悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、自己肯定感を上げたい人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「自分は最近よく聞く『自己肯定感』が低いタイプだと思います。自己肯定感を上げるためにはどうしたらいいですか?」(31歳女性/専門サービス関連)
このところ、"自己肯定感"ということばを聞く機会がずいぶん増えたように感じます。それだけ自分に自信を持てない人、自分を肯定できない人が多いということなのでしょうし、それが社会のあり方を映し出した現象であることは疑いようもない事実だともいえます。
ただ、そう認める反面、過剰に反応しすぎている人が多いのではないだろうかという思いも個人的には拭えないのです。「自分には自己肯定感がない」と断言することによって、ある種の安心感を得ようとしているようにも見えるというか。
もちろん、安心感を得ることで心が落ち着くのであれば、それは意味のあることだと思います。とはいえ、なにごとも過剰になってしまうと、いろいろ別の問題が出てきたりもするもの。たとえば自己肯定感のなさを周囲にアピールしすぎれば、人間関係がギクシャクしてしまったとしても無理はないわけです。
それに、自己肯定感を保てないことが悪いように思われがちですが、そもそも「自己肯定感を持てない自分」は、程度の差こそあれ、誰のなかにも存在するものでもあります。
だとすれば大切なのは、「自己肯定感を持てない自分」を全否定するのではなく、「そんな自分といかに心地よく共存していくべきか」を考えることであるはず。そしてそれを実行し、少しでも楽な気持ちで毎日を送ることを考えたほうが建設的ではないかと思うのです。
さて、普遍的なこの問題に対し、ビジネス書はどう答えてくれるのでしょうか?
1分間で「セルフトーク」を行う
本書は、あなたが「ありのままの自分」と出会い、幸せに生きるためのスイッチを入れる本です。(中略)
もしかしたら、あなたはスイッチのありかを一時的に見失っているかもしれません。でも、過去になにがあっても、いまどんな状況であっても、あなたには希望を持って生きる価値があります。
そんな自分を全肯定できる「自己肯定感」のパワーが高まると、自分が本当に好きなことをして、いつも満ち足りた気分で毎日を過ごせます。
「自分には価値がある」と自然に思えるようになり、たとえなにが起きても、「どんなものごとも希望に帰られる」と強く信じられるようになります。(「はじめに」より)
心理カウンセラーである『あなたは、もう大丈夫。「幸せスイッチ」が入る77の言葉』(中島 輝 著、プレジデント社)の著者は、こう記しています。つまり本書では、自分の生きるエネルギーを力強く肯定できるようになるための手段を提示しているわけです。
しかも、そのアプローチはとてもシンプル。たとえば著者は、「ものごとのとらえ方」を変えることが大切なのだと主張しています。しかも、仕事や人間関係などでプレッシャーを感じたときには、1分間で「セルフトーク」を行えば、それは簡単に実現できるというのです。
まずゆっくりと深呼吸し、1分間で「自分がすでに持っている能力や強み」を思い浮かべます。
「人の話を聞くのが上手」「書類やデータをつくるのが得意」「ものごとを深く考えられる」「相手を深く思いやれる」など、探せばいろいろあるはずです。
次に、それらの能力や強みから、いまプレッシャーを感じている状況に対して使える能力を書き出してください。
すると、さっきまでネガティブにとらえていた状況に対して、「自分にはできることがある」「自分はうまくやる選択肢を持っている」と、プラスにとらえられるようになります。(111ページより)
状況に振り回されるのではなく、自分の得意な能力や強みを活用してみるべきだということ。そうすれば状況のとらえ方を変えることができ、自己肯定感も無理なく高まっていくもの。そしてそこまでたどり着ければ、プレッシャーを感じることすら「自分の強み」ととらえることができるようになるのだとか。
とてもシンプルな方法ですが、そうしたことを習慣づけることができれば、自分のなかのなにかを改善することができるのかもしれません。
「セルフ・ラブ」を育てる365日分の知恵とヒント
『1日ひとつ、自己肯定感を高める365の言葉』(トロイ・L・ラブ 著、山藤奈穂子 訳、SBクリエイティブ)は、著者のことばを借りるなら「自己肯定感に欠かせない、自分を大切にする心(セルフ・ラブ)を育てるのに役立つ知恵とヒントを365日分、収録した書籍。
まずは、本書に込められた著者のメッセージをご紹介しましょう。
