悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、お金を使うことに不安を感じる人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「お金に困るほどではないのに、なぜか不安で使うことに躊躇してしまう。有意義な使い方をすれば、もっと人生を楽しめるのではないかと思うのだが、なかなか実行できない」(54歳男性/メカトロ関連技術職(電気・電子・半導体・機械他))
「有意義なお金の使い方をすれば、もっと人生を楽しめるのではないか」と思われているということは、いま、人生を楽しめていないのでしょうか?
ただ、根本的なところから考えてみると、「お金に困るほどではない」のであれば、それは幸せな状態にあると考えることもできるはず。幸せについての考え方は人それぞれですから持論を押しつける気もありませんけれど、まずは、お金に困ってはいない現在の状況を改めて実感してみるべきでは? そうすれば、「では、ここからなにをして、どのように楽しもうか」と前向きに考えることができるのではないかと感じるのです。
こういう時代ですから「不安で使うことに躊躇してしまう」遠いう気持ちもわかりますが、おっしゃるとおり、有意義な使い方はできるはず。そのことについて考えて、行動に移してみて、うまくいかなければ再チャレンジして……とトライ&エラーを繰り返していけば、いつか自分に最適な人生の楽しみ方が見つかるだろうと思います。
そこで今回は、お金の使い方についてそれぞれの考え方が明かされた3冊をピックアップしてみました。まずはいちばんオーソドックスな、"ムダの減らし方、お金の増やし方"に関する書籍から。
買う前に、冷静に考える
ファイナンシャルプランナーである著者による、『ムダを減らして、増やして安心! お金の使い方テク』(内山貴博 著、朝日新聞出版)がそれです。
今後の少子高齢化など私たちを取り巻く環境を考えますと、少なからず資産運用を始め、お金のことについて真剣に向き合わなければならないのは間違いありません。とはいえ、投資や年金をはじめ、保険の見直し、そして日々のお金の管理となると、どれも「難しそう」「めんどくさい」といった声が届きそうです。
本書では、そんな人たちに「おっ、すぐにできそう!」「意外とおもしろいかも!」と感じてもらえるようなお金の知識やテクニックをお伝えします。(「PROLOGUE」より)
このように述べている著者は、日々の買い物についても独自の考え方を明かしています。「買いすぎ」をストップするためには、「アンカリング効果」の仕組みと、それに引っかからない方法を知っておくことが大切だというのです。
しかし、そもそもアンカリング効果とはどのようなものなのでしょうか?
アンカー=いかりを投じることで船がその場から大きく動けなくなるのと同様に、最初に目に入った数字などの印象が強く残りその後の行動に大きな影響を与えること。
・最初に見た情報だけでお買い得! と感じる
・限定なら価値がある! という気がする
・この機会を逃したら買えないかも! と思う
↓
つい衝動買いをしてしまう
「70%OFF」に引かれたのに、実際に買ったのは10%OFFや20%OFFのものばかり……。個数が限定されると、値段にかかわらずお得に感じて買ってしまう…。
(「9ページ」より)
現実的に、こうしたことがお金の無駄遣いにつながってしまうというのはよくある話。だからこそ重要なのは、じっくり検討すること。最初の印象で飛びつかず、「本当にお得か」「本当に必要か」を見極めるべきだということです。
とくに注意したいのは、住宅や車など高額な買い物をする場合。「月々わずか○万円」というような広告を見かけることは少なくありませんが、購入方法をよく読むと、実際のお得感とはやや異なることがあるからです。
行動経済学の第一人者でノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンは「複雑な計算など知的活動を動員してアンカリング効果を打ち消さなければならない」と指摘しています。(「9ページ」より)
つまり買う前に、冷静に考えるべきだということ。日常的にそうした意識を持っていれば、やがてそれが有意義なお金の使い方につながっていくはずです。
お金を「正しく使う」には?
