悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、部屋が片付けられない人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「なかなか部屋が片付けられないのが悩みの種」(55歳男性/営業関連)


自著『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)にも書いたことがあるのですが、かつての僕は物欲の塊でした。

そのころ書斎にしていた6畳程度の洋室は、レコードとCDと本で埋め尽くされていたのです。それらは僕にとって、「持っていたいもの」「持っていないと困るもの」でした。

好きなものに囲まれていたわけですから、当然ながら心地よい空間であったはずです。ところが、やがてあることを痛感することになったのでした。

「ちっとも快適じゃない……」

ホコリが溜まりやすいのに掃除はしづらいし、むしろ不快だったのです。そこで思い切ってモノを減らしてみた結果、気づいたのは「持っていないと困る」という考えは幻想に過ぎなかったということ。

シンプルな生活のほうが、ずっと心地よかったからです。

そんなわけでここ数年は、少しでもモノを減らそうと意識しながら生活しています。まだまだ無駄は多く、捨てるべきものも残っていますが、だからこそやる気が出てくるんですよね。

そんな経験が自分にあるだけに、今回のご相談にお答えするにあたっては、「捨てる」ことの心地よさを強調しておきたいと思います。

ただし、そうはいっても少し前に流行った「ミニマリズム」を推奨したいわけではありません。人にはそれぞれ「残しておくべきもの」があり、だとすれば「できる限り減らしていき、残しておくべきものを少しでも少なくする」という考え方のほうが現実的だと思うからです。

本物の「ミニマリズム」を知る

そこで、まずはなにかと誤解されやすい「ミニマリズム」について考えなおしてみましょう。参考書籍は、『より少ない生き方』(ジョシュア・ベッカー 著、桜田直美 訳、かんき出版)。著者は、現代のミニマリズム運動における代表的人物です。

  • 『より少ない生き方』(ジョシュア・ベッカー 著、桜田直美 訳、かんき出版)

「ミニマリズム」という言葉を聞いて、あなたはどんなことを想像するだろう?
何もない部屋、禁欲的、真っ白な壁、つらい倹約生活、家具がまったくない部屋で床に座る人。たいていの人は、こんなイメージが浮かぶのではないだろうか。(35ページより)

著者は「あなたはおそらく、ミニマリズムは苦行だと思っているだろう」とも指摘しているのですが、たしかにそれがミニマリズムなのだとしたら、「だったら部屋が片づかなくてもいいや」と思いたくなって当然です。

しかし本物のミニマリズムは、むしろ苦行とは正反対。著書の中心にあるのは、「ミニマリズムは自由であり、心の平安であり、喜びだ」という考え方なのです。それは実に具体的で、説得力に満ちた考え方でもあります。

ものがない場所が増えれば、それだけ新しい可能性が生まれてくる。
いらないものを一掃すれば、理想の人生を妨害している障害物もなくなるのだ。
正直なところ、私はミニマリズム事態にそれほど夢中になっているわけではない。
私が目指すのは、誰もが適正量のものを持ち、そのおかげで最高の人生を生きられるようになることだ。豊かな先進国に暮らす人の98パーセントにとっては、それはものを減らすことを意味するだろう。(36ページより)

先ほどの「できる限り減らしていき、残しておくべきものを少しでも少なくする」という僕の主張も、これとまったく同じ。

山のようなガラクタの下には、あなたが本当に望んでいる人生が隠れている。(中略)。
ものを減らせば、豊かになれる。
この本のテーマは、減らすことよりも、むしろ豊かになることのほうだ。
ミニマリズムの見返りは、家の中がすっきりすることだけではない。
本当に豊かで、満ち足りた生活が手に入る。
ずっと探していた「よりよい暮らし」を実現できる。(90ページより)

この考え方に共感できれば、「片づけられない」と嘆く人にありがちな“捨てることへの抵抗感”を払拭できるのではないでしょうか? まずは、そこがスタートラインだと感じます。

自分自身に問いかけ「ガラクタ」を処分する

『心の中がグチャグチャで捨てられないあなたへ』(ブルックス・パーマー 著、弓場 隆 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者も、同じ考えの持ち主。人々のガラクタ処分の支援を仕事としている人物です。

