悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、意見や方針がコロコロ変わる上司に悩まされる人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「上司の方針がコロコロ変わり、それをちゃんと情報共有されない。部下が自分の思い通りにならないとすぐキレてくる。こちらもエスパーではないのでちゃんと方向をその都度教えてもらえてないのに上司の満足通りには動けない」(33歳女性/販売・サービス関連)


意見や方針がコロコロ変わる上司、いるものですよねー。僕も会社員時代、「あとはすべて任せるよ」とこちらに丸投げしておきながら、土壇場になってひっくり返すような上司に悩まされた経験があります。

しかもおっしゃるとおり、そういう上司に限って、思いどおりにならないとキレたりするものだから厄介。「子どもかよ」と呆れたくもなりますが、だからこそ「こちらもエスパーではないので」という表現を使いたくなるご相談者さんの気持ちもわかる気がします。

とはいえ残念なことに、そういう人はなかなか変わらないものでもあります。なぜなら、そもそも自分が悪いという自覚がないから。上司の場合、「それは間違っているぞ」と助言してくれる相手がいないことも考えられますから、なおさらその傾向は強くなるのではないでしょうか?

では、どうすべきか?

相手を尊重しながら怒りを伝える

たとえば、「アンガーマネジメント」を活用することもひとつの手段かもしれません。

近年よく耳にするようになったアンガーマネジメントとは、怒りを予防して制御するための心理療法。怒りをうまく分散させられるといわれていますが、そのメソッドを応用すれば、上司への怒りも制御できるかもしれないわけです。

そこで参考にしたいのが、『もう怒りで失敗しない! アンガーマネジメント見るだけノート』安藤俊介 監修、宝島社)。アンガーマネジメントの第一人者が、怒りをコントロールする方法をわかりやすく解説した書籍です。

  • 『もう怒りで失敗しない! アンガーマネジメント見るだけノート』安藤俊介 監修、宝島社)

注目すべきは、「怒りをうまく伝えれば状況が好転する」という考え方。しかも自分の気持ちをうまく伝えるためには、相手の立場を尊重しつつ、臆さずに主張する必要もあるというのです。

怒りは、「こうあるべき」だというコアビリーフ(その人が正しいと思っている信念や価値観)が破られたときに生まれるもの。その価値観が歪んでいるならまだしも、そうでないならこちらの価値観を主張することも大切だということです。

どんなに怒りを感じていても態度に出さなければ相手には伝わりません。「怒りっぽい人だと思われたくない」という気持ちから、失礼な態度をとられても指摘しないでいると、相手は行動をあらためないばかりか、より横柄な態度をとるようになっていきます。(80ページより)

したがって最初に「そんな言い方はやめてください。悲しい気持ちになります」と指摘できれば、嫌だという気持ちが相手に伝わるわけです。なお、そこで重要なのは冷静さ。怒りにまかせて怒鳴ったりしてしまうと、怒りと敵対心ばかりが伝わり、「嫌なことを言われたくない」という自分の気持ちが伝わりにくくなってしまうからです。

そこで相手の立場を尊重しつつ、自分の気持ちを主張できることを目指すべきだという考え方。理不尽な上司の立場は尊重しづらいかもしれませんが、そこで踏みとどまって"大人の対応"をすることが重要なのでしょう。

大切なのは、相手を尊重することです。性格・能力・人格といった相手そのものを否定するのではなく事実・行動・結果について話すなど、お互いにとって気持ちのいいコミュニケーションを心がけることで、相手を尊重する習慣が身に付きます。(95ページより)

これも、覚えておきたい重要なポイントだと思います。

嫌なことを言われる心構えをしておく

残念ながら、嫌なことを言ってくる人は本当に多くいます。
世の中は、ストレスだらけ。日々、心の戦いをしているようなものです。
そこで、そんなストレス戦士たちに、自分を守ってほしい。
突然の攻撃にも慌てることなく上手にかわし、相手を一騎打ちしてすっきりする術を伝えたい。そんな思いから、この本を書きました。(「はじめに」より)

『嫌なことを言われた時のとっさの返し言葉』(森 優子 著、かんき出版)の著者は、本書の執筆意図をこのように記しています。

  • 『嫌なことを言われた時のとっさの返し言葉』(森 優子 著、かんき出版)

