悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、効率的に仕事ができるコツに悩む人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「効率的に仕事ができるコツを教えてください」(32歳女性/販売・サービス関連)
「作家、書評家」という肩書きを持っている僕は、常に時間に追われています。書評が毎日公開されるため、常に本を読み、文章を書かねばなりません。土日祝日を除く毎日に締め切りが設定されていて、平日にはそれ以外にも、なんらかの締め切りがあります。
締め切りのない土日も、決して気を抜くことはできません。 なぜなら、翌日以降のための準備が必要だから。それを怠ると、新しい週が始まったと同時に、新しい締め切りにせっつかれることになるのです。
また、それとは別に本も書いていますから、どうしても時間が足りなくなってしまいます。
かといって、別に「忙しい自慢」をしたいわけではありません。そういうアピールを好む人がたまにいますが、基本的にそれはダサいスタンスだと思っています。それどころか、本心を言えば「もうちょっとゆったりしていると助かるんだけどなぁ」と思ったりもするのです。その反面、時間に追われるとかえって燃えてくるのですけれど(変態ですね)。
逆に時間がありすぎると、必要以上に気が抜けてしまったり、かえって効率が悪くなってしまったりもします。そう考えると、忙しすぎるくらいのペースが自分にはいちばん合っているのかなとも思います。
しかし、そうはいっても、複数の仕事を抱えている以上は仕事の効率化を意識し、どうすべきかを考え、より効率的に仕事を進めることができるようにする必要はあります。
ですから、たとえば「気が乗らない仕事は先送りせず、なるべく早めに片づける(そのほうが気が楽になるから)」「頭を悩ませずに済むルーティンワークも、早い段階で機械的に終わらせておく」など、自分なりに工夫しています。
でも、それは僕だけではなく、仕事をしているすべての人に必要なことでもありますよね。そうでなくてもいまの時代は、「人が減ったぶんだけ仕事が増えた」という状況に置かれて四苦八苦している人が少なくないのですから。
そこで今回は、質問者さんのような思いを抱いている方の参考になりそうな3冊をピックアップしてみました。
「整理」と「整頓」をしっかりやる
生産性の高さで知られるトヨタには、「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」という考え方があるのだそうです。それは、生産の現場で当たり前のように使われている基本中の基本。特に「整理」と「整頓」をしっかりやるだけでも、作業のムダがなくなり、効率がアップすると言われているのだとか。
そんな、トヨタ生産方式を支えている土台というべき5Sのエッセンスを「トヨタの片づけ」として捉え、そのノウハウを明かしているのが『トヨタの片づけ』(OJTソリューションズ著、KADOKAWA)です。
著者のOJTソリューションズとは、トヨタ自動車とリクルートグループによって設立されたコンサルティング会社。トヨタ在籍40年以上のベテラン技術者がトレーナーとなり、豊富な経験を活かしたOJT(On the Job Training)によって現場のコア人材を育てているのだといいます。
当然ながら、その考え方のベースになっているのは工場の作業。しかし、片づけの多さはオフィスでも同じだと著者は言います。
・書類をつくる
・書類を探す
・発送をする
・メールを処理する…… (「はじめにーー部下500人分の資料もデスク1つで大丈夫」より)
たとえばこのように、オフィスにもさまざまな作業が存在し、それが全体に占める割合は少なくないということ。つまり、それらひとつひとつの作業のなかに潜んでいるムダを極力取り除くことで、仕事はスピードアップでき、それが成果につながっていくわけです
整理・整頓ができないと、「書類をすぐに取り出せない」「モノをすぐに紛失する」など多くのムダが発生し、時間やコストの面で損失を被ることになります。
「その程度のムダはたいしたことない」と思われるかもしれませんが、そういう状態が続いていくとしたら継続的にムダを垂れ流すことになるため、仕事の効率や成果にもマイナスの影響を与え続けるというのです。
そこで本書では、確実にムダを減らすことができるトヨタの「整理術」を解説しているわけです。注目すべきは、単に精神論を強調しているのではなく、実践的な内容になっていること。
「『いつか使う』には期限を設ける」「『いらないもの』探しは壁ぎわから」「『使わないもの』『使えないもの』を明らかにする」など、誰にでも無理なく活用できそうなメソッドが多数紹介されています。
すぐにできそうなことから試していけば、着実に効率化を進めていくことができそうです。
