悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、新入社員にジェネレーションギャップを感じている人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「新入社員にジェネレーションギャップを感じています。若い世代が何を考えているかわかりません」(51歳男性/販売・サービス関連)
28歳になる僕の息子はとある分野のデザイナーですが、チームリーダー的な存在でもあり、つまりは新人の育成も担当しているようです。新人といえば22歳あたりでしょうから、年齢的には6歳程度しか違わないことになります。
6歳の差なんてどうってことなさそうな気がするのですが、実際にはそう簡単な問題でもない様子。少し年上の息子から見ても彼らは「なにを考えているのかわからない存在」であり、だから扱いにとても苦労しているというのです。
20代の息子でさえそうなのですから、51歳だというご相談者さんにとってはさらに難しい問題かもしれませんね。
現代の若者は「いい子症候群」!?
ちなみに息子からそんな話を聞き、「役に立つかもしれないから」と勧めておいたのが『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』(金間大介 著、東洋経済新報社)。
大学教授である著者が、現代の若者の考え方を解き明かしたものです。ここで「いい子」と表現されている彼らは大学生から20代半ばまでを指しているようなので、新入社員とのジェネレーションギャップを埋めるためにも参考になるのではないかと思います。
著者によれば現代の若者は、以下のような共通する行動原則を持っているのだとか(著者はそれを「いい子症候群」と呼んでいます)。
・周りと仲良くでき、協調性がある
・一見、さわやかで若者らしさがある
・学校や職場などでは横並びが基本
・5人で順番を決めるときは3番目か4番目を狙う
・言われたことはやるけど、それ以上のことはやらない
・人の意見はよく聞くけど、自分の意見は言わない
・悪い報告はギリギリまでしない
・質問しない
・タテのつながりを怖がり、ヨコの空気を大事にする
・授業や会議では後方で気配を消し、集団と化す
・オンラインでも気配を消し、集団と化す
・自分を含むグループ全体に対する問いかけには反応しない
・ルールには従う
・一番嫌いな役割はリーダー
・自己肯定感が低い
・競争が嫌い
・特にやりたいことはない
(22〜23ページより)
彼らはとにかく目立つことを嫌い、大勢の前でほめられることさえ拒絶するそう。どうやらそこには、自己肯定感の低さが関係しているようです。
現在の大学生の多くは、自己肯定感が低く、いわゆる能力の面において基本的に自分はダメだと思っている。その心理状態のまま人前でほめられることは、ダメな自分に対する大きなプレッシャーにつながる。つまり、ほめられることはそのまま自分への「圧」となるのだ。(33ページより)
かつて「ほめられて伸びるタイプ」というフレーズをよく聞くことがありましたが、もはやそう簡単な問題ではなさそうなのです。しかも、ほめられたくないのではなく、人前でほめられるのが嫌だというのです。
つまり、ほめるべき環境(人前ではないところ)ではほめられることを好意的に受け止めるということ。だとすれば上に立つ人は「ここはほめるべき環境か?」ということを意識しながらほめなくてはならないわけで、非常に厄介ではありますね。
したがって就職活動においても彼らは「いい子症候群」を発揮し、「安定」と「普通」であることを重視するのだといいます。ポイントは、ここでいう「安定」にメンタル的な意味での安定感も多分に含まれている点。
周りがガシガシしてない感じ。上司とか先輩がガンガン来ない感じ。ルーチンな感じ。お前は何がしたいんだ、とか、まだ若いんだから、とか言われない感じ。 つまり、安定したメンタルで働ける、というニュアンスを含めての「安定」人気なのである。(131ページより)
特別なことを望むわけではなく、ただ平穏に過ごせればいいと考えているのかもしれません。もちろん、すべての若者が同じだというわけではないでしょうが、多少なりともこうした傾向があるということは事実のよう。
