悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、人とのコミュニケーションが苦手な人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「緊張してしまうので、聞くのも話すのも苦手」(29歳女性/IT関連)
2017年に、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)という著作を出しました。タイトルからもわかるとおり、"コミュ障"を自称する人のコミュニケーションについての考え方をまとめたもの。
こういう本を書こうと思ったのは、自分のなかにもコミュ障的な側面があると自覚していたからです。僕は人と話すのが嫌いではないし、コミュニケーションが苦手というわけでもないのですけれど、それでも「コミュ障的なところが自分にはあるよなぁ」と感じずにはいられないことが少なくないのです。
たとえばコンビニのレジで必要以上に緊張し、場合によってはオドオドしてしまったりとか。「お店の人、絶対にこっちのことなんか意識してないだろ!」と、思わず自己ツッコミを入れたくもなるのですけれど。
矛盾に満ちた話ですが、そういうバランスの悪さって、多少なりとも誰にでもあると思うんですよね。だから、この本にも次のように書きました。
みんなコミュニケーションに対して、いくらかの自身のなさ=コンプレックスを持っているもの。(中略)つまり、「自分はコミュ障だ」「コミュ障かもしれない」と感じることそれ自体は、いたって普通のことなのです。(18ページより)
「コミュニケーションの基本」を守る
『初対面も、電話も、苦手な人も どんな人の前でもあがらない話し方』 (麻生けんたろう 著、秀和システム)の著者もまた、そういったアンバランスな部分をお持ちだったようです。
ラジオDJとしても活躍する人物ですが、かつてはあがり症だったというのです。つまり本書では、そのような体験を軸として「度胸も経験も不要のテクニック」を明かしているわけです。
若い人であればとくに、上司や先輩と同じように流暢に話せないことに焦りを感じてしまうかもしれません。しかし、これから場をこなしていけば、必ずいまより話せるようになるもの。
それよりも現時点では、「コミュニケーションの基本」を守ることのほうが大切だと著者は主張しています。
おもしろくない話題でも、価値観が合わない意見でも、理解しづらい説明であったとしても、相手の発言や会話の内容を認めるというスタンスを心がけることが重要だということ。
そうしたうえで、伝えるべき情報をしっかり届けることを心がけるべきだという考え方です。
なお、著者は大事な場面において、メモを活用することを勧めています。メモは自分が話すだけでなく、相手の話を聞く際にも有効だというのです。
「社会人になったらメモは大事」とは、誰もが一度は言われたことだと思いますが、あまりにも基本的なことすぎて、かえって上司や先輩は忘れています。
だからこそ、はじめのうちはベーシックに徹しましょう。
その場では流暢に話せなくても、打ち合わせのあとに上司や先輩から「さっき相手の人、なんて言ってたっけ?」などと聞かれて、頼りにされるかもしれません。(52ページより)
たしかにメモをそうやって活用すれば、話すことが苦手だという弱点を補うことが可能かもしれません。自分に無理なくできることをして、それをコミュニケーションに活用すればいいということです。
逆に、無理に背伸びした発言をしたりしたら、かえってボロが出やすくなってしまうものでもあるでしょう。
もしも「上司や先輩にくらべ、自分はまったく話せていない」と感じたとしても焦る必要はなし。そういう場合は無理をせず、まずは「メモができているかどうか」をチェックしてみればいいのです。
最低限、そんな基本ができていれば、悪い印象になはならないものだと著者はいいます。そこから段階的に、コミュニケーションスキルを"その時々のできる範囲で"高めていくことが大切なのでしょう。
相手の話を聞く力「受信力」を高める
ところで、どんな仕事もひとりではできないもの。グループやチーム単位で取り組むのが基本であるわけです。そして、短い時間でいいチームをつくり上げるために重要なのは、ひとりひとりのコミュニケーション能力を高めること。
