悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「正社員なのにお金が足りない」と悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「給料が安い。老後の貯金が足りないし、遊ぶお金も足りないです。生活だけで精一杯。なんで正社員なのに、こんなに貧乏なのでしょう」(37歳男性その他・専業主婦等)
今回は、同様のご相談を複数の方からいただいています。つまりはそれだけ、お金のことで悩んでいる方は多いのでしょう。たしかに、お金の悩みは尽きないものですよね。
もちろん、かくいう僕もそれは同じ。自由業者ですからサラリーマンのように毎月決まった額の給料が振り込まれるわけではありませんし、将来のお金の保証だって皆無。この先の老後に向けて計画しなければと思ってはいるものの、なんとか毎日をやりすごしているような状態です。
つまり(正社員とフリーランスという差こそあれ)、不安感はみなさんと大差ないということになります。したがって、この問題に関しては「悩みにお答えする」などと偉そうなことはいえず、"一緒に考えていく"しかないのです。
そこで、同じ悩みを共有しているということを前提に、今回はお金についてのあれこれを学ぶことができそうな3冊をチョイスしてみました。
「お金をなにに使っているか」を知る
「お金が増えない」と悩む人たちの多くは「お金と向き合う」重要性をわかっています。(「はじめに」より)
ちょっと意外な気もしますが、『そのままやるだけ! お金超入門 貯金ゼロから100万円を最速でつくる超実践ガイド』(頼藤太希 著、ダイヤモンド社)の著者はこういいます。
マネーコンサルタントとして、これまでに講演や相談を通じ5,000人以上にお金の知識を伝えてきたという人物。本書では、そうした活動によって得た膨大なノウハウのなかから、"最速で生かせるエッセンス"を厳選して紹介しているのです。
まず特筆すべきは、「ちっともお金が貯まらない」人は給与明細書に目を向けるべきだと主張している点。
いうまでもなく、給料明細は大きく「勤怠」「支給」「控除」の3つの項目に分かれています。総支給額から総控除額を引いた差引支給額が、銀行に振り込まれる手取りの金額であるわけです。
そこで自分の給与明細をチェックして、まずは手取りと、手取りを減らす税金・社会保険料の数字を覚えることが大切だということ。
お金を貯める方法は、「収入を増やす」「支出を減らす」「お金に働いてもらう」の3つしかありません。(20ページより)
当然ながら最優先する必要があるのは、自分で工夫して下げることができ、お金が効率よく増やせる「支出を減らす」ことでしょう。そうして増えたお金を増えるところに預けて(投資して)、お金を貯められるようにする必要があるというわけです。
ところでお金が貯まる人には、ひとつの重要な特徴があるようです。それは、"なににいくら使っているのか"を把握しており、出費を予算内に収めていること。そのため家計がマイナスにはならず、結果的にお金が貯まるというのです。
そこからもわかるとおり、"お金をなにに使っているか"を知ることはとても大切。
「そんな難しいことできないよ」と思われるかもしれませんが、スマホの家計簿アプリを使うと手間をかけずにお金の動きを把握することが可能(本書では、その具体的なメソッドも背負い迂回されています)。
また銀行口座やクレジットカードと連携させると、月々の引き落としやクレジットカードでの買い物の内容を自動的に記録することもできます。そういう意味でも、利用しない手はなさそうです。
支出は大まかに3つに分類。「基本生活費」と「生活を豊かにする費用」の支出を減らせないか考えます。さらに費目別に内訳や金額をまとめてみましょう。1カ月の支出が把握できたら、年単位の支出・急な支出もチェック。いつ、どんな支出があるか考えてみましょう。(22ページより)
他にも節約の仕方から投資のコツまで広範囲なノウハウがまとめられた本書は、お金についての基本を知るために大きく役立ってくれることでしょう。
家計簿をつけて「数字で判断する」
【お金の問題とは「お金がない」ことではない】のです。
