悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、プロ書評家の印南敦史さんに選書していただきます。

■今回のお悩み
「初めて管理職になりました。管理職に必要なことを教えてほしいです」(37歳会社員/営業関連)


管理職というポジションを与えられれば、やっぱりモチベーションはアップするもの……とキレイにまとめることができれば、それはもちろんベスト。しかし現実的には難しいことも多く、いや、もしかしたら難しいことのほうが多いかもしれず、手放しで喜んでばかりはいられないはずです。

なにしろ、部下を動かすという大きな役割と責任を背負っているのです。しかも部下だって、ひとりひとり個性の異なる人格の持ち主。マニュアルどおりに管理しておけば、なんとかなるだろうというようなことはあり得ません。

それどころか、相手の気持ちに寄り添わないと、信頼感を得ることは困難。それと同時に、ときには説得し、納得させることも重要でしょう。いいかえれば、やさしさと強いリーダーシップの使い分けが求められるわけです。

ところが問題は、先輩や上司から「管理職の心得」のようなものを教えてもらえるような機会はないに等しいということ。自分の力で処理しなければならないわけで、そこが管理職ならではのつらさと考えることもできます。

そこで、困ったときこそビジネス書を開いてみてはいかがでしょうか。当然のことながら管理職に関する書籍もたくさん発売されていますから、そこから自分にフィットしそうなアイデアやメソッドを抽出し、自分のものにすればいいのです。

というわけで今回は、管理職に必要な事柄を学べるオススメの3冊をご紹介することにしましょう。

『リーダーが育つ55の智慧』(似鳥昭雄著、角川書店)の著者は、2017年に500店舗を達成し、翌2018年2月期で31期連続の増収増益を達成した株式会社ニトリの創業者。その華々しい実績には、ひたすら快進撃を続けてきたような印象があります。ところが実際のところ、ここに至るまでの道のりは困難の連続。特に操業して間もないころは倒産の危機にも直面したのだそうです。

そのため何度も自殺を考えたという著者は自分自身のことを、「物覚えが悪くて勉強も苦手だったうえ、対人恐怖症で接客も非常に下手だった」と振り返っています。しかし周囲の助けがあったからこそ、成功をつかむことができたのだとか。

ちなみに成長の原動力は、1972年にアメリカの人たちの暮らしぶりを目の当たりにした著者が、「日本人の住まいにもアメリカのような豊かさを広げたい」というロマンを抱くようになったこと。

そしてそんなロマン(大志)とビジョンを社内でも共有し、社員たちが一丸となってその実現に取り組んできたからこそ、ニトリは店舗数を大きく拡大させ、多方面にわたる商品やサービスをお客様に提供できるようになったというのです。

いわば本書は、そのような実績が生み出してきた著者の考え方やノウハウを凝縮した一冊。「仕事とは何か」という根源的な問題に始まり、「上に立つものの心構え」「人づくり、組織づくりの原則」「部下を育てるとは」「自分を変えるには」「会社を伸ばすために」など、多くのことが明かされています。まさに、管理職やリーダー、経営者のための一冊であると言えそうです。

『出世する伝え方』(伊藤誠一郎著、きずな出版)は、プレゼンテーション指導のプロフェッショナルであり、年間100回以上のプレゼンを行ってきた実績を持つ著者による書き下ろし。

基盤となっているのは、「伝える力は単なる業務処理の道具ではなく、自分をアピールするための必須スキル」であるという著者の考え方です。とだけ聞くと「管理職にどう関係があるの?」と思われるかもしれませんが、やはり関係は"ある"のです。なぜならそのスキルは、

・上司に新しい企画を伝えて承認を得るとき
・部下に仕事の指示やアドバイスをするとき
・会議で業務報告や意見を述べるとき
・取引先に商品のプレゼンをするとき

など、さまざまなシチュエーションで活用できるから。

物事をわかりやすく伝え、相手の理解を得ることができれば、確実に成果を上げることができ、自分に与えられた業務上の役割を果たすことが可能。当然ながらその多くは、管理職の必須スキルでもあります。

しかも伝える力の効果と威力を深く認識し、他の人がやっていないことを実行すれば、自分自身を上のランクへ押し上げることができるとも著者は言います。そこに目をつければ「その他大勢」のなかから「選ばれる人」になれるということで、それは管理職のための道筋だとも言えるでしょう。

そこで本書では、「伝える力の高め方」「プレゼンでの伝え方」「資料で説得できる伝え方」「会議で一目置かれる伝え方」など、効果的な伝え方をさまざまな角度から明かしています。

なかでも管理職が注目すべきは、「『上司』に認められる人の伝え方」と「『部下』にも信頼される人の伝え方」。どちらも活用しやすい具体的なメソッドが満載なので、きっと役立つのではないかと思います。

ところでリーダーには、「強くて牽引力のある人」というようなイメージがあるはず。しかし、そんな捉え方を根底から覆そうとしているのが、『「弱い」リーダーが最強のチームをつくる』(嶋津良智著、ぱる出版)です。

著者は一般社団法人日本リーダーズ学会代表理事。これまでに30000人以上のリーダー育成に携わってきた、リーダー育成の第一人者です。そのような立場からリーダー論を展開しているわけですが、その主張は、一見「弱い」人こそリーダーに向いているということ。

ずば抜けた能力もカリスマ性もなくて当然で、むしろ一般のリーダーにとって「強さ」は害になるとすら断言しているのです。

理由は簡単で、つまり頭ごなしに怒鳴りつけたところで、人は動くものではないから。相手の「弱さ」や心の「痛み」に共感し、正しいサポートをして初めて、「この人のためなら」と動いてくれるものなので、そのことを理解する必要があると主張するのです。

ただし「リーダーは弱くていい」ということではないとも著者は書き添えています。リーダーなのですから、結果は求められて当然。批判を受けながらも、信念を貫き通さなければならないこともあるはず。

いわば自分の弱さを認めたうえで、「弱くても、生き残るための方法」を考え、実践することこそ大切だという考え方なのです。

管理職になれば必然的に、部下から反発されることも増えてくるもの。だからこそ、弱さを認め、「そこからどう進むべきか」を考えることは大切なのかもしれません。


いうまでもなく、これら3冊に目を通せば、抱えた問題のすべてを解決できるというわけではないでしょう。管理職とは、それほど甘いものではないからです。でも、なんらかのヒントを見つけ出すことはできるはず。現状をなんとかしたいと考えている管理職の方は、興味をお持ちになった一冊をぜひ手にとってみてください。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。