悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「なかなか休めない」ことに悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「なかなか有給消化できず会社に注意を受けています。うまく休むことができません」(39歳男性/営業関連)
労働基準法の改正により、有給休暇の取得が義務化されたのは2019年4月のこと。早くも3年が経過しているわけですが、今回のご相談がそうであるように、思うように有給を消化できないという方は少なくありません。
理由の大半は仕事が忙しいことにあるのでしょうが、いずれにしても制度と現実がうまくかみ合っていないということになります。
とはいえ休めなければ、肉体的にも精神的にも疲れはたまる一方。なんとかしないと、どんどん悪循環に陥ってしまうことになるでしょう。そこで今回は、「休み方」に関する、あるいはなんらかのヒントになりそうな3冊をピックアップしてみました。
超一流の「休暇の取り方」に学ぶ
もともと日本人は休み下手が多いです。
真面目で勤勉といえば、聞こえはいいのですが、何事にも一生懸命になり過ぎて、上手に肩の力を抜く方法がわかっていないともいえます。(「はじめに」より)
こう指摘するのは、『超一流、二流、三流の休み方』(新井直之 著、あさ出版)の著者。日本で執事サービスを行う会社を経営し、執事としての仕事を行っているという人物です。
執事の仕事と聞いてもピンとこないかもしれませんが、これまでに数々の「大富豪」と呼ばれる方々の身のまわりのお世話をしてきたのだとか。
そんななか「大半の日本人は、休めているようで、じつは効果的に休めていない」ということに気づいたのだそうです。それどころか、休み返上で仕事をしてしまうためリフレッシュできず、コンディションが最悪な状態になっている人も多いというのです。
そこで本書では著者ならではの視点を軸として、「三流、二流、超一流で休み方がどう違うか」を比較しているわけです(ちょっと表現は過激ですが)。
今回のご相談と関わる「休暇の取り方」について見てみましょう。
三流 カレンダー通りに休む
二流 仕事の進捗に合わせて休む
超一流 自分が休みたい日に休む
(28ページより)
当然ながら、もっとも簡単な休みの取り方は「カレンダー通りに」休むこと。ただし仕事が忙しい場合は、休日返上で働かなければならないというケースも考えられます。
一方、仕事の進捗に合わせて休暇の予定を立てる人もいらっしゃるでしょうが、これにも問題があるようです。仕事が予定どおりに進めばいいのですが、物事はたいてい予定より遅れるもの。したがって、仕事優先でいるかぎりは休むことができないのです。
そこで参考になるのが、休暇を優先するという「超一流」の考え方。まず最初に自分が休みたい日を決め、それに合わせて仕事を調整するという発想です。
著者のクライアントにも、8月15〜31日はハワイで過ごすと決めている方がいるそう。年間スケジュールに休暇の予定をあらかじめ組み込み、休暇を前提に仕事の予定を組むため、仕事に振り回されることがなくなるわけです。
なぜ超一流は、休暇を優先するのでしょうか。
それは「休暇=仕事のため」と考えているから。最高のパフォーマンスを発揮するために、カラダを休めたり、リフレッシュしたりしているのです。(30〜31ページより)
もちろん会社勤めをしている方の場合、自分の都合で休暇を取ることは現実的に難しいでしょう。しかしそれでも、「休暇=仕事のため」と意識することができれば、やがて「休暇を自分がコントロールする」という姿勢を確立できるはず。そこまでたどり着ければ、休み方も少しずつ改善していけるかもしれません。
「休暇=仕事から逃れる機会」と考えていた方は、まず意識から変えてみてください。(31ページより)
著者のいうように、ここをスタートラインにしてみてはいかがでしょうか?
休む覚悟を持つ
『人生の中心が仕事から自分に変わる! 休み方改革』(東松寛文 著、徳間書店)の著者は、平日は激務の広告代理店に勤務するサラリーマン。しかしその一方、週末を使って世界中を旅する"リーマントラベラー"としての側面も持っているのだそうです(筆者注:本書が発行されたのは2019年6月なので、コロナ禍以前の話だということになります)。
自らが休みを取るために「休み方」を研究し続けてきた"休み方研究家"を自負してもいる著者がここで伝えようとしているのは、努力や我慢を一切必要としない「休み方改革」。
「休めない人」の特徴も、その考え方に基づいた独自の尺度で見抜いています。なかなか休みが取れない人に共通しているのは、休む覚悟を自分のなかに持っていないことなのだと。
強い意志を持たないまま上司に休みの相談をするため、ちょっと厳しいことをいわれたり、上司の渋い顔を見たりしただけで、「やっぱり休みは取らなくて大丈夫です」と簡単に諦めてしまうというのです。
でも、たとえば、その休みが「ハネムーン(新婚旅行)」だとしたら、どうでしょうか。
一生に一度(のはず)のハネムーンです。仕事に支障がない時期を見計らい、パートナーと予定をすり合わせ、「ハネムーンなんだから絶対に休むんだ!」と、強い"覚悟"をもって、上司のところへ向かうはずです。そして、上司に対しても、ある程度強気で、「休みたいです!」と交渉できると思います。(83ページより)
極論だといわれれば、たしかにそのとおりかもしれません。が、揺るぎない"休む覚悟"を自分のなかにつくることが重要だと著者は主張しているのです。
なにかを始めるときは、それがどんなことであっても、もっとも大変なのは最初の一歩目。二歩目、三歩目、四歩目となるにつれて、どんどん簡単に踏み出せるようになっていくということです。
休み方改革も、自分の時間をつくり出し、自分が人生の主役になるという大きなゴールを目指す取り組みですから、その一歩目、「休むことを決める」ことが大変なことであるのは間違いありません。
とくに、今まで休んだことのない人だったら、本当に大変な一歩となることでしょう。
ですが、ここで一歩を踏み出さなければ、あなたの人生の主役は、一生、会社のまま。自分が人生の主役にはなれません。(86ページより)
それほど大変な一歩目だからこそ、少しでも楽に踏み出せるように、自分にはとことんやさしくしてあげようと著者は提案しています。
ちょっと休むためのメッセージ
さて最後に、ややテイストの異なる一冊をご紹介しましょう。ロック・バンドECHOESのフロントマンとして頭角を表し、現在はミュージシャン、作家、映画監督、演出家と多角的な活動を展開する著者による『ちょっと方向を変えてみる 七転び八起きのぼくから154のエール』(辻 仁成 著、文春新書)がそれ。
タイトルからもわかるとおり、困難を乗り越えるための考え方を軽妙な文体で伝えたエッセイ集です。たとえば今回のご相談には、以下の「少し休みましょう」というメッセージが響きやすいのではないでしょうか。
最初に、無理は禁物です。
次に、落ち着いてください。
そして、考え過ぎず、また、一切気をつかわず、
できれば、少し休んでほしいし、
とりあえず、今は忘れて、
一度、諦めてみるのも手で、
あんまり、思い詰めないで、
まずは、気楽に生きましょう
最後に一言、自分に優しくしてください
(38ページより)
なんてことのないシンプルな文章ですが、だからこそ心に響くのではないでしょうか? 休めなかったり疲れていたりするとネガティブになってしまいがちですが、そんなときこそ、少しだけ休んでみるべきなのかもしれません。