私は「お金」について考えるとき、お金を【稼ぐ力】と【管理する力】を分けて考えるようにしています。つまり、「毎月入ってくる収入」のみを考えるのではなく、「毎月手元にどれだけ残せるか」という考え方も同時に行うことです。(17ページより)
こう主張する『誰も教えてくれないお金の話』(うだひろえ 著、泉正人 監修、サンクチュアリ出版)の著者の考え方も、上記『そのままやるだけ! お金超入門』に通じるものがあります。つまりお金との関係は、それほど普遍的なものなのでしょう。
注目したいのは、著者が家計簿をつけることの大切さに言及している点です。家計簿をつけることによって、家計の現状を客観的に「数字で判断する」ことができる。それが重要だというのです。
家計簿をつけるうえで誤解しないで欲しいのは、目的は1円単位など細かい数字を把握することではなく、「家計の全体像を知ること」にあります。家計簿をつけることでみえてくるもの、それは「それぞれのお金はどこに流れていくのか?」というお金の流れ、お金の行き先です。(49ページより)
毎月のお金の流れを"比較し続ける"ことによって、「住居費の割合が高すぎる」「保険料にかける比率が低すぎる」など、お金の動き方が具体的に見えてくるということ。
もちろん、各家庭ごとに適正なバランスは異なるものではあります。それでも、毎月、各項目ごとのお金の流れを見つめていくことができる「お金の地図」があれば、適正値が維持できるようになるわけです。
また、家計におけるもっとも効果的な節約は、「固定費」の見なおし。なお、効率の高いものを順番に挙げると、
固定費の節約
ムダ遣いの節約
変動費の節約
時間の節約
(49ページより)
となるそう。
固定費の節約は、ランチの金額を抑えることなどにくらべてストレスはなく、一度仕組みをつくってしまえば、あとは放っておいてもOK。毎月、見なおした分の節約が維持され続けるという意味で効果が高いということです。だからこそ、家計簿を「お金の地図」として活用することには大きな意味があるわけです。
お金は「単なる数字」
『世界のお金持ちが実践するお金の増やし方』(高橋 ダン 著、向山 勇(執筆協力)、かんき出版)の著者は、12歳で投資を始め、21歳のときにコーネル大学をMagna Cum Laude(優秀な成績を収めた卒業生に与えられる称号)で卒業したという人物。投資銀行業務、取引に従事したのち、26歳でヘッジファンド会社を共同設立し、30歳で自身の株を売却したのだそうです。
つまり本書ではそうした実績を軸として、タイトルどおりの"お金の増やし方"を明らかにしているわけです。
そんな著者はかつて、"お金は評価だ"と思っていたそうです。自分よりも友だちのほうがお金を持っていたとしたら、それは自分より友だちががんばった結果で、高く評価された結果だと思っていたというのです。
そのため、「友だちに勝ちたい」「もっとお金持ちになりたい」という気持ちが強かったのだとか。大学を卒業してからも、競争が激しいウォール街で働きながら、同僚に勝つことばかり考えていたと当時を振り返っています。
しかし30代になって世界中を旅するようになり、訪れた国々の歴史を学んでみた結果、"自分は間違っていたかもしれない"と考えるようになったのだといいます。
世界各国を回ってみた結果、「お金は数字」であり、「心配事を減らすための道具にすぎない」という考えに至ったということ。
日本にはビリオネア(個人資産10億ドル<約1000億円>以上の人)はあまりいませんが、私が実際に会ったビリオネアは、お金のことをそれほど重要視していません。お金を「使うもの」ではなく「単なる数字」だと考えています。周りのためにお金を使って尊敬されることもありますが、自分が贅沢するためには使いません。(25ページより)
「お金をたくさん稼いで、ゴージャスな暮らしをしたいと考える人は、お金持ちになれないと思います」と著者がいうのは、実際にそういう人たちを目にしてきたから。だからこそ、「お金を増やす」ではなく、「数字を増やす」と考えた方がいいというわけです。
たしかに、そのほうがストレスも少なくなりそうです。さらにいえば、そこからさらに突き詰めていくと、最終的には「身の丈に合ったお金で、身の丈に合った生活をする」ことがいちばん重要なのだという結論にたどり着けるのではないでしょうか?