悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、眠れないことに悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「あまり眠れないこと」(65歳女性/営業関連(営業・MR・人材・コールセンター他))
「疲れているのに眠れない」「眠たいのに眠れない」など、ケースはそれぞれ違っていたとしても、不眠はやはり厄介なもの。確実に眠れる秘策はありませんし、それどころか眠れないとさらにストレスがたまり、よけい眠れなくなるという悪循環になってしまいがちだからです。
いまでこそ多少は楽に眠れるようになりましたが、思えば僕も幼少期から不眠症でした。毎晩とにかく眠れず、だから焦り、子どもだから不安にもなり……と、夜になるたびに緊張してしまうような調子だったのです。
振り返ってみれば、あのころは子どもながらいろいろなストレスを抱えていたのかもしれないなぁ。
「なぜ眠れないのか」睡眠障害を知る
などという話はともかく、眠れないならまずはご自分の症状を確認しておくべきかもしれません。そこで参考にしたいのが、『人はなぜ眠れないのか』(岡田尊司 著、幻冬舎新書)。自身も不眠症で悩んだ経験をもつ精神科医が、不眠症を克服するための方法や実体験に基づく極意までを明かした一冊です。
著者によれば、睡眠障害の種類は「入眠困難」「途中覚醒」「早朝覚醒」「熟眠障害」の4つ。つまり各タイプについて知っておくことが、問題の正しい見極めと対処につながるわけです。
入眠困難は、いわゆる不眠症にもっとも典型的な症状で、最も頻度が高いものである。寝つくのに苦労し、最低三十分以上、人によっては毎晩二時間以上、布団の中で悶々と過ごすのが当たり前になっている場合もある。ただしその場合も、昼間眠っているとか、朝遅くまで眠っているなど睡眠負債(筆者注:睡眠が借金のように積み重なり、不調の原因になってしまう健康状態)がわずかしかない場合には、何ら病的な症状ではない。(107ページより)
「ずっと起きていて体は疲れているのに寝つけない」というときにはじめて、入眠困難があるといえるそう。明らかにストレスとなる原因があり、一過性に寝つきが悪くなる場合もあまり心配はいらないといいます。
ただし慢性不眠症の人の場合、特別な原因もないのに、寝つくのに時間がかかるというケースも。そういうタイプの人は、眠ろうとするだけで緊張してしまうということもあるようです。
途中覚醒は、加齢とともに頻度が増える。六十歳以上の人では、一晩に二回程度、目が覚めるのは平均的である。またすぐ眠れれば、あまり問題はない。若い人でも途中覚醒が起きる場合には、精神的ストレスや飲酒の影響によることが多い。(108ページより)
その他、悪夢や体動によって目覚めてしまうということも考えられます。悪夢ではレム睡眠中断が起こりやすく、体動による場合は、手足が勝手に動く、むずむずしてじっとしていられないということになる場合も。
早朝覚醒は、いったんぐっすり眠るものの必要以上に早く目が覚め、それから眠れなくなるタイプの不眠である。いつもより一、二時間早く目覚める軽度なものから、深夜二時、三時に目が覚めてしまう重度なものまである。(108ページより)
なお、目が覚めてもできるだけ横になっているのがいいそうです。眠れないからと起きて活動すると、疲労が蓄積したり、症状を促進したりする原因になるからです。
そして最後は、眠りが浅く熟睡できない熟眠障害。徐波睡眠(脳波の周波数の低い成分(徐波成分)が中心となる睡眠)が減り、レム睡眠の割合が増えたときに、そうした感じを持ちやすいのだといいます。夢ばかり見るとか、眠っているのか覚めているのかわからないということも。
まずは自分がどれに当てはまるかを確認してみるべきでしょうが、不眠症の人は眠れないことを過剰に考えがちでもあると著者は指摘しています。
つまり主観的症状だけでなく、客観的に観察できる症状にも注意を注ぐ必要があるわけです。そのためのメソッドも紹介されている本書は、不眠症を克服するために役立ってくれるかもしれません。
睡眠の質を高める「濃縮睡眠」とは?
