悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、上司からの飲みの誘いに困っている人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「仕事終わりに上司からの飲みの誘いをうまく断る方法」(30歳男性/販売・サービス関連)
緊急事態宣言が解除され、感染者数も急激に減っています。もちろんまだまだ気を抜くことはできませんけれど、なんとか収束に向かってほしいものですね。
いずれにしてもそんななか、リモートワークから出勤に戻ったという方も多いのではないでしょうか? となると、飲みのお誘いが復活することも充分に予想できます。事実、繁華街には人が戻りつつあるようですし。
お酒が好きな人にとって、それは非常にうれしいことでしょう。が、世の中にはお酒が苦手な人だっています。あるいは、「お酒は好きだけど、上司と飲むのはちょっとなぁ……」いう方がいてもおかしくはありません。
今回のご相談者さんも、そのことでお困りのようですね。
ただ、上司からの飲みの誘いを断るのは、とても難しいことです。「忠誠心がないやつだ」とか「俺の誘いを断るとは生意気な」などと思われる可能性がありますし、最悪の場合は社内の人間関係にも影響を及ぼす可能性があるのですから。
では、どうすればいいのでしょうか?
今回は、絶対的な答えが見つかりにくいこの問題のヒントになってくれそうな3冊を選んでみました。
相手といい関係を築く断り方
『一瞬でいい関係を築く コミュニケーション大百科』(戸田久実 著、かんき出版)は、コミュニケーションに関する悩みの代表である「伝える」「聴く」「質問する」「切り出す・切り返す」「大勢の前で話す」「仕事以外で会話する」という6つのテーマに分け、相手といい関係を築くためのコミュニケーション法を解説した一冊。
つまり、さまざまなコミュニケーションに関するノウハウを得ることができるわけで、当然のことながら"お誘いの断り方"にも言及しています。
特筆すべきは、気乗りしない上司との飲み会を断りたいときには、まず「誘っていただいてありがとうございます」とお礼の気持ちを伝えることだと主張している点。
そのうえで、「申し訳ありません。◯◯という理由で、伺えないのです」と理由を話せばいいということ。"お礼のワンクッション"をはさめば、相手も嫌な気持ちにならず、スマートに誘いを断ることができて後味が悪くならないわけです。
[先輩や上司からの飲みの誘いを断りたいとき]
◯「お誘いありがとうございます。申し訳ありません、体調がすぐれなくて……(家族の用事がありまして、先約がありまして)ご一緒できないのです。またぜひ、次の機会にお願いします!
[POINT]
・まずは誘っていただいたことの御礼を伝える
・断る理由を伝え、またお誘いいただきたいと伝える
(155ページより)
こうした手順を踏めば、相手の面子を潰さなくて済むということ。したがって、気まずくなることもないはずです。
「そんなの当たり前のことだ」と思われるかもしれませんが、その当たり前のことをできていない方も少なくないのではないでしょうか? 理由は明白で、つまりは誘われた時点で「嫌だ!」という思いが先に立ってしまい、"どうすべきか"を冷静に考える余裕がなくなってしまうから。
でも、誘われたのが事実であり、行きたくないのもまた事実なのだとすれば、システマティックに物事を進めたほうが角も立ちません。だからこそ、上記の手段を利用してみるべきなのです。
角を立てずに相手を拒むモノの言い方
『できる大人のモノの言い方大全』(話題の達人倶楽部 編、青春出版社)もまた、さまざまなシチュエーションで役に立ってくれそう。タイトルからもわかるように、多種多様な話し方のコツが簡潔にまとめられているからです。
「角を立てずに相手を拒むコツ」という項目でも(上記『一瞬でいい関係を築く コミュニケーション大百科』と共通するものも含め)さまざまな断り方が紹介されていますが、たとえば以下の2つも応用範囲が広そうです。
□あいにく動かせない予定が入っておりまして(誘いを断る)
誘いを受けたが予定が入っているとき、「その日は別の予定があるから行けませんね」と断るのは、相手の気持ちをまるで考えていない返事。「あいにく動かせない予定が入っておりまして、申し訳ないことに、伺うことができません」程度には丁寧に断りたいもの。実際に予定が入っているか、いないかにかかわらず使えるフレーズだ。(89ページより)□不調法なものですから(誘いを断る)
体質的にお酒が飲めない人もいる。そうした場合、「飲めません」では、あまりに芸がない。せっかくの宴席をしらけさせずに、コミュニケーションをはかる場として活用するためには「不調法でして」くらいの言葉を使いたいところ。(89ページより)
実は僕も過去に同じような方法を使ったことがあるのですが、やはり波風は立ちませんでした。しかも上司が事情を察してくれたため、関係性がかえってよくなったりもしました。そんな経験があるからこそ、上記2冊のアプローチには大きく共感できるものがあるのです。
とはいえ現実問題として、断るのは気分的に難しいもの。やってみれば意外とうまくいくのですが、そうだとわかっていても申し訳ない気持ちが先に立ってしまったりするものですからね。
相手の表情は気にするべきではない
そこで参考にしたいのが、『「断れなくて損している」を簡単になくせる本』(大嶋信頼 著、宝島社)。心理カウンセラーである著者が、"無理せずNOといえるようになる方法""断れなくても人に振り回されない方法"などを、脳のメカニズムに基づいて解説した書籍です。
たとえば注目すべきは、「断ろうとするときに、相手の表情は気にするべきではない」という考え方。
飲みの誘いにもいえることですが、「きょうはちょっと無理だから、NO」と断ろうとしたとき、「あ、相手の表情が変わった」と感じることがあるのではないでしょうか? その結果、罪悪感を抱いてしまい、胸が苦しくなったりしてしまうわけです。だとすれば、なおさら「NO」とは口に出せなくなっても無理はありません。
著者によれば、そういうタイプの人は「親の顔色を見て育った」ため、親を怒らせないように、失望させて悲しませないように努力してきたという自負があるのだとか。そのため、「ちょっとした相手の気持ちがわかってしまう」と思っているというのです。だとすれば、過去の経験に根ざしたそういう発想のクセが、社会人になってから出てしまったとしても不思議ではなさそうです。
つまり「自分がNOと断らなかったのは、相手の表情を的確に読んでいたからで、相手の不快な感情をコントロールすることができている」と思ってしまっているんです。でも、見方を変えると「私は相手の表情ひとつでコントロールされ、NOと断ることができなくなり、いやなことをやらされている」ということになります。(68〜69ページより)
それが、「相手に強制され、コントロールされている」という怒りにつながり、ストレスがたまってしまう原因になるということです。
そういう人のなかには「表情を読み取るのが得意」だという思いが少なからずあるのでしょうが、実際にはそうではないようです。悪いことを想像し、どんどん気持ちを暴走させてしまった結果、現実もどんどん悪い方向に進んでいってしまっただけだというのです。
だから「相手の表情が気になる!」と感じたときには、「相手の気持ちはわからない!」と思ってみるといい方向に事態が好転します。(70ページより)
「相手の気持ちはわからない」と思ったときに、「NO」と断ることができるのだそう。すると、「あれ? 別に相手はなんとも思ってないかも」と思えるようになってくるというわけです。
「相手の気持ちはわからない」と思って、NOと断ってみると、自分が表情を読み取れると思っていたのが間違っていて「全然、人の気持ちなんかわかっていなかったのかも」という現実が見えてきます。(71ページより)
もしかしたら、意外とそんなものなのかもしれません。いずれにしても、そうした考え方を前提として持っておき、最初の2冊に書かれているような礼儀をしっかり守りながら伝えてみれば、思っていたよりうまく断ることができるのかもしれません。