悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、副業の幅を広げたいという人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「副業がうまく稼働できない。もっと幅を増やしたい」(36歳男性IT関連技術職(ソフトウェア・ネットワーク他))
働き方改革法が施行されたことにより、残業時間の上限規制や有給休暇取得が義務化されるようになりました。その結果、副業を解禁する企業が増えたのはご存知のとおり。
かつて、会社で働きながら音楽ライターをしていたら営業本部長から呼び出しをくらい、「うちはアルバイト禁止なんだよ! そっちを続けて会社を辞めるか、アルバイトやめてここに残るか、どっちかにしろ!」と究極の選択を迫られた経験を持つ身としては、まさか副業が推進される時代が訪れるとは思いもしませんでした(ちなみに、そのときは会社を辞めました)。
ともあれ会社が副業を推進するということは、「もう、これ以上責任は持てないから」といわれているようなものでもあります。会社がフォローしきれない部分は自分でなんとかするしかないわけで、なかなか難しいところですね。
しかも副業である以上は、本業を怠るわけにはいきません。そのため、今回のようことで悩む方が出てきても、まったく不思議ではないわけです。
本業との線引きを明確にする
『これだけは知っておきたい「副業」の基本と常識』(大山滋郎、植野正子 監修、フォレスト出版)の著者も、本業と副業を両立させることの大切さを強調しています。副業のせいで本業がおろそかにならないように、"けじめ"を大事にすべきだということです。
収入を得るための生活の柱は、あくまでも本業。副業をすると決めたら副業のことで頭のなかがいっぱいになってしまうかもしれませんが、まずは本業と副業の線引きを明確にしておく必要があるのです。
それに、いくら副業を解禁する会社が増えたとはいえ、いまだ副業を許さない会社だってあるわけです。でも、それでトラブルになるようなことは避けたいところ。
では、具体的にどうするべきか? 著者は、「本業と副業を両立させるコツ」を次のようにまとめています。
副業の時間、仕事量で無理をしない
□本業に悪い影響が出ないように休息時間、睡眠時間は適度にとる
本業と副業のけじめをつける
□本業の就業時間中に副業をしない
□本業の備品を副業で使わない
□本業の人脈を副業で使わない
□本業で得た情報を副業で使わない
副業の収入は秘密にする
□職場には内緒にしておくほうが無難
(31ページより)
最低限のルールとして重要なのは、本業の就業時間中には副業をしないこと。また、本業で使用する備品は、たとえボールペン1本でも勝手に持ち出して使うべからず。
もちろん、副業を目一杯やりすぎて疲れがたまり、本業がおろそかになってしまうようなことがあってはなりません。
そして、もし会社が副業を禁じているとしたら、同僚などに副業で稼いでいるというような話はしないほうが無難。もしも心配なら、副業をしてもいいか、上司などに相談してみるのもいいかもしれません。
つまり重要なのは、あとでバレて処罰を受けるような展開になったとしても、なお副業を続ける価値があるのかということ。最終的に、それは自分自身で判断すべきなのです。
副業を成功させる3ステップとは?
いずれにしても、副業をするのであれば成功させることが目標になります。そこで『自由にはたらく 副業アイデア事典』(中野貴利人 著、SBクリエイティブ)では、「副業を成功させる3ステップ」を紹介しています。
ステップ1 副業の目的を決める
副業とは、恒常的にワークライフバランスを改善し、将来的に達成したいことを実現するための手段。そこで副業を始める前には、「目的」を明確にしておくべきだということ。
本業では「収入」「経験」「喜び」が満たされず、副業1本では生活できないかもしれません。そこで本業と副業で相互補完して「理想」のワークスタイルに近づくほど、副業の存在価値が高まり、自然と副業を続けたくなるわけです。(15ページより)
したがって副業をはじめるときは、「その副業でなにを達成したいか」目的を決める必要があるのです。
ステップ2 長期的なマネープランを描く
副業をしている人の多くは、収入補填を目的にしているはず。そこで著者は、マネープランの策定をすすめています。
マネープランとは、人生100年時代において、自分が長期的に実現したいことをリストアップし、それが将来の家計で実現可能かをシミュレーションすることです。(16ページより)
仮に「生涯収入―生涯支出=プラス」という結果であれば、副業はしなくても大丈夫。しかし多くの人は、「生涯収入―生涯支出=マイナス」となるはず。だからこそ、第2の収入源である副業が頼りになるということ。そして長期的なマネープランを知ることで、長期的に副業を続けようとする意思が働くことになるのです。
ステップ3 副業の負の部分を認識する
もちろん副業にも負の部分があります。そこで、トラブル発生時も想定内の方法で対処できるよう、知識を増やしておくことが大切。副業で成功するためには、できるだけ負担を避けるべきだということです。
副業の大きなデメリットはただ1つだけです。それは副業のせいで「本業に悪影響を及ぼす」ことです。副業を転職や起業のきっかけにしたり、パラレルキャリアの道にすることもありますが、基本的には副業は本業ありきです。副業のせいで本業に迷惑をかけて、上司や会社からの評価が下がってしまうと、元も子もありません。(18ページより)
やはり、詰まるところ問題はこの部分であるようです。とはいえ本業に迷惑をかけなければ、副業は働く行為にすぎません。そういう意味では基本的に、ローリスク・ミドルリターンが期待できる仕組みだと著者は述べています。
副業の分野のドンになる
ところで『最短で最高の結果を出す副業バイブル』(小椋翔 著、フォレスト出版)の著者は、副業を行うにあたって「その分野のドンになる」ことの重要性を強調しています。
自らの命よりも強い力をあなたも持っていることを知っていますか?
それは「アイデンティティ」の力です。「あなたは何者なのか」がわかると、自らの命よりも強い力が生まれるということです。(42ページより)
つまり、「自分が自分であること=アイデンティティの力」を、副業にうまく活用すべきだということのようです。
例えば、あなたが副業で英語を教えているとします。そのときに、「私は、英会話の達人」と言い続けるのです。(中略)
その商品名に触れた人が「英会話=あなた」と覚えてくれれば、お客様になってくれ、そのエネルギーもどこかへ拡散していくでしょう。自分自身も「達人と名乗る者が、不安を感じていてはダメだ!」と、自分を奮い立たせることができます。(43ページより)
達人でなくとも、「日本一の◯◯」など、ポジティブなことばならなんでもOKだそう。必ずしも人に伝える必要はないものの、大切なのは、自分自身に違和感がなくなるまでいい続けることが重要だというのです。
違和感がなくなるまでいい続けた結果、そのアイデンティティが手に入ったという感覚になるのだとか。そこまでたどりつければ、アイデンティティが手に入った状態で生きられるようになるということです。
どんな偉人や成功者も、この感覚を先に手に入れることによって、「英会話の達人ならば、このような決断をしよう」と決断力が備わっていき、実際に、達人となっていくのです。(44ページより)
これは、副業だけに限ったことではないかもしれません。とはいえ副業を本気でする以上、このくらいの意気込みは持っておくべきだということなのでしょう。