悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、将来のキャリアに悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「ずっと今の会社にいられる気がしません。転職を視野に入れて将来のキャリアを考えたいです」(28歳女性/営業関連)
社会人になって相応の力がつきはじめてくると、なんらかの壁にぶつかるものです。
今回のご相談がまさにそれにあたると思いますが、「このままでいいのだろうか?」「すべきこと、できることがもっとあるのではないか?」と、いろいろなことを考えてしまうわけです。しかも、考えれば考えるほど答えが見えなくなり、ドツボにハマってしまったりもするのだから困りもの。
20代後半のころだったかな? 僕にもそんな時期がありました。でも、だからこそ断言できるのは、「その手の悩みの大半は麻疹(はしか)のようなもの」だということ。誰でも一度や二度は通る道であり、むしろ、そこで壁にぶち当たるほうが健全だとすら感じるのです。
なぜって、そこで悩んで壁を乗り越えられたとき、人間として間違いなく成長できるはずだから。
とはいっても、いま悩んでいる当事者にとっては簡単に割り切れるものでもありませんよね。その気持ちもわかります。結局のところは自分で悩み、自分で考え、自分で行動する以外にはないわけですし。
けれども、そんなときこそ大切なのは、先輩や上司のアドバイス、あるいは書籍のことばなどを参考にしてみること。さまざまな考え方を柔軟に受け入れてみれば、やがて自分なりの答えが見えてきたりするものだからです。
ということで、将来のキャリアを考えるうえで役立ちそうな3冊をピックアップしてみました。
「社会人10年目の壁」とは?
今回は28歳の女性からのご相談ですから、"10年目"も目前に迫っているということになるかもしれません。そこでまずご紹介したいのが、『社会人10年目の壁を乗り越える仕事のコツ 〈 若手でもベテランでもない中堅社員の教科書 〉』(河野英太郎 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
タイトルからもわかるとおり、10年目あたりで訪れる壁を乗り越えるための術を明かした一冊。印象的なのは、著者が社会人10年目の時期を「思春期」に似ていると指摘している点です。
社会人10年目前後の時期は、多くの悩みを抱えつつも、キャリア上の最も大切な時期、すなわち「キャリア思春期」とも言えます。この時期の過ごし方次第で伸びやかなキャリアを描く人もいれば、頑張っていても本人の思い描くキャリアから大きく外れてしまう人もいます。(「はじめに」より)
そこで本書では著者自身の経験を軸に、「こう考えると少し楽になりますよ」「ちょっとだけ工夫すると乗り越えられますよ」というようなノウハウやコツを明かしているわけです。
たとえばご相談内容がそうであるように、社会人10年目には「10年も働いてきたのに、誇れるものがなにもない」というような気持ちになってしまいがちです。著者も同じだったようですが、年齢を重ねる過程で接点を持った人の様子や、自分自身のキャリアを振り返ってみた結果、気づいたことがあったのだそうです。
たった10年で人に誇れるような仕事をできる人は、ほんの一握り。20年にひとつですら立派なものだ。なんなら、一生にひとつだって十分人に誇れるものなのだ、ということです。(20ページより)
そして、もうひとつ見逃すべきでないのは、「目の前の仕事を、着実にやり遂げること」。著者の知る成功者たちも、一様にそう主張しているといいます。
「自分はまだ、なにも成し遂げていない」と嘆く人が陥りがちな落とし穴は、やるべきことがいま目の前にあるにもかかわらず、別の「それっぽいこと」に気をとられてしまうことだというのです。
いうまでもなく「それっぽいこと」とは、いま注目の会社に安易に転職したり、正論だけを掲げてみたり、うまくいかないことを人や環境のせいにして仕事を放り投げたりすること。
逆にいえば、そうした誘惑に流されなかった人が成功できるのだともいえそうです。これはまず最初に考えるべき、大切なポイントではないかと思います。
ところで将来的にキャリアアップを目指したいなら、「自分のやりたいこと」を明確にする必要があります。しかし現実的に、「やりたいことがなんなのかわからない」という方もいらっしゃることでしょう。
それはなぜなのでしょうか?
