悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、新米課長に贈るビジネス書です。

■今回のお悩み
「この春から課長に昇進しました。リーダーシップってどうやったら身につきますか?」(30歳男性/IT関連技術職)


ずいぶん前にも書いた記憶がありますが、僕にはかつて小さな会社で人を使っていた時期があります。でもそのとき、自分のリーダーシップのなさをいやというほど痛感したんですよねー。いや、もちろん一生懸命やってはいたのです。けれども恥ずかしながら、「リーダーには向いてないなぁ」と感じずにはいられない毎日だったわけで。

そののちフリーランスになったのですが、数十年が経過したいまでも顔から火が出るほど恥ずかしく感じることばかりです。

ともあれ当時は僕も課長でしたから、リーダーシップを身につけたいと思う気持ちはよくわかります。もちろん、うまくいかなかった以上は偉そうにアドバイスできるはずもないのですけれどね。

ただ、年齢を重ねてみれば、なんとなくわかってきたこともあるんですよ。

「責任感を持つのはいいことだが、過度になってしまうと空回りするだけ」だということ。答えになっていないかもしれませんけれど、「ほどほど」にがんばれば少しずつ結果につながっていくものなのではないでしょうか?

「エフィカシー」=自己効力感とは?

内的原理に基づいて人を動かしていくときには、「(1)正しいゴールを設定する」と同時に、「(2)それに対する十分なエフィカシーを確保する」ことが必要になる。これこそが「内因的な原理に基づくリーダーシップ」の基本的なモデルだ。(54ページより)

『チームが自然に生まれ変わる 「らしさ」を極めるリーダーシップ』(李 英俊、堀田 創 著、ダイヤモンド社)の著者はこう主張しています。

  • 『チームが自然に生まれ変わる 「らしさ」を極めるリーダーシップ』(李 英俊、堀田 創 著、ダイヤモンド社)

一見するとリーダーはなにもしていないように見えるのに、次々と自発的なアクションやイノベーションが生まれてくるチーム・組織は、この2点のデザインに成功しているというのです。

「自分(たち)はこのゴールを達成したい。そして、実際に達成できる気がする」という認知をチーム内で共有できていれば、人は喜んで動き始めるものだということ。つまりリーダーがことあるごとに発破をかけたり、ノルマや進捗を管理したりすることもないわけです。

なぜなら、各メンバーは自身の内面にあるエフィカシーという「熱源」を原動力にしながら、目的に向かって行動をとり続けるようになるから。

したがって正しいゴールに対して「チームのエフィカシー」をデザインできれば、それまでたるんでいたチームの雰囲気もガラリと変わり、全員で目標達成に向かって動き出す状況をつくれるということです。

しかし、重要な鍵になるのであろう「エフィカシー」とは、そもそもどのようなものなのでしょうか?

エフィカシー(Efficacy)とは、「効力」とか「効能」を示す英単語だが、本書はあえてセルフ・エフィカシー(Self-efficacy)、つまり「自己効力感」の意味合いに限定していることに注意してほしい。
自己効力感とは「一定の行為・ゴールの達成能力に対する自己評価」であり、「自分はそれを達成できるという信念」である。もう少し砕けた言い方をするなら、「やれる気がする/やれる気しかしない」といった手応えのようなものだと考えてもらっていい。(50ページより)

なお著者によれば、「エフィカシー」と「やる気(モチベーション)」は似て非なるものなのだそう。

Xという行為にエフィカシーを抱いている人は「自分はXを実現できる」という信念を持っているもの。それは「(できるかどうかわからないが)自分はXをできる。なぜなら……」という自分への説得ではなく、「(できるかどうかわからないが)自分はXをやってみせるぞ!」といった決意とも違うというのです。

「自分はXをできる気がする/できる気しかしない!」というシンプルな自信であるわけです。また、それは決して特殊なものではなく、誰もが日常的に抱いている認知。「明日の朝、歯を磨くことができるか?」と問われたとき、「できる。できる気しかしない」と答えるのと同じなのだそうです。

ゴールに向かって人が行動を起こすときには、エフィカシーが大きなカギを握っている。(51ページより)

こうした考え方に基づく本書は、リーダーとして人を動かしていくにあたって、大きな気づきを与えてくれるかもしれません。

「リフレクション」=内省とは?

『リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術』(熊平美香 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、常に課題に追われるリーダーには「リフレクション(reflection)」が重要な意味を持つと説いています。リフレクションとは、自分の内面を客観的、批判的に振り返る行為。つまりは「内省」ということになります。

  • 『リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術』(熊平美香 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

リフレクションの目的は、あらゆる経験から学び、未来に活かすことです。どのような経験にも、たくさんの「叡智」が詰まっています。経験を客観視することで新たな学びを得て、未来の意思決定と行動に活かしていく。これがリフレクションです。(「はじめに」より)

なお本書では、リフレクションの基本を次のように定義づけています。

・自分を知る
・ビジョンを形成する
・経験から学ぶ
・多様な世界から学ぶ
・アンラーンする(学んだことを手放す)
(「はじめに」より)

これらの基本を応用していくことで、自分自身の成長のみならず、他者への理解を深めて成長を促進したり、組織をまとめるリーダーシップを育めるというのです。

今回はそのなかから、基本というべき「自分を知る」に焦点を当ててみましょう。自己の動機の源を把握しておけば、どんなときでも自分のモチベーションを自ら動かすことができるのだとか。

動機の源とは、やりがいや喜びを感じる理由。そして重要なポイントは、私たちはひとりひとり、単なる動機の源をたくさん持っているという点。同じ職種についていても、性格が似ていても、同じことにやりがいを感じているとは限らないわけです。

だからこそリフレクションを通じ、動機の源を知ることが大切なのです。

動機の源を知ることは、リーダーシップを磨くためにも役立ちます。動機の源は、人柄や魅力の源泉であり、人があなたについていく理由です。動機の源を知って自分のモチベーションを維持できるようになると、困難な状況でもぶれない軸を持つリーダーになることができます。(43ページより)

つまり、モチベーションを維持することのできる「自分らしさ」は、他者であるチームメンバーとも密接につながっているということなのかもしれません。少なくとも、ここにも見え隠れしている広い視野に基づいた本書は、リーダーにとって重要な意味を持つ一冊であるといえそうです。

偉人のことばからリーダー像を学ぶ

最後に、リーダーシップを論じたビジネス書とはちょっと毛色の異なる一冊をご紹介したいと思います。20世紀初頭には世界最大の大富豪であった、「鉄鋼王」として知られるアンドリュー・カーネギーの名言を集めた『超訳 アンドリュー・カーネギー 大富豪の知恵』(アンドリュー・カーネギー 著、佐藤けんいち 訳、ディスカヴァークラシック文庫)がそれ。

  • 『超訳 アンドリュー・カーネギー 大富豪の知恵』(アンドリュー・カーネギー 著、佐藤けんいち 訳、ディスカヴァークラシック文庫)

アンドリュー・カーネギーの著書は、その豊富な体験から生み出された教訓と智恵に充ち満ちた内容で、仕事への取り組み、投資や経営にかんする考え、慈善活動についてなど、21世紀の現在でも傾聴に値する内容だといっていい。(「はじめに なぜいまアンドリュー・カーネギーか?」より)

当然ながら彼は「尊敬されるべきリーダー像」についても言及しており、そこには普遍的な説得力があるのです。いくつかを抜き出してみましょう。

新任の裁判官の判決は、厳しくなりすぎるきらいがある。やる気満々の姿勢で臨みがちなためだ。寛大さを身につけるには、経験を積む以外にはない。必要に応じて、軽いが確実な罰を与えるのがもっとも効果的だ。厳罰は必要ではないし、過ちがはじめてであった場合には、よく考えたうえで赦しを与えることが最善であることが多い。『自伝』(147ページより)

働く人たちは、思いやりに対しては、いつでも応えてくれるのである。もしほんとうに心から気にかけているのであれば、相手が自分のことをそう思っているかなど心配する必要はない。『自伝』(147ページより)

ほんとうのヒーローは、報酬など求めない。仲間たちのことだけを考えるのであって、自分自身のことなど念頭にないのである。『自伝』(147ページより)

これらはほんの一部ですが、こうした過去の偉人のことばのなかにも、現代のビジネスパーソンが学ぶべき大切なことは隠れているもの。視野を大きく広げ、いろいろなことに目を向けてみれば、リーダーシップに役立ってくれそうなトピックスはたくさん見つけられるはずです。