『人生を自由にしてくれる 本当のお金の使い方』(井上裕之 著、あさ出版)の著者は、ひとつ興味深い指摘をしています。お金に関する不安の多い時代にあっても、「お金の不安がない」人がいるのだと。ただしそれは「貯蓄があるから」でも「『先のことはどうでもいい』と投げ出しているからでもなく、「お金が回り続ける方法」を知っているからなのだそう。つまり「お金の不安がない」人は「お金の稼ぎ方以上に、使い方が上手」だということです。
「お金の不安がない人」は、
「稼ぎ方より大事なのは、使い方である」
「お金を正しく使うと、金額以上の価値を生み出すことができる」
「お金は『使うこと』で回り始める」
ことを知っています。(「はじめに」より)
稼いだお金を「貯める」だけでなく「正しく使う」と、使った金額以上のお金が入ってくるというのです。「稼ぐ」と「使う」の好循環を生み出しているということなのでしょうが、「正しく使う」とはどういうことなのでしょうか?
この問いに対して著者は、「自分の価値を高めてくれるものに使う」ことだと答えています。具体的にいうと、「お金の不安がない人」は、おもに次の5つにお金を使っているというのです。
・健康(食事、睡眠、運動など)
・教育(キャリアアップ、スキルアップ、社員教育など)
・貢献(社会貢献や、人の役に立つことなど)
・感謝(お礼の気持ち、大切な人への贈り物など)
・経験(今までやったことのないこと、新しいチャレンジなど)
(「はじめに」より)
この5つにお金を使うと、「自己成長」を促すことができ、「よい人間関係」も築けるので、結果的に「使った以上のお金が入ってくる」ようになるという考え方。
また同時に著者は、「自分にとってどれだけの価値があるか」を考えながらお金を使うことの重要性も説いています。豊かな人生を送りたいのなら、「貯める」と「使う」のバランスを考え、お金を正しく使うことが大切。そして、お金の価値には「相対的な価値」と「絶対的な価値」があることを知っておくべきだと。
・相対的な価値
金額が上がるほど、価値も上がる。個人の価値観は反映されない。
・絶対的な価値
金額の高低にかかわらず、「その人の気持ち」によって価値が変わる。
その上で、私は
「その出資に対して、どのくらいの絶対的な価値を見出せるのか」
で、お金を使うか、使わないかを判断しています。
「絶対的な価値」をもう一歩踏み込んで言うならば、
「その人にとっての価値」
「個人の価値」
と考えています。
(88ページより)
上記のアンカリング効果とも関連していることのように思えますが、たしかに「自分にとってどれだけ大切で、どれだけ価値があるのか」を意識すれば、有効なお金の使い方ができそうです。
「お金から好かれる人」になる
さて、最後にちょっと変わった一冊をご紹介しましょう。『年収90万円でハッピーライフ』(大原扁理 著、ちくま文庫)がそれ。タイトルからも想像がつくように、著者は25歳から東京で週休5日の隠居生活を始め、年収100万円以下で6年間暮らしたという経験の持ち主。現在は台湾に移住し、海外でも隠居生活ができるのかを実験中なのだそうです。
どんな場合にも当てはまる、いちばん大切なことって何でしょうか? それは、「どうすれば自分が幸せか?」を、他の誰でもなく、自分自身が知っていることじゃないかな。
その上で、まるで魚が潮目を読むように、物事が流れていく方向や、状況の変化を的確にキャッチして、自分の感覚を信じて行動していくこと。これさえ知っていれば、ちょっとぐらい流行とか景気とか人間関係、周辺環境が変わっても、しなやかにその中で幸せになれるはず。(29ページより)
無理をせず、自然体。そんな姿勢が伝わってくるだけに、本書を読んでいると、忘れかけていた大切なことを思い出したりもします。そしてもちろん、お金に関する考え方にもそれはあてはまります。
わたしはお金を「所有してる」と言う考えが薄いんじゃないかと、思い当たりました。お金がわたしのところに来たければ来るし、来たくなければ何しても来ない。ぜーんぶお金の意思に任せてる。わたしに出来ることは、「この人のところに行きたい」「この人ならお金を大事に使ってくれる」とお金に思われる人になるよう、努力することだけです。(186ページより)
これこそが、まさに真理なのではないでしょうか? たしかにお金に縛られるのではなく、お金から好かれる人になれるように努力することこそが大切なのだろうと思います。なかなか難しいことではありますけどね。