悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、早くリタイアしたい人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
第146回「一刻も早くリタイアしたい」(50歳男性/技能工・運輸・設備関連)


終身雇用が当然であった時代、50代は過去30数年をかけて積み上げてきたノウハウを活用できる最後の機会だったのでしょう。「もうひとがんばり」という感じで。

ところが残念なことに、いまやそれも過去の話。バブル崩壊から30年近くの時を経てもなお経済状況は好転せず、それどころか、今後はさらなる悪化が予測されます。

そんななか、いちばん煽りを受けているのが50代です。本来であればキャリアを生かして有終の美を飾るべきなのに、若手からは「仕事もしないくせに給料が多い」などと陰口を叩かれる始末。

会社からも早期退職を迫られたりして、居心地の悪さを感じている人も多いのではないでしょうか?

ご相談者さんはちょうど50歳ということなので、まだそこまで追い込まれてはいないかもしれません。とはいっても、「一刻も早くリタイアしたい」という思いの背後に、会社に対する不満があったとしてもおかしくはありません。

もちろんそれは単なる想像ですが、どうあれ会社に依存できる時代が終わったことは事実。そのため、ひとりで生きていくだけの力を身につけることが必要となってきているわけです。

「せっかく、身を粉にしてがんばってきたのに……」という思いたくなる気持ちもわかります。が、社会が変わってしまったのは事実なのですから、悲観的にではなく、あえて状況を前向きに捉えることも大切なのではないでしょうか?

そうすれば、"一刻も早いリタイア"をよりよいものにできるのではないかと思います。

まずは情報収集を

『"50代"になって早期退職を考えたら読む本』 (藤原 朋之 著、近代セールス社)の著者は、51歳のときに早期退職をしたという人物。そこで本書では経験を生かし、自身が早期退職にあたって具体的に検討した内容などを明かしているのです。

  • 『"50代"になって早期退職を考えたら読む本』 (藤原 朋之 著、近代セールス社)

気になる「辞め方」については、「辞めてみてわかった早期退職13の鉄則」の冒頭で「有利な辞め方の情報収集を行う」ことの重要性を説いています。

退職しようと決めたら、一気に進みたくもなるでしょう。しかし、まずはしっかりと情報収集すべきだということ。そこを怠ると、失敗してしまう危険があるからです。さらには、情報収集の方法にも注意を払いたいところ。

情報収集をする際にはインターネットに頼ることになるでしょうが、じつはそこにも落とし穴が。インターネットで情報収集をする際には、注意すべき点があるというのです。それは情報の作成時期と、内容の信憑性。

個人のサイト、あるいは問い合わせ形式のサイトには内容が古いものも多く、メンテナンスがされていない場合も。また作成時期が新しかったとしても、内容自体に誤りや誤解されてしまう表現もあるわけです。

そのような意味から、税務署等の公的なサイトや銀行等の法人のサイトを参考にすることとして、個人や個人事務所のサイトを参照する場合は、最低限、複数のサイトを確認することが必要でしょう。
情報入手先としては、まずは社内の人事担当者に確認をしてください。また、過去に退職された方の連絡先がわかれば、その方に聞いてみることも有効な方法です。(111ページより)

辞めると決めたからといって闇雲に走るのではなく、冷静に情報収集をすることがなにより重要。そして可能であるなら、社内の人の力も借りたほうがいいということ。

他にも、お金のことを中心として、留意すべき点が細かく解説されています。そのため、退職を決めた人は、次のステップへ進むためのテキストとして、まずは本書を読んでみるべきかもしれません。

さて、次に「辞めたあと」のことについて考えてみましょう。辞めればそれですべてが片づくというものでもないので、生きていく術を用意する必要があるわけです。

市場における自分の強みと弱みを知る

そこで、ひとつの選択肢としてあげられるのが「フリーランス」として仕事をしていくこと。

『会社を50代で辞めて勝つ! 「終わった人」にならないための45のルール』(高田敦史 著、集英社)の著者は、31年間勤めたトヨタ自動車を54歳7カ月で退職し、フリーランスとして生きることを選んだという人物です。

  • 『会社を50代で辞めて勝つ! 「終わった人」にならないための45のルール』(高田敦史 著、集英社)

トヨタのような優良企業を50代で辞めるのは珍しいケースで、事実、多くの人から「なぜ辞めるんですか?」と質問されたそう。しかし現在は、フリーランスとして活躍中。そこで本書では、フリーランスになるにあたって知っておくべきことをまとめているわけです。

