悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「疲れている」人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「毎日とにかく疲れています。疲れがたまって仕方がありません」(37歳女性/その他技術職)
疲れているという方、多いですよね。ビジネスパーソンの日常にトラブルはつきものですから、知らず知らずのうちに疲れがたまっていたとしても不思議ではありません。
ましてやここ数年は、コロナ禍の影響も少なくないはず。テレワークを強いられれば、それまで続けてきた生活のリズムが乱れる可能性は大いにあります。しかも、やっと慣れてきたというタイミングで、ふたたび通勤を復活させる会社も増えているようです。
そんなことが続いていたら、生活のリズムが崩れてしまうことだってあるでしょう。そしてその結果、疲れがどんどんたまっていってしまう……。
絵に描いたような悪循環ですが、もしそんなスパイラルに巻き込まれていると感じるのであれば、それは修正したいところですよね。そこで今回は、疲労を少しでも軽減させるために役立ちそうな3冊を選んでみました。
眠りの質を上げる5つの方法とは?
それにしても、私たちはなぜ疲れをためてしまうのでしょうか? この問いに対し、1990年代から疲労を研究してきたという『隠れ疲労 休んでも取れないグッタリ感の正体』(梶本修身 著、朝日新書)の著者は次のように答えています。
仕事や運動、人間関係のストレスなど、疲れの原因はいくつもありますが、もっとも問題なのは、脳が「疲れていることに気付けない」状況が生まれることです。(「はじめに」より)
疲れがたまってくると、身体から脳に対して「休め」という警告が発せられ、そんな状態のときに私たちは「疲労感」を覚えるのだといいます。脳はそれを受け、眠る、休憩する、という行動をとるわけです。ところが、興奮状態だったり幸福を感じていたりすると、脳は身体からの警告を無視し、疲れを「疲労感」に変換しないことがあるというのです。
ちなみに、「疲労」と「疲労感」は別もの。疲労が「実際にたまっていく疲れ」であるのに対し、「疲労感」は「脳というフィルターを通した感覚」にすぎないわけです。しかも問題は、私たちの日常生活において、実際の疲れと脳が覚える「疲労感」が一致しないことが多いという事実。
その結果、生まれるのが、疲れがたまっているのにそれを認識できない、「疲労感」なき疲労……すなわち「隠れ疲労」です。(「はじめに」より)
「隠れ疲労」が続くと、「理由はわからないけれどグッタリした状態」でいることが多くなり、最悪の場合は過労死や突然死にもつながるというのですから恐ろしい話。なんとかそれは避けたいものですが、そのための有効な手段として、著者は「睡眠」の重要性を説いています。
疲労は、質のよい睡眠でしか回復しないというのです。重要なポイントは、眠りの質を上げること。そこで著者は、眠りの質を上げる5つの方法を紹介しています。
その(1)「決まった時間に起きる」
同じ時刻に起きる習慣をつけると、毎日のリズムが整い、日中の活動の調子もよくなって、眠る時間も揃ってくるわけです。
その(2)「軽い運動を取り入れる」
通常の生活をするなかで軽い運動をすると、眠りの質がよくなると考えられているのだそうです。具体的には、週に1〜2回、汗をかかない程度の距離をウォーキングするだけで十分。
なお運動は、必ず寝る2時間前までに終わらせておくべき。運動をすれば交感神経が優位となるため、眠る直前ではそれが入眠の妨げになるのです。
その(3)「40度以下のぬるめのお湯に15分、半身浴」
40度以下のぬるめのお湯に15分、半身浴をするとよりスムーズに入眠でき、睡眠の質もよくなるといいます。
ただし入浴直後は深部の体温が高いままなので眠りにつきにくいもの。そこで、体温が冷めていく時間をとる意味でも、入浴するタイミングは、眠りにつく1〜2時間前がベスト。
その(4)「寝る1時間前にリラックスタイムを設ける」