ネガティブな気持ちは、あなたそのものではありません。あなたは太陽のような温かさと強さを持っていて、愛される価値がある存在です。本書はさまざまな名言、コツやヒント、かんたんなアクティビティなどを1日ひとつ、お伝えします。毎日、自分を大切にしていいのです。物事がうまくいっていないと感じたら、そのときこそ自分に優しくすべきタイミングです。(「はじめに」より)
名言やアクティビティなどを通じて不安を解消し、自分に感じる価値(セルフ・イメージ)を高めようとすることが目的となっているわけです。365日分に分けられているとはいえ、もちろんどこから読んでもOK。
「人間だもの」という考え方は、自分を大切にするとき、欠かせないものです。「自分だって普通の人間だし、まわりの人だって普通の人間なんだ、みんな同じなんだ」と気づくことができます。
この対極にあるのが、「自分はだめだ」という考え方です。こう考えると、自分には愛される価値なんてない、人に頼る価値なんてないと感じます。壁をつくり、人を遠ざけ、自分を傷つけているとき、「わたしだって人間だもの。みんな同じ」とは考えません。わたしたちはみな普通の人間で、完ぺきではありません。それでも、がんばっています。今日は1日、「みんな不完全な人間だもの」と頭に置いて過ごしましょう。(92ページより)
これは「6月6日」の記述ですが、ここからもわかるように、書かれているメッセージは簡潔で読みやすく、心に響くものばかり。手の届く場所に置いておき、気が向いたときにページをめくってみれば、自己肯定感を高めるために役立つ文章と出会えるかもしれません。
「つながり」を求め「ランクづけ」をやめる
人は誰しも心の奥底に、自分を過小評価する気持ち、すなわち自分には価値がないと思う部分を抱えている。その気持ちがときどき表面化することもあれば、人によってはそうした気持ちを常に感じている場合もあるかもしれない。自分を疑ったり、恥ずかしいと思ったり、不安になったり、落ち込んでしまったり。自分の価値を正確に評価しなければいけないときにかぎって、こうした感情が正確な評価の邪魔をすることが多い。その結果、心理療法士や自己啓発の専門家にとってなじみのある問題、そして大半の心理的問題の根源である「自尊心の低さ」が生じてしまうのだ。(「はじめに」より)
心理療法士である『自分を愛せるようになる 自己肯定感の教科書』(エレイン・N・アーロン 著、片桐恵理子 訳、CCCメディアハウス)の著者は、このように述べています。自己肯定感の低さに悩む人々は、もっと「つながり(リンキング=linking)」を求めると同時に、「ランクづけ/格づけ(ランキング=ranking)」をやめる必要があるのだとも。
まず、「自尊心が低い」という言葉には、ランクづけ(低いところから高いところを目指すべきだという批判)が伴う。ここでの本当の問題は、不正確な自己評価、すなわち自分を過小評価してしまうことにある。次に、もし自尊心の低さを改善するのがどうしても難しい場合、そこには他者と比較して簡単に誤った自己評価をくだしてしまうという、何らかの生物学的理由が存在する可能性がある。(「はじめに」より)
だとすれば、その理由がわかれば、自尊心(自己肯定感)が低くなることを妨ぐことができるかもしれません。本書は、そのような考え方に基づいて書かれているわけです。
この観点には、非常に大きな意味があるように感じます。たしかにランキングや権力が、私たちの日常において重要な要素であることは疑いようもありません。当然ながら、その影響力も無視することはできないでしょう。しかし最終的に、生物学的、感情的、精神的に重要なリンキングがランキングに勝るのも事実なのです。
社会的動物の大きな利点は、絆を深め、互いを守り、子を育て、食料を見つけ、病気やけがから回復し、遊びや訓練を行い、物事をじっくり考えることだと著者はいいます。なぜなら利他主義は、「適者生存」より、生きるうえで重要な意味を持つことがあるから。
周りを見回してほしい。私たちは共同体で生活し、物をつくり、みずからを統治するために協力し合っている。究極のリンキングともいえる現象は、電子メール、チャットルーム、ブログ、友人同士のネットワーク、出会い系サービス、自由なアイディア交換などを行えるインターネットかもしれない。インターネットはいろいろな意味で競争の激しい場所だが、その本質がランキングではなく、リンキングであることは否定できない。
私たちの日々の努力も、たいていは自分のためだけではなく、愛する人や、あるいは知らない人のためだったりする。他者への愛はあらゆるランキングを超越する。(46ページより)
これは、自己肯定感を高めるためにも、それ以前により人間らしく生きていくためにも、忘れるべきではない重要な視点ではないでしょうか?