悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、出社が憂鬱な人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「コロナ禍で在宅勤務していましたが、勤め先の会社が出社型に戻ることになりました。出社が憂鬱です」(42歳男性/IT関連技術職)
新型コロナは決して"終息"していませんが、感染者数が減りつつあるだけに、なんとなく"収束"しつつある雰囲気にはなってきました。まだどうなるかはわからないものの、そんなせいもあって出社を再開する会社も増えてきたようです。
しかしそんななか、「ようやく在宅勤務に慣れてきたのに……」と感じている方も少なくないでしょう。ある意味では会社の意向に振り回されていると考えることもできますし、ご相談にあるように憂鬱な気分になったとしても、まったく不思議はないと思います。
とはいえ、現実問題として出社型に戻ることが「決定」したのであれば、好むと好まざるとに関わらず気持ちを前向きに持っていかなければなりません。でないと、ますますモチベーションが下がってしまいますからね。
「出社が憂鬱」と考える時間を減らす
そもそも会社勤めをしている人にとって、会社に行くことは「習慣」です。したがって、出社が憂鬱だったとしても行かなければならないわけです。そこでまずは、「習慣」という観点からこの問題を考えてみたいと思います。
参考にしたいのは、『ビジネスマンのための「習慣力」養成講座』(小宮一慶 著、ディスカヴァー携書)。本書内の「なれる最高の自分になるためにやめるべき習慣」の中で著者は、「消極思考」をやめることの重要性を説いているのです。
人や物事のよい面を見るか、悪い面を見るか、やらない理由を探すか、やる理由を探すかというとき、人間はポジティブなことよりもネガティブなことを優先させるようにできていると著者は指摘しています。
たとえば、楽しいことを考えながら歩いていたとき、誰かがぶつかってきて謝りもせず去っていったりすると、楽しい気持ちが吹っ飛んでネガティブ思考になったりするわけです。
ただし、そんな場合は不愉快になって当然。大事なのは、その嫌な感情をどれだけ早く断ち切れるか。いいかえれば、後ろ向きの感情を抱いている時間をどれだけ減らせるかが重要だということです。
そしてそれは、仕事に対する意識にもあてはまるものであるはず。
消極思考、後ろ向きの感情を持つこと自体は、仕方ありません。
ただ、それを持っている時間をどれだけ短くするか。
短くなればなるほど、積極思考、前向きの感情が持てるようになります。(160ページより)
だからこそ、そのための訓練をすることも大事だということ。今回のケースでいえば、いまある状況を「出社が憂鬱だと考える時間を短くするための訓練」だと考えれば、多少なりとも気持ちに変化が訪れるのではないでしょうか? 決してこじつけではなく、これは大切なことのように思えます。
被験者であるお腹を減らした学生を部屋に入れます。
部屋にはチョコレートと、生のラディッシュが置かれています。
Aチームの学生には…チョコレートを3個食べるように伝える。
Bチームの学生には…ラディッシュを3個食べるように伝える。
その後、難しいパズルに挑戦してもらう。
結果:Bチームの大半が、Aチームより早くパズルを解くことをあきらめた。また、強い疲労感も見られた。
(参考 フロリダ大学 心理学者ロイ・バウマイスターらの実験)
…つまり、ストレスがかかると自制心を消耗し、すべてにおいて、我慢することが困難になる。(174ページより)
自分をうまく乗せる状況をつくる
『図解 モチベーション大百科』(池田貴将 著、サンクチュアリ出版)では、このような実験結果が紹介されています。つまり人は、「やらなきゃ」「こうしよう」と決意するたびに自制心を使うということ。
ところが、そもそも「がんばろう」と思った時点で、もうそのことをやるべきではないと私は考えます。なぜなら「がんばろう」と思えば思うほど、「やりたくない」という感情が強まるからです。(175ページより)
したがって、自分をうまく乗せる"状況"をつくるべきだということ。そうすれば、自制心を無駄遣いせずにすむわけです。
もちろん仕事も同じ。たとえばデスクで気が散るなら、近所のカフェに行ってみる。カフェで隣の声が気になるなら、歩きながら考えてみるなど、自分にとって少しでも心地よい状況に身を置いてみれば、自制心を浪費することなく、過度にストレスを感じることもなく過ごせるかもしれないのです。
気乗りしないなかでも仕事をしなければならないのであれば、そういった発想も無駄ではなさそうです。
「自己肯定感」を意識する
「会社に行きたくない」と感じる原因の大半は「人間関係」にあると主張しているのは、『「会社行きたくない」気持ちがゆるゆるほどける本』(加藤隆行 著、小学館)の著者。
本書では、対人関係におけるトラブルを「自己肯定感」という視点から捉えてみることを勧めているわけです。
「自己肯定感」とは、自分を肯定できる感覚、つまり「ありのまま、今のままの自分にOKが出せる気持ち」のことを言います。
「ありのままの自分でOK」と思っている人、つまり自己肯定感が高い人は、「不完全な自分でもOKなんだから、あいつも不完全なところがあって当然だよな」と考えることができます。自分を肯定することで相手も肯定でき、人に寛容になることができます。(「はじめに」より)
「出社したくない気持ちと自己肯定感は関係ない」と思われるかもしれませんが、たしかに自分を肯定することができれば、人間関係を含むいろいろなことを容認できそうです。
ただ、そうはいっても、「とにかく、漠然と会社に行きたくない」ということだって考えられますよね。そんな気持ちが毎日続くようなら、「潰れてしまう前に一度、会社から離れましょう」と著者は提案しています。
パワハラ上司、嫌いな業務など理由が明確なら、対処の仕方もあるでしょう。でも「なぜだかとにかく」と理由がわからないようならかなりヤバい。自分の気持ちや感情を「べきねば」「いけない」で否定しすぎて、自分が何を考え、感じているのかも、もうわからなくなっているのかもしれません。(203ページより)
そこで著者は、自己肯定感を改めて思い出してほしいと訴えるのです。「自分=仕事」でもなければ、「自分=会社」でもないのだと。仕事は自分にとってオプション条件でしかないので、一時的に仕事ができなかったり、会社を手放したりしたりしても、自分自身の価値は変わらないという考え方。
まずは「会社行きたくない!」と口に出して自分の気持ちをしっかり肯定してみるべき。そして次に、会社から距離をとってみる。それは、心の土台を立てなおすための手段なのだといいます。仕事から距離を置いたところでゆっくり考える時間を持つことが大切だということです。
休んだり、会社から距離を置くことは簡単ではありません。そもそも休むことによって、「自分は甘えているのではないだろうか」と良心の呵責を感じる可能性もあります。しかし、休むこと、退職することは甘えではないと著者は強調しています。
自分の気持ちを大切にし、自己肯定感を取り戻すための大切な第一歩なのだと。
ココロの土台を立て直すために休むのです。仕事から距離を置いたところでゆっくり、どうしたら自己肯定感を育てながら働けるのか、考える時間を持ってみてください。(203ページより)