床に入る1時間ほど前から、意識してリラックスタイムをつくると、交感神経優位の状態から、副交感神経優位へと移行して睡眠の質もよくなるもの。読書をしたり音楽を聴いたり、自分がリラックスできる方法でのんびりと過ごすことに効果があるのです。
その(5)「照明をオレンジ色にする」
夕方以降には、夕焼けに近いオレンジ色の照明をつけ、夜には照明の明るさをぐっと落としたり間接照明を使うなど、できるだけ自然界に近い環境を照明で再現すると眠りが訪れやすくなるのだといいます。
試してみたい「1:2呼吸法」
ストレスの多い毎日を送っている人は、どうしても速くて浅い呼吸が当たり前になっています。
こう指摘するのは、『疲れたら動け!』(小林弘幸 著、クロスメディア・パブリッシング)の著者。速くて浅い呼吸は、交感神経を刺激し、心身を緊張モードにしてしまうというのです。また血管が収縮し、血液の流れも悪くなるそう。
そんなときオススメしたいのが、「1:2(ワンツー)呼吸法」。ゆっくりとした呼吸によって副交感神経の働きを高め、自律神経のバランスを整えることができます。 「1:2(ワンツー)呼吸法」のやり方は、とても簡単です。
(1)3〜4秒間、鼻から息を吸う
(2)6〜8秒間、口をすぼめて、口からゆっくり吐く
(3)これを5〜7回繰り返す
(141ページより)
息を吐く際には、なるべくゆっくり長く吐くことを意識すべき。そうすることで頸部にある圧受容体が反応し、副交感神経を効果的に高めることができるからです。
また、息を吸い込むときは鼻呼吸で行うようにしましょう。
なぜなら、鼻呼吸の場合、粘膜や毛などの物理的障害物により、空気中のホコリや病原体を排除することができるからです。乾燥した空気に適度な湿度も与えてくれます。
3〜4秒かけて鼻から息を大きく吸うときは、横隔膜を大きく広げるイメージで。続いて吐くときは、吸うときの倍、6〜8秒かけることが大切。おなかをへこませながら、口から細く、長くゆっくりと吐いていくのがコツだそうです。
疲れているとイライラしがちですが、「1:2(ワンツー)呼吸法」を2、3分(5〜7回)続けると、副交感神経の働きが高まって血流がよくなり、気持ちも落ち着いてくるといいます。試してみてはいかがでしょうか?
自律神経を整える365のハウツー
ところで、災害、転勤、引越しなどの大きな変化があったときに疲れてしまうのは、急な変化によって自律神経バランスが乱れてしまうからなのだとか。
自律神経の乱れは、何も手を打たずに放っておくと、心身の不調や病気の発症へとつながっていってしまいます。だから、私たちは日々さまざまな変化が起きても自律神経が乱れないように、1日1日、いろんな手を尽くしてバランスを整えていかなくてはなりません。
そこで、日々変化していく暮らしのなかでどのように自律神経を整えていけばいいかをまとめたのが、『名医が教える 自律神経がすっきり整う まいにちいいこと366』(小林弘幸 著、永岡書店)。
1日ひとつずつ、計365種のハウツーを紹介しているのですが、とはいえ日付を気にせず、気になるところから読むことも可能。そこで今回は、「食」の項目に注目してみたいと思います。1疲れたときは「ネバネバ食品」を摂って腸を整えるべきだというのです。
疲れたとき、バテ気味の時は、腸からコンディションを整え直すことが大事。そういう際は「即効性のある食物繊維」を意識して摂ることをおすすめします。
「即効性のある食物繊維」とは、納豆、オクラ、山芋、めかぶ、なめこ、モロヘイヤなどの「ネバネバ食品」です。(106ページより)
これらはみな、腸が喜ぶ水溶性食物繊維。ネバネバ成分に、胃腸の粘膜を保護・修復する整腸作用があるわけです。それだけでなく、ネバネバ食品には他にも健康作用が盛りだくさん。疲れたときはとくにしっかり摂って、腸から元気を取り戻すことが大切であるようです。
疲れているときは「疲れている」という事実にのみ意識が向かってしまいがちですが、大切なのはバランスです。睡眠、呼吸、食事と多角的にバランスを保っていけば、少しずつ体調が回復していくかもしれません。