一例を挙げましょう。「独立する前にやっておくべき20の行動」という項目のなかで、著者は「自分の強みと弱みを整理する」ことの重要性を説いています。会社を辞めるのであれば、まずは自分の商品価値を整理すべきだという考え方。

そしてその際には、「SQOT分析」を指針にすべきだとか。SはStrength(強み)、WはWeakness(弱み)、OはOpportunity(機会)、TはThreat(脅威)。この4つの指標で自分自身が置かれている状況を整理すべきだということです。

S(Strength)…強み
これまでの会社人生を通して獲得した、人より優れていると思えるスキルと知識をできる限り具体的に書き出す。例えば、漠然と「マーケティング」と書くのではなく、統計分析が得意だとか企画書の作成能力が高いというふうに、細かく書くのがいい。(102ページより)

W(Weakness)…弱み
フリーランスで仕事をしていくと仮定した場合、どんなスキルが不足しているのかを冷静に考えておこう。少し難しい作業ではあるが、フリーランスとして働いている日常を自分なりに想像してみるといいだろう。(103ページより)

O(Opportunity)…機会
時代が変わることで強みがより生かせるチャンスがないかを考える。(中略)可能性が低いと思うことでも、とにかく書き出してみることだ。(104〜105ページより)

T(Threat)…脅威
フリーランスとして仕事を始める前からことさら脅威を感じる必要はないが、自身の強みが近い将来通用しなくなるような器具があれば書いておく。(中略)現代であれば、近い将来にAIで置き換わるような特技が当てはまるだろう。(105ページより)

時代の流れが速い現代においては、退職後に数年で業界の状況が一変してしまうこともあるはず。そこでSWOT分析を年に一度行い、自分自身の商品価値をアップデートしていくことが重要だということ。

組織内で求められる役割を演じていればよかった会社員時代とは違い、自分の強みと弱みを知り、今後の市場変化のなかで自分の商品価値がどう生かせるのかを考えておく必要があるわけです。

「地味な資格」をとる

そしてもうひとつ。

会社を辞め、会社に頼らず生きていこうというのなら、資格を活用するという手段も考えられます。そこでご紹介したいのが、『おじさんは、地味な資格で稼いでく。』(佐藤 敦規 著、クロスメディア・パブリッシング)

  • 『おじさんは、地味な資格で稼いでく。』(佐藤敦規 著、クロスメディア・パブリッシング)

とはいっても、ここで勧められているのはただの資格ではなく、タイトルにあるとおりの「地味な資格」。それは、「法人に必要とされる資格」を指すのだそうです。ちなみに著者は社会保険労務士として、企業の労働・社会保険などについてのアドバイスや、行政機関への申請業務などを行っている人物です。

この本では、私がこれまでに模索して見つけた「地味な資格をとって人生を挽回する方法」を紹介します。「資格の選び方」や「資格の勉強法」、そして「取った資格を仕事にする方法」まで、具体的な方法を網羅的にお伝えします。(「はじめに」より)

でも、なぜ地味な資格が有効なのでしょうか? この問いについて、著者は次のように主張しています。

地味な資格のいいところは、50代からでも稼ぐことができる、むしろ50代からでも収入を伸ばしていけるところです。
役員まで登りつめる人は除き、一般のビジネスパーソンは55歳を越えると役職定年となり、年収が減少します、60歳を越えると雇用形態も嘱託や契約社員などに変わり、収入がそれまでの半分以下となる人も少なくありません。(48〜49ページより)

そんななか、社会保険労務士や行政書士など「地味な資格」を持っている人が対象とするのは、中小企業の経営者。経営者の平均年齢は59.8歳と高く、著者が担当している企業の経営者も大半が60歳以上だそうです。重要なのはその点。

なぜなら社労士として企業の賃金制度の構築や事業譲渡、M&Aなどの高額案件を手がけるには、会社の実情を丸裸にしてもらわなくてはならないから。

そのためには能力や知識があるだけでは不十分で、経営者の懐に入る必要があるということ。したがって、士業として企業とつきあううえでは、経営者と年齢が近いおじさんほど有利になるというわけです。

会社をリタイアした先には、そんな選択肢もあるということ。自分自身がなにを望み、どのように生きていきたいのかを考えたうえで、さまざまな生き方をシミュレーションしてみるべきかもしれません。