キャリアを考えるとき人は2タイプに分かれる
『今のまま働き続けていいのか一度でも悩んだことがある人のための新しいキャリアの見つけ方 自律の時代を生きるプロティアン・キャリア戦略』(有山 徹 著、田中研之輔 監修、アスコム)の著者によれば、やりたいことが見つからない原因は、考える起点がわからないことに尽きるのだそうです。
漠然と「やりたいこと」を聞かれても、なかなか答えられなくて当然。しかし考える起点があれば、そこから順を追って考えていけるというわけです。ちなみに考える起点とは、これまでの経験や体験、知識、情報のこと。
そして重要なのは、自分のタイプを見極めること。キャリアを考えるとき、人は2タイプに分かれるのだと著者はいうのです。
それぞれを確認してみましょう。
<自分発信タイプ>
やりたいことを即答できる人はこのタイプ。自分のなかに問題意識があり、それを解決したいと考えています。
自分のなかに確固たる価値観があるタイプで、物事を判断するときは、自分の内なる価値観に照らして決めていきます。こだわりの強さが信条で、ブレることがありません。責任感と誇りがあり、役割や規律を忠実に守ろうとします。
その性質がポジティブに働く場合は、正義感があり、使命感や責任感を発揮します。一方で、ネガティブに働く場合は、独善的で支配的になることがあります。自分の価値観が強すぎて、排他的で批判的な傾向が現れることがあります。
頭ごなしに否定されることで強いストレスを感じます。(73〜74ページより)
<環境適応タイプ>
やりたいことがすぐに見つからない人はこのタイプ。外部の状況を柔軟に受け入れられます。物事の判断は、まわりの雰囲気や環境の変化を捉えて決めます。まわりの状況を見ることができ、相手を慮ることができます。
人を育成するマインドが高く、人から感謝されることに喜びを感じます。その性質がポジティブに働く場合は、寛容さがあり、肯定的で面倒見の良さを発揮します。
一方で、ネガティブに働く場合は、曖昧で過保護になることがあります。周囲の反応で判断することが多いので、自虐的で逃避的な傾向が現れることがあります。
まわりから反応がないと強いストレスを感じます。(74ページより)
大事なのは、どちらが優れているということではないという点。そして当然ながら、自分のタイプがわかるだけでも、やりたいこと探しは格段にしやすくなるはず。
したがって、自分がどちらに該当するかを見極め、そこから進むべき道を探すのもよさそうです。
自分の強みとなる「個性」を見つける
『いずれ転職したいので、今のうちに自分の強みの見つけ方を教えてください!』(山田実希憲 著、ぱる出版)の著者は、人と会社をつなぐ人材紹介を仕事にしているという人物。
本書の根底には、転職や就職活動など、働き方を選ぶ場面を想定しつつ、自分自身が持つ個性と強みを見つけていってほしいという思いがあるのだそうです。ポイントは、「人と違うところが個性であり、強みになりうる」という主張です。人との違い(特徴)こそが個性であり、それが重要だということ。
個性は、他人との差ではなく違い。つまり特別でも、特殊なものでもなく、それ自体に優劣はないわけです。では、他人との違いである個性は、そのまま「強み」といえるのでしょうか? この問いに対して、著者は次のように答えています。
「個性」が「強み」になるかどうかは、その人の個性の使い方次第だと私は思っています。例えば、1つのことにこだわる個性は、一貫してぶれない姿勢とも言えるし、融通が効かないとも言えます。
共感しやすい個性を持っていたとしたら、共感することで共に動くことができる協調性が強みだと言える一方で、人の意見に流されやすい弱みとも捉えられます。
このように、個性は発揮する場面や相手がいて初めて、結果として強みや弱みとして認識されます。(53ページより)
どのような個性であったとしても、それはその人が備えている特徴の違い。したがって、それ自体は強みでも弱みでもないわけです。しかしいずれにしても、大切なのは自分自身の個性を見つけ、受け止めていくこと。
それができれば、将来的に訪れるかもしれない転職に際しても適切な判断を下すことができるかもしれません。