悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、子どもにかかるお金が不安な人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「子どもが就職するまでのお金が足りるか不安」(42歳男性/専門サービス関連)
僕には息子と娘がいます。
でも、さまざまな事情があり、ふたりは11歳も離れています。あ、ちなみに離婚や再婚もしていないので、妻はずっと同じですよ。あくまで"事情"の問題ね。
息子は27歳で、すでに家を出てひとり暮らししているのですけれど、娘はまだ高校1年生。仮に20歳になるまで面倒を見ると考えても、あと4年はがっつり働かなければならないことになります。
でも4年後といえば63歳なので、そう考えるといろいろ不安ではあります。
ただし恥ずかしながら、これまでの道のりはどちらかといえば無計画なものでもあったのです。30代半ばから、ずっと安定感のないフリーランスとしてやってきたせいでもあるのですけれど、とはいえずいぶん無計画だったなあと反省してもいます(反省したところでどうにもならないけど)。
だから、今回のご相談にある不安感もなんとなく理解できるのです。子育てにかかるお金は、やっぱり不安ですよね。
お仕事が専門サービス関連とのことですが、組織に所属しているのでしょうか? それともフリーランスなのでしょうか?
組織の一員であるならば、相応の安定は約束されていることになるのでまだ楽かもしれません。とはいえ、心配なものはやはり心配。だからこそ、どんな立場にあったとしても、お金を貯めておくことは大切なんですよね。綱渡りの人生を送ってきただけに、心からそう思います。
ただ、お金の話って難しいもの。もちろん数字が得意な方もいらっしゃるでしょうが、少なくとも僕は非常に苦手です。そして、もしかしたらご相談者さんのなかにも、お金に対する苦手意識がおありかもしれません(もちろん推測ですけれど)。
「貯蓄」のメリットとコツを知る
というわけで、まずは基本的なことを確認しておきましょう。参考にしたいのは、『らくがきファイナンス 人生で損しない選択をするためのお金の知識』(ティナ・ヘイ 著、川添節子 訳、翔泳社)。
紙ナプキンに描いたイラストで金融知識を学ぶウェブサイト「Napkin Finance」を書籍化したものというだけあり、イラストが豊富で解説も簡潔な、わかりやすい一冊です。
「貯蓄」については、「貯蓄とは、別に取っておいて使わないお金のこと」という記述があります。お金の心配をせずに暮らせるかどうかは、貯蓄にかかっているのだとも。
なお、苦労して手にしたお金を専用の口座に貯めておけば、次のようないいことがあるそうです。
[安定]株価のように変動しないし、なくならない。口座はお金を保護するためにある。
[成長]利息がつくので増える。
[安全]アメリカ政府は、連邦預金保険公社(FDIC)を通じて、銀行に預けた残高のうち25万ドルまでを保証してくれる。
(12ページより)
アメリカを基準にした話ではありますが、それでも預金のメリットは理解できるのではないでしょうか?
そして「貯蓄のコツ」としては、次の3点が紹介されています。
専用の口座をつくる。(12ページより)
専用の口座をつくれば、普段使うお金と区別して貯められるため、手をつけずにすむということ。
収入のうちから貯蓄する割合を決める。(12ページより)
予算に基づいて、毎回の給料から貯蓄にまわす割合を決めるということ。たとえ最初はその割合が1%だったとしてもとにかく決め、数字を少しずつ上げていくわけです。
自動化する(13ページより)
給与が振り込まれる口座から、貯蓄用の口座へお金が自動的に移動するように設定しておくということ。なるほど、そうすれば給与が振り込まれても、貯蓄分は使わずに済みます。
これだけを実践してみるだけでも、スムーズに貯蓄できるかもしれません。
ライフプランニング=人生設計をする
『横山先生 ド素人の私に教えてください! これからの「お金」の貯め方&増やし方』(横山光昭×マネーフォワード 著、かんき出版)の著者も、一生お金の困らないようにするためには「ライフプランニング」が大切だと主張しています。
文字どおり、ライフプランニングとは人生設計。自分の人生でどんなことをいつごろ実現したいか、この先にどんなことが起きるかをしっかり考える作業です。そして当然ながら、子どもが就職するまでのお金もここに含まれることになります。
一度でもライフプランニングを行ってみるとわかるのですが、目標を定めずやみくもにがんばるのは効率が悪く、もったいないこと。先々のライフイベントを考えないで行き当たりばったりだと、自分の収入と貯蓄額で今、家を買っていいのか、子ども2人なら教育費はこの貯蓄ペースでいいのか、など問題に直面するたびにまったくわからない状態になってしまいます。(61ページより)
しかし、具体的にどうすればいいのかわからないという方もいらっしゃることでしょう。そんな悩みに対して、著者は「図に書きながら行うこと」をすすめています。
結婚: 100万円
住宅: 4000万円
出産: 40万円
自動車: 200万円
家族旅行: 50万円
大学進学: 300万円
介護: 200万円
老後: 毎月30万円
というように書き出していけば、大きなライフイベントや叶えたい夢の実現に向けて準備ができるわけです。
まずは自分(家族の分も)の寿命を100歳までと想定し、それぞれに毎年どんなライフイベントが起こるのかを設計していきましょう。(64ページより)
たしかに具体的なことをイメージしていけば、未来を可視化できるはず。そのため、安心感も大きくなっていくことでしょう。
"毎月かかるお金"で考える
けれども巷にはいろいろな情報が飛び交っているだけに、そうそう安心できないのもまた事実。
しかし、「典型的な家族」など存在しない時代になっているからこそ、情報に惑わされるべきではないと主張しているのは、ファイナンシャル・プランナーである『教育費&子育て費 賢い家族のお金の新ルール』(前野 彩 著、日経BP)の著者です。
あなたにはあなたの、そしてあなたの家族にはあなたの家族にぴったり合う「お金の貯め方・使い方」があります。
まわりに惑わされないお金の知恵を持ち、無駄な支出をなくすこと。そして、自分たち家族がどんな暮らしを優先し、何にお金をかけたいのかを、夫婦で、親子で、ちゃんと理解し合えていること。これが、子育て家族にとっての幸せなお金のルールです。(「はじめに『お金持ち=幸せ』から脱却しよう!」より)
たとえば、「子どもひとりにかかる教育費は2,000万円」などと聞くことがあります。でも、こうした大きな金額を聞くと、「うちはお金がないから子どもは産めない」「育てるのなんて無理」と感じてしまったとしても無理はありません。
しかし、それはあくまで"総額"の話。本来であれば、"毎月かかるお金"で考えるべきだと著者は強調しています。
保育園や幼稚園、小中高、そして大学。子どもの年齢によって、子育てにかかるお金は変わりますが、一般的に毎月の教育費が最もかかる中学校や高校の時期も、「月4万円」あれば、十分な教育環境を用意することができるのです。(10ページより)
「2,000万円」と聞いて不安になるよりも、「月4万円なら準備できそう」と前向きに、賢く、楽しく教育費の準備を始めるべきだということです。
本書では、小学校・中学校・高校・大学で毎月かかるお金の額や、お金のため方までがわかりやすく解説されています。子どもが就職するまでのお金の不安を解消するために、参考にしてみるといいかもしれません。