悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、マネジャーとしての仕事に悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「マネジャーとしての部下の動かし方を知りたい」(33歳男性/営業関連)
以前にも書いたことがありますが、僕はリーダーシップのない人間です。断言できます。そんなことを断言してどうするのかって感じですが、事実なのですから仕方がありません。
そこまで言い切れるのは、若いころ、リーダーとして人を動かすことに関して何度も失敗してきたから。
早い話が不器用そのもので、いまでも思い出すたび顔から火が出そう。後悔したくなることばかりですが、後悔したところでどうにもなりませんよね。
ですから、「あのころの失敗があったからこそ、いまがあるのだ」と前向きに考えることにしています。
でも今回のご相談を拝見したら、改めて当時のことを生々しく思い出してしまったのでした。なぜって、ご相談者さんの年齢があのころの僕に近いから。
33歳ということですが、僕がリーダーシップを発揮できないダメ上司だったのが、まさに30代前半のころだったのです。
当時の僕は課長職に就いていましたが、(会社の規模にもよりますけれど)ご相談者さんも33歳ということであれば、課長やマネジャーとして人を使う立場にあるのでしょう。だからお悩みなんだろうなと推測します。
でも現実問題として、そのくらいのころって自分(や自分のやっていること)に自信が持てなかったりすることも少なくないんですよね。
ましてや人に相談できるようなことでもありませんから、結果的には自分ひとりで抱え込み、リーダーシップを発揮できないまま悶々と悩んでしまったりするわけです。すべての人がそうだとはいいませんが、でも、そんな方は少なくないはず。
マネジャーの仕事とは何なのか?
そこで、まずは『プロフェッショナルマネジャーの仕事はたった1つ』(髙木晴夫 著、かんき出版)を参考に、基本的なことを改めて確認してみたいと思います。
「そもそもマネジャーの仕事とは、なにをすることなのか?」という問題。このことについて、著者は次のように説明しています。
マネジメントの仕事とは、「状況を判断しつつ、仕事の結びつきを調整し、部下とともに働き、担当する仕事(目標)を達成すること」となります。(52ページより)
まず大切なのは、「いま、どう状況か」ということを、常にできるだけ正確に把握すること。
ただし状況は必ずしも単純とは限らず、とても複雑な場合もあります。だからこそ、正確さが求められるわけです。
次は、「仕事の結びつきを調整する」について。会社における仕事は、自分の上司や同僚、部下など社内のさまざまな人たちと、いろいろなことをすり合わせながら進めていく必要があるということです。
つまり上司は、自分の担当する仕事や直属部下の仕事を円滑に進めるため、社内の「自分より上」の人や「自分と横並び」の人、「自分より下」の人たちが担当する仕事に目配りしつつ、日々「調整」をしなければならないのです。
最後は、「目標を達成する」。
上司は部下と働きながら、自分が持っている(会社から持たされている)「目標」を達成しなければいけないということ。
このようなマネジメントの基本を確認してみれば、いま、そしてこれからの自分がどう立ち回り、なにをしてくべきかが理解できるのではないでしょうか?
リーダーシップの「型」を知る
では、「リーダーシップ」についてはどうでしょうか?
