょう。

Q:加入期間が短いと年金はどうなるの?
A:受け取れない、または加入期間に応じた年金額になります。
(20ページより)

老齢基礎年金を受け取るには、少なくとも10年間の加入期間が必要。もし会社員などで厚生年金保険に加入した期間があったとしても、老齢基礎年金を受け取る資格のない人は老齢厚生年金も受け取れないのだそうです。

なお、最低の加入期間を満たし、老齢基礎年金を受け取ることができたとしても、満額を受け取れるのは40年間加入・全納した人のみ。40年に満たない場合は、月数に応じて減額されるわけです。

Q:年金の請求が遅れたら損してしまう?
A:さかのぼって受け取れますが、時効があるので要注意です。
(20ページより)

年金を受け取るには請求書の提出が必要。請求し忘れていることに気づいたら、その時点で請求の手続きをするべき。そうすれば、年金を受け取れるようになった年月まで、さかのぼって年金を受け取れるのです。

ただし年金には5年の時効があります。5年を過ぎても請求がないと、年金を受け取る権利が消滅してしまうということ。とはいえ、やむを得ない理由や年金記録の訂正があった場合などには、5年を過ぎても受け取れることがあるそうなので、あきらめずに年金事務所に相談することも大切であるようです。

Q:どうして保険料と年金額が毎年変わるの?
A物価や賃金、少子高齢化といった社会の変化に対応するためです。
(22ページより)

増える高齢者の年金給付に足りる保険料を集めようとすると、保険料がどんどん上がってしまう心配も大きくなっていくはず。

そこで年々少しずつ保険料を上げていき、平成29年に保険料を固定してその範囲で給付を行うことになったのだといいます。

国民年金保険料は毎年280円ずつ引き上げて平成29年度以降は1万6900円で固定、厚生年金保険料率は毎年0.354%ずつ引き上げて平成29年9月から18.3%で固定されました。
第1号被保険者の産前産後期間の保険料免除の財源とするため、国民年金保険料は2019年度から月額100円引き上げられています。(22ページより)

受け取る年金額も、物価や賃金によってスライドさせる仕組み。受け取る年金の金額に直接影響してくることなので、今後のニュースにも注意する必要がありそうです。

年金財政は赤字ではない

しかしいずれにしても、年金については誤解が多いようです。『知らないと損する年金の真実 - 2022年「新年金制度」対応』(大江英樹 著、ワニブックスPLUS新書)の著者もまた、そのことを指摘しています。

  • 『知らないと損する年金の真実 - 2022年「新年金制度」対応』(大江英樹 著、ワニブックスPLUS新書)

たとえば「年金財政は赤字」というのも勘違いであり、赤字なのは「国の一般会計」なのだというのです。

著者によれば、令和3(2021)年度の歳入・歳出の金額は106兆6097億円。歳入(国の収入)の大部分は税金で、税とその他収入を合計すると約63兆円。一方、歳出は106兆円あまりあるため、その差額は約43兆円。もちろん歳出のなかにはこれまでの借金の返済や利息の支払いが約23.8兆円(これを国債費というそうです)あり、これは借金を減らすためのお金。

したがって、純然たる赤字額は20兆円弱ということになります。おもにこの赤字を埋めるため、そして国債の利息の支払いや元本の償還費をまかなうなどのために発行されている国債の残高は令和3年度末で990兆円になると見込まれているというので、国の財政赤字は1000兆円近くあることになります。

ところが年金は、この一般会計とは別の勘定になっています。戦前からあったいくつかの保険事業を様々な紆余曲折を経て平成19(2007)年に統合してできた「年金特別会計」がそれです。
年金特別会計には公的年金だけでなく、健康保険や子育て支援等の経理も含まれますが、公的年金だけを取り出してみると、年金積立金と言われるお金が令和元年度末で約190兆円あります。つまり、年金財政は赤字なのではなく、190兆円もの"貯金"を持っているのです。(55〜56ページより)

つまり、年金財政が赤字だというのはまったくの間違いだということ。たとえばこのようなことを調べていけば、不安は少しずつでも解消していくことができるでしょう。

年金をより多く受け取るには何歳からがいい?

ところで、年金は何歳からもらえばいいかと悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか? 人それぞれケースが違うだけに、たしかにそれはわかりにくいことではあります。

そこで『結局、年金は何歳でもらうのが一番トクなのか』(増田 豊 著、青春新書インテリジェンス)の著者は、「年金をより多く受け取るには」という前提をつけてこの問題を考えてみることにしたのだそうです。そうすれば、考えるべきポイントがクリアになるから。

  • 『結局、年金は何歳でもらうのが一番トクなのか』(増田 豊 著、青春新書インテリジェンス)

つまり、「年金をより多く受け取るためには、どうしたらいいのか」という視点に立ち、その「指標」を示すことが大切だという考え方。そこで本書では、ひとつの「大きな指標」を示しているわけです。

年金に関する多くの書籍がそうであるように「◯歳の会社員、妻が専業主婦で、年収がいくらで……」と類型化して年金受給パターンを細かく紹介するのではなく、条件をできるだけシンプルにして、どういう方向性で考えると「受け取る年金の総額を増やせる」可能性が高いのかを説明することを第一の目的としました。(「はじめに」より)

なお、年金制度が改正されたことによる変化のひとつとして、「何歳まで働いて、何歳から年金を受け取るのか」を自分で決めるようになったことを著者は挙げています。

年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は65歳からの受給開始が基本ですが、本人の希望によって受け取る時期を遅くすることも早くすることもできます。
年金を受け取る時期を65歳よりも後ろにすることを「繰り下げ」、65歳よりも早めることを「繰り上げ」といいますが、2022年4月からの年金大改正では、年金の受給開始年齢を「75歳まで繰り下げる」ことができるようになったのです(1952年4月2日以降に生まれた人)。(20〜21ページより)

これまでも、70歳までは繰り下げることができました。が、さらに5年間、後ろ倒しできるようになったのです。しかも75歳に繰り下げると、65歳から受け取るのとくらべ、受け取れる年金額が84%も増えるそう。

いわば、75歳まで繰り下げると「ほぼ2倍」の年金を受け取れるようになったことが、今回の年金大改正の最大のポイントだというのです。

「できるだけ長く働き」、年金の受給開始を「遅らせれば遅らせるほど」、受け取る「年金が増えていく」仕組みに変わったということ。こうした変化をきちんと把握しておくことも、年金について考えるうえで欠かせないポイントとなっていくことでしょう。