離婚を経てシングルマザーになってから、昼は求人広告の法人営業、夜は銀座のクラブホステスとダブルワークを続けてきた人物。その過程においてさまざまな人と出会うなかで、あることに気づいたのだそうです。

嫌なことを言う人は、嫌な人ではあるのですが、悪人ではありません。平気で人をだますような人に比べれば、決して本質的に悪い人間ではないということです。
お子さまだったり、寂しい人だったり、ただの短気な人だったり、自信がないだけの人だったりするのです。(「はじめに」より)

したがって、そんなふうに見方を変えてみることができれば対策は簡単だということ。たとえばその"戦術"のひとつとして、著者は「心構えをしておく」ことの重要性を説いています。

いつどこで、だれに、どんなことを急に言われようとも、心の傷が最小限になるように準備しておく必要があるというのです。

ここでいう準備とは「構えておく」という心の準備、心に鎧をつけておくということです。
心の鎧があれば、嫌な言葉の矢が飛んできても、はじくことができます。
少なくとも、心の中に深い傷をつけることは避けられるというわけです。
外出の際、玄関で靴をはくと同時に、心に鎧をつけます。
「よいしょ」と、気持ちにはずみをつけるイメージです。
そして頭の中で「盾(たて)」と「矛(ほこ)」を装着しておきます。
盾と矛は、返し言葉という武具のことです。
(17ページより)

家を出る前に心に鎧をつけ、盾と矛を頭にインプットしておけば、心構えができるということ。そうすれば外に出たとき、いばる人とも真正面から向き合えるわけです。

「いばる人」はなおらない

『いばる人の転がし方』(斎藤 茂太 著、WAVE出版)は、精神科医である著者自身の体験とアンケートで集めた実例をもとに、「いばる人」の解説と対策をまとめたもの。いわば、彼らと上手につきあっていくためのメソッドです。

  • 『いばる人の転がし方』(斎藤 茂太 著、WAVE出版)

注目すべきは、著者が「いばる人はなおらないと思うべし」と主張している点。

というのも、いばる人たちには、あまり自分がいばっているという自覚がないからなんです。
自己顕示欲の強いいばる人は、負けず嫌いで常に人より優位にいたいという気持ちが強い。
「人に負けたくない」と思っているだけで、その結果としていばる人になってしまう。
本人は、必ずしもいばりたいと思っていばっているわけではないんですね。
これは、そういう性格なんです。
劣等感の裏返しでいばる人たちも同様です。
(166ページより)

そしてこういう人たちが人に対して威圧的になるのは、自分のなかにある劣等感を認めたくないから。自分を誇示することによって「優位に立ちたい」と言う欲求を満たしているわけです。

だとすれば、「いばるのはやめなさい」と言ってみたところで無駄な話。痛いところを突かれて逆ギレを起こすか、プライドを刺激されて怒り出すのが関の山だということ。

つまり、いばる人に真正面から向き合い、説得してどうにかしようというのはやめたほうがいいというのです。

じゃあ、どうすればいいか?
まずいばる人に対しては真正面から立ち向かっていかないこと。
これが、いばる人と接する時の基本的な姿勢です。
何を言われても、どういばられても無視をする。
「こんちくしょう」とハラワタが煮えくりかえっても、聞き流す、受け流す。
相手を憎らしいと思っても無視する。
「それじゃ、いばられ損じゃないか」と感じる方もいるかもしれませんけれども、「何とかしたい」「どうにかやっつけてやりたい」と思うあまり、ムダにエネルギーを消耗するほうがよっぽど損です。
(168ページより)

いばる人に立ち向かうエネルギーがあったら、そのエネルギーをもっと別のことで役立てたほうが、はるかに自分のためになる。そう考えるべきだということ。

この考え方は、最初にご紹介したアンガーマネジメントのそれとは違うようにも思えます。ただ、よくよく考えてみると、そういうわけでもないことがわかるはず。

「怒りをうまく伝えれば状況が好転する」のも事実ですが、それは相手が"うまく伝えればわかってくれる人"である場合の話。でも、言ってもわからない人が相手なのであれば、立ち向かっていかないこともまた正当な戦い方になるということです。

そういう意味では、相手によって対処法を使い分ける必要もあるのかもしれませんね。