だとすれば文句のひとつも口にしたくなるかもしれませんけれど(そうしたらまた抵抗されるでしょうが)、いずれにしてもジェネレーションギャップを埋めるための第一段階として、彼らの傾向をつかんでおくことは無駄ではないと思います。
若者のエンゲージメントを高める5アクション
『イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ』(平賀充記 著、PHPビジネス新書)の著者は、職場の若者がイキイキと自走するためのキーワードとして「エンゲージメント」を挙げています。職場におけるエンゲージメントとは、端的にいえば従業員の会社に対する「愛着心」「帰属意識」「貢献意欲」を表すもの。
エンゲージメントが高まれば、活力と熱意がみなぎってくるわけです。そして著者によれば、若者のエンゲージメントを高めるための具体的なアクションは次の5つ。
(1)挨拶をアップデートする
(2)きちんと傾聴し、さらりと自己開示する
(3)「怒り」を「叱る」に変える
(4)その仕事の目的を擦り合わせる
(5)耳の痛いことを伝えきる
(257ページより)
まずは相手にしっかり向き合い、相手の目を見て、はっきりとした声と笑顔で挨拶する。挨拶するときに見せる笑顔には「相手を安心させる」効果があるそうです。
次に傾聴。相手の心理的安全性を高めるためには、相手の話をきちんと聞くことが大切だということです。なおポイントは、「聞く」のではなく「聴く」こと。「なんとなく聞く」のではなく「しっかり聴く」ことで、相手に「話をしっかり聴いていますよ=あなたのことを受け止めていますよ」と示すことができるわけです。
「怒る」のではなく、「叱る」ことが大切だというのも有名な話。自分の理想を、感情をぶつけることなく、相手へのリクエストとしてロジカルに伝えていく。それこそが「怒り」を「叱る」に変えていく本質だということです。
「その仕事の目的を擦り合わせる」とは、その仕事が若者にとって、どんなメリットになるのかということをきちんと合理的に語ること。なんのための仕事なのか想像してもらうわけです。
そして耳の痛いことを伝えきるコツは、相手の言動や行動に対して、事実ベースで具体的に伝えること。その相手が本気で変えようと思えば変えられる「DO」にフォーカスすることが原則だそうです。
これらのうちひとつでもいいのでアクションを起こしてみれば、若者のエンゲージメントは高まっていくといいます。
自分自身が"抱え込まない"
ところで新入社員との間にジェネレーションギャップを感じているとすれば、多少なりとも「がんばってしまっている」部分があるのではないでしょうか? しかし、必要以上にがんばってしまうと、どんどんストレスは大きくなってしまいます。
そこで参考にしたいのが、『「頑張る」をやめてみる』(根本裕幸 著、リベラル文庫)。心理カウンセラーである著者が、"抱え込まない生き方"の大切さを説いたものです。
たとえば考え方の異なる若い世代に仕事を頼む際には、いきなり大きな仕事を任せたりすることは避けるべきだと著者はいいます。大きすぎることは頼みにくいですし、頼まれた側も引き受けにくく、うまくいかない恐れもあるからです。
頼むことのビギナーさんは、「日常のちょっとしたこと」から頼むようにしましょう。
重い荷物を持ってもらったり、なかなか開けられないビンのフタを開けるのを手伝ってもらったりと、頼む側も引き受ける側も負担の少ない、簡単なことを見つけ、まわりの人に頼むのです。(111ページより)
そんな小さなことかと思われるかもしれませんが、"ちょっとしたこと"であれば、社会人としての自己肯定感が未熟な新入社員も受け入れやすいはず。そしてそれを成し遂げた結果、「上司の役に立つことができた」という成功体験がうまれるわけです。
また頼む側にとっても、それは意義のあること。「◯◯してほしいんだけど」ということばを身近なものにすることで、頼ることへの苦手意識を払拭することができる。そうすれば次にも頼みやすくなり、そうやって積み重なっていけば、コミュニケーションは少しずつ、でも確実に濃密なものになっていくに違いありません。
つまりは、そういった小さなことの積み重ねこそが、長期的にみれば大きな意味を持つのでしょう。