悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「部下が何度注意しても同じミスを繰り返す」という悩みへのビジネス書です。
■今回のお悩み
「何度注意しても同じミスを繰り返す部下との接し方を教えてください」(41歳男性/IT関連技術職)
同じミスをする人、すなわち「学習しない人」は、どこの世界にもいるものです。
とはいえ、ひとことで「学習しない人」といっても、実際にはいろいろなタイプがいます。今回のご相談にある部下がどのようなタイプなのかを判断することは難しいのですが、いずれにしてもその人のタイプを見極めたうえで改善を促すことは必要だと思います。
そして、本人もしくは本人に伴う状況を改善したいという思いがある以上、とても重要な意味を持つのが「叱ること」。人を叱るのは難しく、気持ちのいいものでもありませんが、避けて通れないわけです。
しかも、叱る以上は相手のことをきちんと知っておかなければなりません。たとえば、同じミスを繰り返す人にも「自覚がある人」と「自覚がない人」がいますが、相手がどちらのタイプであるかを踏まえたうえで叱らないと、伝えたいことも伝わらないのですから。
つまり「学習しない部下」に反省を促すためには、
- 部下のタイプを知る
- 効果的に叱る
という2つのステップを踏む必要があるということ。でも、それは決して簡単ではありませんから、上司としては思い悩んでしまうことになるのでしょう。
しかし、それもまた上司の義務だと割り切り、前向きに現状打破を目指していきたいものです。
相手に期待しすぎない
仕事で失敗した相手に、強い怒りや不満の感情を表す人がいます。しかし『対人力のコツ──人間関係が楽になる94の知恵』(植西 聰 著、自由国民社)の著者は、相手を深く反省させたいなら、それは得策ではないと主張しています。
なぜなら、それだと相手は精神的に落ち込んでやる気をなくすだけだから。そして結果的には、今後も同じような失敗を二度、三度と繰り返すことになってしまうというのです。
同僚や部下が仕事で失敗すれば、自分も迷惑を被るのは事実でしょう。
しかし、仕事で失敗した本人も悲しく、辛く、苦しい思いをしているのです。
そんな心境でいる相手に対して、強い怒りの感情をぶつけるようなことをしたら、相手は一層落ち込んでしまうことになります。
その結果、やる気をなくしてしまっても仕方ないのです。(153ページより)
したがって、「相手もつらい気持ちでいる」ことを理解したうえで、「では、どうすれば今後、同じような失敗をしないで済むか? この失敗から学べる教訓はないか?」ということを、やさしくアドバイスするほうが得策だという考え方。
たしかに、そのとおりかもしれません。とはいえ、相手に対する期待値が大きければ大きいほど、期待どおりに動いてもらえなかった場合には失望し、腹も立ってくるものでもあります。
しかし、「他人に、あまりたくさんのことを期待しない」ということも重要なことではあるようです。
欧米のことわざに、
「人に期待しないものは幸せである。失望することがないから」
というものがあります。
「あの人なら、ここまではやってくれるだろう」と、誰かに期待します。
そして、相手が期待通りのことをやってくれることを前提にして、自分自身の計画を立てます。
しかし、実際には、他人が自分の期待していた通りのことをしてくれることはないかもしれません。
そうなれば、自分自身の立てていた計画も狂ってしまいます。(166ページより)
もちろん、「同じ失敗を繰り返す」ということは「あってはいけないこと」でもあります。本来であれば、失敗から学ぶべきなのですから。しかし、だとしても、あまり期待をかけすぎないほうがお互いのためにいいのかもしれません。
著者は「最初から、他人にあまり多くのことを期待せず、こちらが期待している80パーセント程度のことをしてくれたとしたら満足すべき」だと記しています。今回のご相談にしても、そうしたうえで、少しずつ部下を軌道修正していけばいいのでしょう。
ただし、その際には「うまい話し方」をする必要があります。話し方、伝え方を間違えると、さらなる誤解を生む可能性も否定できないからです。
感情的にならず「三回目の原則」で叱る