『仕事も人間関係もうまくいく 美しい気づかい』(坂東眞理子 著、リベラル文庫)の著者は、そう主張しています。ちなみにコミュニケーション能力とは、他者とやり取りする力。いわば、キャッチボールのようなものだということです。
いうまでもないことですが、キャッチボールはボールを投げ、投げられたボールをきちんと受け取って初めて成立するもの。受け取ることができなければ投げ返すこともできないわけで、それはコミュニケーションも同じ。
受信する力というのは、わかりやすくいうと「聞く力」です。相手が何をいっているのかを理解し、把握できて、それに対してきちんとした反応ができて、初めて「受信力がある」といえるでしょう。(38ページより)
たとえば上司の話を聞くときには、単にその内容を理解するだけでなく、「自分になにを求めているのか」と、言外に込められた意味までを正確に受け取るように心がけることが大切。
ただし受信力は、単純に相手の話を受け取るだけでは身につかないものでもあるようです。口調や声音、表情や態度、ボディランゲージなど、相手が発するすべての情報を受け取らなくてはならないということ。
そうしたうえで、相手のいいたいことを把握するトレーニングを繰り返すことによって、次第に受信力は磨かれていくわけです。
それは、聞くのも話すのも苦手という方にとっては高すぎるハードルかもしれません。しかし、「苦手」と「不可能」は違います。不可能であれば可能性は狭まるかもしれませんが、苦手なことは克服できるのです。
「人見知り」「話すのが苦手」など、自分は人に会うのが苦手だと感じている人人もいるでしょうが、一対一で相手と向き合ってコミュニケーションを繰り返す、つまり場数を踏めば、受信力も発信力も育ちます。(38ページより)
聞いたり話したりすることに苦手意識があり、ましてやうまくいったことも少ないのだとしたら、否定的になってしまうのも無理はないかもしれません。
しかし著者のいう「受信力」は、上司の話し方や表情、ボディランゲージなどをよく観察し続けることによって高められていくもの。そうした訓練を繰り返すうちに、受信力が研ぎ澄まされ、「話の通じる部下」になれるということです。
やりとりを積み重ねることで克服する
さて、冒頭で「コミュ障」について触れましたが、『コミュ力なんていらない 人間関係がラクになる空気を読まない仕事術』(石倉秀明 著、マガジンハウス)の著者も、自身のコミュ障としての側面を認めています。
スタートアップ企業の取締役で、講演会への登壇や、報道番組のコメンテーターなど"人前に出る仕事"をしてはいるものの、相手の目を見て話すことなどできず、コミュニケーションが本当に苦手だというのです。
ですが、僕の経験上、コミュニケーション能力が低くても、人脈がなくても、仕事で成果を出すことができる! これを伝えたくて、この本を書くことを決めました。(「はじめに」より)
他者とのコミュニケーションをつらく感じる人の多くは、「なぜ自分のことをわかってもらえないんだろう」「なぜみんなと同じように相手の気持ちを察することができないんだろう」など、常に"わかり合えること"を前提に考えているように思えるーー。
著者はそう指摘しています。
そうやって他人と自分を比較し、「あの人はできているのに自分はできない」と追い込んでしまうわけです。だとすれば、さらに自信がなくなっていったとしても無理のない話です。
しかし、コミュニケーションが得意そうに見える人でも、相手と認識を揃えることができなかったり、わかり合えないこともあるはず。みんな、それほど差はないのです。
それを克服し、わかり合えるようになるために必要なのは、「やりとりの積み重ね」。うまくいかないコミュニケーションは、やりとりを積み重ねていくことによって克服できるものだということです。
そう考えれば、日々の努力もつらくなくなるのではないでしょうか。
聞くことや話すこと、すなわちコミュニケーションがうまくいかないと、「自分だけが劣っているのだ」という思考に陥ってしまいがちです。しかしそれは勘違いであり、冒頭でも触れたとおり、程度の差はあるにせよ、基本的には「誰しもコミュ障であたりまえ」なのです。
そう考えたうえで、いまできるコミュニケーション方法を地道に続けていけば、やがて確実にコミュニケーションスキルは蓄積されていくと思います。