大切なのは、「まじめ」さよりも「効率」
『99%の人がしていない たった1%の仕事のコツ』(河野英太郎著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、日本アイ・ビー・エム株式会社グローバル・ビジネス・サービス事業専務補佐兼GBSコンピテンシー開発担当マネージャー。グローバル・ビジネス・サービス事業を束ねるエグゼクティブの補佐と、同事業の全新入社員~3年目社員からなる組織のリーダーを兼務しているのだそうです(本書執筆当時)。
そんな著者が本書の冒頭で問題視しているのは、日本で美徳とされている「まじめさ」。それ自体を否定しているわけではないものの、「まじめ」さをはき違えると、その人の誠実な本位に反して「みじめ」な結果をもたらす可能性があるというのです。
いわば大切なのは、「まじめ」さよりも「効率」だということ。
そのような理由から、ここでは仕事を効率的に進め、着実に目標を達成するためのヒントが紹介されています。しかもそれらは、特別な能力や長く苦しい訓練がなくとも、ちょっとした工夫さえすれば、誰にでも成果を出せるもの。
内容に関して言えば、まず気がつくのは目的が重視されている点です。各章が「報連相(ホウレンソウ)のコツ」「会議のコツ」「メールのコツ」「文書作成のコツ」「コミュニケーションのコツ」「時間のコツ」「チームワークのコツ」「目標達成のコツ」と、きわめて具体的な構成になっているのです。
もちろん、その内容も実用的。たとえば「時間のコツ」に目を向けてみると、「他人の時間をムダにしない」「優先順位を決める」「すぐやる」「一つの行動に二つ以上の目的を持たせる」「早朝型を試してみる」と、書かれていることはとてもシンプル。だからこそ、無理せず試すことができるわけです。
書いてあることは当たり前のことや、本当に些細と感じるようなことかもしれませんが、意外に実行している人は少ないものです。(中略)
一方、これらの工夫をしている人を見ると、やはり周りからは一歩抜き出た、いわゆる「デキる人」が多いです。「デキる人」になるためには、特別なことを派手にやるというよりも、むしろ本書で紹介したような基本的なことを、愚直に積み重ねることが近道、というのが私の主張です。(「はじめに」より)
これは、多くの人が忘れかけている大切なことかもしれません。
成果が上がらない人の行動特性
ところで、「インバスケット」という能力開発ツールをご存知でしょうか?
インバスケットとは、架空の人物になりきって、制限時間内に多くの案件を処理していくというビジネスゲームです。(「はじめに なぜ成果に『100倍』の差がつくのか?」より)
こう説明するのは、『同じ条件、同じ時間で 10倍仕事ができる人、10分の1しかできない人』(鳥原隆志著、大和書房)の著者。「インバスケット」を研究し、大手企業をはじめリーダー層の教育や人材評価を行う会社の代表をしている人物です。
インバスケットを使うと、「コンピテンシー」と呼ばれる、成果を上げる人の「行動特性」がその人に潜在的にあるか、そして実際に能力を発揮できるかどうかを測定することができるのだといいます。
そんなインバスケットの考え方をもとに、「成果の上がる人の行動特性」と「成果の上がらない人の行動特性」を比較し、どうすれば成果が上がるかを解説しているのが本書なのです。
でも、どのようなことが書かれているのでしょうか? たとえば「時間の見積もりがうまくいかず、仕事の効率化に支障が出ている」という人に対しては、著者は「『逆算式』で考える」ということを提案しています。
仕事をしていると、目の前の仕事に注意が引かれ、そこに重点が置かれてしまうために、先の仕事はまだしも、先の先の仕事までは見えないことがほとんどです。
しかし成果を出せる人は、目標から逆算して計画を組む傾向があるので、仕事を俯瞰的に見ることができますし、締め切り効果で効率も上がります。(88ページより)
著者は大手流通業のスーパーバイザー(店舗指導員)として、店舗指導や問題解決業務に従事してきたという経験を持っています。ここではそうした経験に基づき、さまざまなノウハウが明かされているわけです。
つまり「効率化を高める」だけでなく、長い目で見て「成果を上げる」ことにも意識が向けられているということ。その合理性は、日々の作業はもちろんのこと、将来的なビジネスの可能性をも高めてくれることでしょう。
冒頭で触れた「人が減ったら仕事が増える」という現実はともかく、より効率的に仕事をこなすことができれば、それはモチベーションアップにもつながります。つまり、そういう意味でも「効率化」は非常に重要。これら3冊をはじめとする数々の関連書を参考にしながら、自分にとって最適な手段を探し出したいものです。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。