『誰でも簡単に疲れない体が手に入る 濃縮睡眠®メソッド』(松本美栄 著、かんき出版)の著者が提案しているのは、タイトルにもあるとおりの「濃縮睡眠」メソッド。限られた時間のなかで睡眠の質を高めるための、現代的な方法を提案しているのだそうです。
睡眠の質が上がれば、集中力が上がり、仕事のパフォーマンスは劇的に向上します。仕事がはやくなれば、自由に使える時間も増えるはずです。(「はじめに」より)
そんな「濃縮睡眠」とは、入眠から30分以内に、最も深いレベルの“ノンレム睡眠状態”に入って、一定時間深い眠りを維持できる睡眠。次の3つを行うことによって、より早く深い睡眠に入り、それを維持できるようになるということです。
(1)脳疲労を取り除く
脳疲労とは、いうまでもなく脳の疲労。脳が疲れると自律神経の機能が低下し、深く眠ることができなくなるわけです。なお脳疲労の大きな原因は、「眼精疲労」と「過度なストレス」で、つまりそれらを取り除くことが「濃縮睡眠」の大きなポイントだということ。
(2)血液の循環をよくする
筋肉が緩むと血の巡りがよくなり、副交感神経が優位になるといいます。そして適度に緩んでほぐれた体は、「早く眠れる体」でもあると著者。血液の循環が、「眠れる体」をつくるために大きな役割を果たすのです。
(3)睡眠環境を整える
睡眠の質と睡眠環境(寝室の状態)には、当然ながら大きな関係があるもの。たとえばベッドの下などにホコリがたまっていると呼吸が浅くなり、深く眠れないわけです。また、寝具や寝室の温度、香りなど、ちょっとしたことを見なおしてみるだけでも、睡眠の質は大きく変わるもの。
そこで「濃縮睡眠」を意識し、本書を参考にしながら睡眠の質を高めてみるのもよさそうです。
週に1回は「睡眠のための日」を
ところで上記に「睡眠負債」「自律神経」という単語が出てきましたが、『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(小林弘幸 著、アスコム)の著者も、睡眠のせいで真っ先に影響を受けるのが自律神経なのだと主張しています。
寝不足の状態が数週間続くと、自律神経が酸化ストレスの影響を受け、高血圧や不整脈が症状として現れるというのです。そしていずれは、アルツハイマー病などを誘発しやすくなることがわかっているというのですから気になるところ。
そこで本書では、意思である著者が研究してきた成果や、患者さんと接するなかで得た知見、世界中で研究対象となった自律神経の最新研究や情報を集約してまとめているわけです。
たとえば著者はここで、週に1回だけ「睡眠のための日」をつくることをすすめています。なぜなら、よい睡眠の確保は自律神経を整えるためにもっとも大事な要素のひとつだから。
基本的には、「毎日◯◯時間寝る」「夜△時に寝て朝×時に起きる」と決めておくことが大切。そしてそのために大切なのは、副交感神経を出せるような、よい眠りのためのスイッチをたくさんつくっておくこと。
寝室内に、リラックスできる音楽、眠りを誘う香り、読むと必ず眠くなる本など、“リラックスして眠れるような仕掛けや環境”を整えてみるのもいいかもしれません。
また、温めたタオルを首に巻き、首の筋肉を温めるのも効果的だそうです。なぜなら首には神経や血管が集まっており、温めると副交感神経が活性化しやすくなるから。
とはいえ、そういったことをする時間がないという方もいらっしゃるはず。だからこそ「睡眠のための日」をつくるべきだというのです。
忙しくてなかなかまとまった睡眠時間をとれない場合は、せめて週に1回は「睡眠のための日」を作りましょう。睡眠不足のまま仕事や勉強を続けても、やがてパフォーマンスは落ちてしまいます。今日は寝る日と決めたら、昼間は適度に運動をするようにしましょう。運動で生まれるセロトニンは夜寝るためのメラトニンを生成するので、スムーズに眠りにつくことができます。(213ページより)
著者の場合、夜は仕事のメールチェックはなるべく控え、起きてからみるようにしているのだといいます。それは、交感神経のスイッチが入らないようにすることで、睡眠の質を下げないようにするため。
たしかに、「睡眠のための日」をつくり、そういった"ちょっとしたこと"に配慮するだけでも効果が期待できそう。難しいことではないだけに、試してみる価値はあるのではないでしょうか?