悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、外食の支出に悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「育休から復帰後の仕事のモチベーションが上がらない」(31歳女性/事務・企画・経営関連)
「なるほど、育休から復帰するに際しては、そういう問題も出てくるものなんだなぁ」
今回のご相談を拝見し、まずはそう感じました。そのため最初は、「育休から復帰する人がモチベーションを高めるためにはどうしたらいいのか」と考えてしまったのです。
でも考えてみると、それは育休から復帰する人だけに限った話ではないはず。長期休暇などから復帰する場合など、さまざまな事情にも同じことがいえるわけです。
そのため視野を広げ、「モチベーションが上がらない」「やる気が出ない」という観点から、その対処法を探ってみたいと思います。そうすれば必然的に、育休から復帰する人のモチベーションアップにも応用できることになるはずですからね。
食事、睡眠、運動など日常生活を見なおす
精神科医である『めんどくさくて、「なんだかやる気が出ない」がなくなる本』(西多昌規 著、SBクリエイティブ)の著者は、現代人には「めんどくさい」「やる気にならない」と感じる人が多いと指摘しています。
厳密にいえば「やる気にならない」というより「やる気になれない」というべきで、それは現代社会が抱えている「やる気を失わせる構造」が大きく影響しているというのです。
1990年ごろから導入された「成果主義」がそうであるように、現代社会の至る所に"人のやる気がつぶされてしまう空気が漂っている"ということ。
そこで本書では、やる気にならない社会的背景や心理の分析からスタートし、やる気を出すために必要な「モチベーション」を科学的に分析しているのです。
たとえばモチベーション低下の要因として、著者は「セロトニン」の低下に焦点を当てています。セロトニンについて知っておけば、やる気アップのための手段をより深く理解することができるというのです。
うつ病の症状に代表される、陰気、イライラ、不安などの気分の不調は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンが関与していることが明らかになっています。(中略)モチベーションが下がりっぱなしという要因も、このセロトニン不足が影響しているのではないかと考えられています。(91ページより)
といっても、やる気にならないという状態が必ずしもうつ病というわけではなく、望ましいのはなるべく薬の力を借りずにセロトニンを活性化し、やる気を回復してモチベーションを高めていくこと。
だとすれば、その方法を知りたいところです。
脳内のセロトニンの働きを上げるヒントは、日常生活に隠されています。
それはすなわち、食事、睡眠、運動の三つです。(92ページより)
まずは食事。セロトニンはトリプトファンという必須アミノ酸から合成されるものなので、バランスのよい食事をしてトリプトファンを摂取することが重要。トリプトファンが多く含まれている食品としては、チーズ、ナッツ、バナナ、納豆などの大豆食品など、おもにたんぱく質を多く含む食品があるそうです。
次に睡眠。睡眠中には脳の「松果体」という部位から、通常の睡眠を促す作用を持つメラトニンというホルモンが分泌されるそう。夜中にかけて分泌量が最高値に達するメラトニンは、セロトニンの助けを借りて合成が促進されるといいます。
つまりセロトニン不足が良質の睡眠を妨げ、睡眠不足によってモチベーションも上がらないという悪循環に陥ってしまうというのです。
そしてセロトニン活性を高める運動としては、早歩きのウォーキング、ジョギング、自転車のツーリング、吐く息を長くする呼吸運動などのリズム運動が最適。
こうした理由から、モチベーションが下がっているなと感じたら、まずは食事、睡眠、運動などの面から日常生活を見なおすべきだと著者は主張しています。
"新たな日々"として毎日目標を立てる
『1分間でやる気が出る146のヒント』(ドン・エシッグ 著、弓場 隆 訳、ディスカヴァー携書)の著者は、「モチベーションの第一人者」として好評を博しているという人物。
本書ではそうした実績に基づき、仕事とプライベートの両面で明確な目標を見据え、ポジティブに行動できるようになるためのメッセージをまとめているのです。
ポイントは、1ページ1項目の構成で、短文のメッセージが並べられている点。つまり興味を引かれた項目から、気軽に読むことができるわけです。
各項には、読者が自分の強みや長所を生かして、よりよい人生を築き上げるための明確なヒントがわかりやすく書かれている。また、職業上の目標設定と個人的な目標設定にも役立つよう配慮した。(「はじめに」より)
そんな本書のなかから、今回のご相談に役立ちそうな項目をピックアップしてみることにしましょう。
まず最初は、「毎日、目標を立てる」こと。育休から復帰するとなると、気持ちを新たにして仕切りなおす必要があります。そのためには、著者はここで引用している「きょうは、これからの人生の最初の日だ」という項目を役立てることができそうです。
これからの日常を、"新たな日々"として受け止めるわけです。
私たちは毎日を新しい選択と目標のためのチャンスにすることができる。一日の初めにまだ何も書かれていない真っ白のキャンバスに向かって、自分の人生を新たに描くことができるのだ。 毎朝、目覚めたときに、新しい一日を喜んで迎えるようにしよう。すべての瞬間を最大限に生かすためにはどうすればいいかを考えよう。一日の計画を立て、自分を磨きながら、すべての瞬間を充実させて生きよう。(16ページより)
たしかに、まずは一日の初めの段階から気持ちをクリアにすべきなのかもしれません。
家庭であれ、職場であれ、あなたが毎日を過ごしている場所は、あなたの生活空間である。 自分の生活空間を前向きで、快適で、やる気が出てくるように工夫しよう。そのためにできることはいくらでもある。たとえば、壁を鮮やかな色のペンキで塗ってもいいし、写真をたくさん貼るのもいい。
しかし、もっと効果的な方法がある。一日一日を勇気を持って意欲的に生きるのに役立つ名言を壁に貼っておくのだ。(21ページより)
一日の長さを伸ばすことはできないけれども、一日の幅を広げ、深みを増すことはいくらでも可能。
そこで、生活空間を広げることを考えるべきだということ。なるほどそうすれば、長く過ごすことになる空間をより快適なものにできそうではあります。
仕事環境にモチベーションを刺激するものを散りばめる
ビジネスというのは、心で動く人間が心で動く人間を相手に行う営みです。その意味では、心の法則を読み解く心理学は、ビジネスのあらゆる局面にかかわってきます。(「まえがき」より)
心理学博士である『ビジネス心理学 100本ノック』(榎本博明 著、日経文庫)の著者は、このように主張しています。
そこで本書では、「人間関係」「人事評価」「キャリアと能力開発」「リーダーシップ」など、さまざまな角度からのアプローチを試みているのです。
気になる「無意識のうちにモチベーションを高める方法」については、次のような記述があります。
最近の心理学の研究では、環境刺激によって無意識のうちにモチベーションが刺激される心理メカニズムがバージの自動動機理論によって盛んに研究されています。たとえば、交渉時に硬い椅子に座ると、柔らかい椅子に座る場合より強硬な姿勢を取り、なかなか妥協しないことが証明されています。熱いコーヒーカップをしばらくもっていると、冷たいアイスコーヒーのグラスをもっていたときより、人に対して「温かく」、好意的な印象を抱くことも証明されています。商談を成功させるには、快適な物理的環境を用意することがいかに重要かがわかるでしょう。(125ページより)
つまり仕事へのモチベーションを高めるには、仕事環境にモチベーションを刺激することばや目標などを散りばめていくと効果的だということ。
これもまた、モチベーションを高めるにあたって意識しておくべきポイントだといえるのではないでしょうか。