人事コンサルタントである『課長1年目の教科書』(平康慶浩 著、かんき出版)の著者は、仕事のなかで発揮すべきリーダーシップは、「仕事を取り巻く環境の変化」と「自分の下に属しているメンバーの個性や能力、モチベーションなどの個人要因」によって大きく変化するものだと主張しています。
環境の変化によってとるべきスタンスは変わり、個々人の個性、能力、モチベーションの変化を観察したうえで「どんなアプローチが適当か」を判断していく必要があるということ。
ここでは、そうした変化と変動に合わせた4つのリーダーシップが紹介されています。部下のモチベーションを高め、チームをまとめるためには最低でも1つのリーダーシップの型を身につける必要があるというのです。
(1)指示命令型リーダーシップ……とにかく行動しなければいけない場合に有効なリーダーシップ。目指すべき成果と行動内容を明確に示す。→怒る力(138ページより)
(2)支援型リーダーシップ……働きやすい環境をつくり出す場合に有効なリーダーシップ。この仕事がなぜ重要なのか、達成することの喜びを教え、部下が仕事に飽きないよう、明るく仕事に取り組むことのできる環境をつくり上げていく。→認める力(138ページより)
(3)参加型リーダーシップ ……個別最適での対応が求められる場合に有効なリーダーシップ。課の目標や目標達成のための方法の意思決定の場に、部下を積極的に参加させ、リーダーである自分もその一員となる。→楽しむ力(139ページより)
(4) 達成型リーダーシップ ……高い目標へのチャレンジが必要な場合に有効なリーダーシップ。高い成果を目標として掲げ、相手への期待感や貢献度を伝える。→魅せる力(139ページより)
忘れるべきでないのは、「リーダーが属する集団は、必ずひとりひとりの個人によって成り立っている」ということ。また、ひとりのリーダーがこれら4つのリーダーシップすべてを持つことは難しいということも重要だといいます。
著者が過去に接してきた優秀な課長は、4つのうち2つを持ち、使いこなすことで成果を出していたのだとか。
したがって、この4つの力とそれぞれのリーダーシップの関係を理解し、自分が自然に身につけた力にプラスして、もう1つの力を使えるようにしていくべきだということです。
指導よりもフォローの「シマウマ型」に
しかし、こうして基本的なことを確認すると、気になってしまうのは"マネジャーとして、リーダーシップをどのように発揮すべきなのか?"という点。
このことに関する『プレイングマネジャーの教科書』(田島弓子 著ダイヤモンド社)の著者の持論は、「上司とは部下に対し、指導よりもフォローに注力すべき」というものなのだそうです。
すさまじい成果を上げるとき、人はたいてい自発的に動いているもの。上から命じられるというよりも自分のやる気でなんとかしようとするわけで、つまりは「プレッシャーよりモチベーション」だということ。
そして、ここで注目すべきは、著者がマネジャーには「ライオン型」と「シマウマ型」がいると指摘していることです。
いうまでもなくライオン型は、自分に絶対の自信を持つタイプ。鶴の一声で部下を動かせるような人ですが、こういうタイプはむしろマネジャーよりもリーダーに向いているそう。
しかも、いまもっとも必要とされているのは、自分の業務をこなしながらも、管理職として部下のモチベーションを保ち、チームとして成果を上げられる人材だというのです。
つまり、草原を見渡し、仲間の動向を気にするシマウマのごとく、群れの中で仲間とうまくやっていける、調整力とコミュニケーション力の高い「シマウマ型プレイングマネジャー」。そこで必要となるのは、リーダーシップではなくマネジャーシップなのです。(26ページより)
シマウマ型マネジャーの強みは、かつて自分が重ねてきた失敗や試行錯誤から培った“学び”があること。いま、つまずいている部下と同じ失敗を経験してきたからこそ、部下の立場に立ち、適切なアドバイスができるわけです。
私たちは仕事に取り組むなかで直面する経験を通し、多くのことを学ぶものです。つまり部下が失敗したとき、自らの失敗経験を活かして適切な「フォロー」ができる上司のほうが、結果的に部下の成長を促すことができるのです。
そして、部下をフォローする際に重要なのが「観察力」。部下がいまどんな仕事をし、どんなことで悩んでいるのかを見抜けるスキルは、今後もっとも求められる資質になると著者は断言しています。
なお、この点においてもシマウマ型マネジャーは有利であるようです。自身の経験から部下の「問題発生!」のサインをいち早くキャッチできるから。
ライオンのように鋭い爪や牙を持たないシマウマにとっては、草原の情報こそが最大の武器。自分に自信がないぶん、情報収集がなによりも重要になってくるため、自然と「観察力」が身につくということです。
マネジャーとしての自分に自信が持てないという方にとって、これは心強い考え方ではないでしょうか?