そこで参考にしたいのが、『頭がいい上司の話し方 (樋口裕一 著、祥伝社新書)。「会社での話し方のすべて」を凝縮したものですが、たとえば今回のお悩みには、「上司の『叱り方』の基本」という項目が役に立ちそうです。
上司に必要なのは、部下が感情的な生き物であることを理解し、それに配慮しながら話をすること。しかし、自分自身は感情的に行動してはいけないということがここでは強調されています。
なぜなら会社は感情の受け皿ではなく、あくまで仕事で結果を出すことだけが目的だから。
したがって、腹を立てて怒るのではなく、あくまでも業務上の成果を上げるために必要だと判断した上で、「ここは叱ろう」と決めて叱らなければいけない。感情で行動する上司は「気がついたら叱っていた」ということになりがちだが、頭がいい上司は、冷静な意思決定の結果として「叱る」ことを選んでいる。(51ページより)
今回の件にも、このことはあてはまるはずです。同じミスを繰り返すとなると、つい感情的になってしまいがち。しかし、それでは伝わるものも伝わらないわけです。
ちなみに大学や予備校で教鞭をとっている著者は、学生たちを叱るときには「三回目の原則」を自身に課しているのだといいます。一回目と二回目は黙ってやり過ごし、三回目でガツンと叱るというのです。
そうすると、「きょうは叱るぞ」という心の準備ができているため、厳しいことばを吐いたとしても感情的にならずにすむわけです。そればかりか相手も「これまでは見逃してくれていたんだな」とわかるため、「寛容だが、甘くはない人」という印象を持つことになるということ。
職場でも、この「三回目の原則」は有効だろう。昔は「瞬間湯沸器」のような怒りっぽい上司が多かったが、最近は部下を叱ることに及び腰な上司が多いので、「一回目のミスですぐに叱らない」というより、「三回目までに、必ず叱る」ということを自分のルールとして決めておくといいかもしれない。(52ページより)
「何度注意しても同じミスを繰り返す」ということであるなら、すでに三回目は超えているかもしれませんが、この考え方を応用し、「ここから、さらに同じミスを三回したら、そのときは意識的にガツンと叱る」などの手段をとることは無駄にはならないと思います。
相手の事情を把握した上で指導する
とはいっても、叱ることはなかなか難しくもあります。そのため「どう叱るべきか」と悩むこともあるでしょうが、『叱って伸ばせるリーダーの心得56』(中嶋郁雄 著、ダイヤモンド社)は、そんな人に多くのヒントを与えてくれる一冊だといえそうです。
たとえば注目すべきは、「部下の言い訳にも耳を傾けるべきだ」という著者の主張。
失敗を注意したとき、部下が「なにかいいたそうな顔をしている」ということがあるのではないでしょうか? そんなときには冷静に、「なにかいいたいことがあるの?」と話を振ってみるべきだというのです。
その結果、部下は「仕事をダブルブッキングしてしまいまして……」などと、ミスに至るまでの経緯を話し始めるかもしれません。
相手の事情も事実として把握していなければ的確な指導はできませんから、「なるほど、そんなことがあったのか」と、まずは相手の事情に理解を示すことが大切。
そのうえで、「そういう場合は、まずやれることを考えなくてはね」「どうしても無理と思ったら、すぐに相談しなさい」などと指導することが重要だということです。
相手の事情(事実)を把握したうえで指導するのと、結果だけをとらえて叱るのとでは、のちの指導への影響に天と地ほどの差が出るものだといいます。
「事実を示す→質問する(叱る)→部下が言い訳をする」という流れになることが多いでしょう。このとき避けていただきたいのは、言い訳をした部下に対し「言い訳するな!」と叱責すること。業務に忙殺されているときなどは、「言い訳するな!」と怒鳴りたくもなりますが、グッと我慢です。
部下が言い訳をするということは、それが正しいものであれ、見当違いのものであれ、「言いたいことがある」ということなのです。リーダーとして、まずは耳を傾けてあげましょう。(63〜64ページより)
言い訳のなかには、「現場の真実」や「問題解決のヒント」が隠されているもの。それをリーダーには知っておいてほしいと、著者は主張しています。
そもそも叱りとは、部下の成長のために行うものであるはずです。だからこそ、言い訳のなかに、部下の成長のヒント、業務効率アップのカギなどが隠れていることを思えば、しっかり聞いてあげることが重要であることがわかるという発想です。