  • 『心の中がグチャグチャで捨てられないあなたへ』(ブルックス・パーマー 著、弓場 隆 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

生活や仕事の場所をふたたび快適空間にし、失ったエネルギーを補充するために、いまこそ"ガラクタ"を処分するときだと強く訴えているのです。つまり、本書のテーマは「ガラクタ処分」。

ところで、ガラクタとは何でしょうか?
ガラクタとは、何の役にも立たないのに、あなたがしがみついているモノのことです。古い品物もあれば新品もあります。いずれにせよ、価値を失ったモノはすべてガラクタです。そんなモノはもはや本来の目的を果たしませんから、持っていても生活の質は向上しません。むしろ、必要な変化を起こすうえで障害になります。(「はじめに」より)

具体的には、着なくなった服、聴かなくなったCD(サブスクリプション全盛のいまこそ捨てるチャンス!)、机の上やファイルのなかに溜まっている書類、新型と取り替えたまま置き去りにされている電化製品、しまったままの食器や台所用品などなど。

本人が気づいているかどうかに関係なく、使われずに溜まっているだけのそれらは、日々の生活に支障をきたしているということ。大げさだと思われるかもしれませんが、大げさだと思うこと自体が問題だと考えるべきかもしれません。

でも実際問題として、ガラクタを捨てるためには具体的にどうしたらいいのでしょうか?

"捨てられない人"の多くが直面するであろうこの問題を解決するために重要なのは、「『これは本当に必要か?』と自問する習慣をつけること。

著者も所有物の片づけをサポートするなかで、単刀直入に次のような問いかけをするのだといいます。

「これはいりますか、いりませんか? いらないなら捨てましょう」
「これは好きですか、嫌いですか? 嫌いなら捨てましょう」
「これは使っていますか、使っていませんか? 使っていないなら捨てましょう」(23ページより)

こう問われると多くのお客さんが戸惑うそうですが、彼らは「モノを持っていることには価値がある」と教えられてきたため、いらないモノを怖くて捨てられないだけのこと。

しかし、いらないモノを捨てると開放感が得られますし、そのプロセスを理解すれば、自ら進んで捨てられるようになると断言しています。

まずは自分自身に対して上記の問いかけをしてみることも、ひとつの手段であるはず。

片づける力をつけるためのルールを実践する

そこまでできたら、次はさらに具体的に考えてみましょう。参考にしたいのは、『片づける力をつける』(橋本 裕子 著、ダイヤモンド社)。著者はここで、「片づける力をつけるための5つのルール」を紹介しているのです。

  • 『片づける力をつける』(橋本 裕子 著、ダイヤモンド社)

グループづけをする
収納する場所をつくる
便利な場所に置く
モノが多い場合は、1軍と2軍に分ける
生活は思っているよりも変化している
(22〜32ページより抜粋)

まず「グループづけをする」とは、収納したいモノを自分が考えるイメージでグループに分けること。たとえばマスクなら、そこから連想した薬と同じグループに、というように。決まりはないので、「自分がどうすればわかりやすいか」を考え、グループにすることが大切。

グループが決まったら、次にするべきは「しまう家(収納ケースやかごなど)」をつくること。重要なのは、それぞれのグループが「どのくらいのサイズがあるか」を意識すること。収納を考える前に、「とりあえずなにか収納用品を買っておこう」と考えると、無駄になりやすいわけです。

散らかってももとに戻せない家になってしまう最大の原因は、「モノが便利な場所にないこと」。そのため、そのグループを「どこでよく使うか」「どこが起きやすいか」といった点から考えることも大切。なお便利な場所は、時間とともに変化していくモノなので、「いまの自分にとって便利な場所はどこか」を優先することも忘れるべからず。

好きなモノはどうしても増えてしまいがちですが、多くなるモノは「1軍」と「2軍」に仕分けするといいそう。いつも使う場所には1軍のものだけを置き、2軍は別の場所へ。そうするだけで、普段使うものが劇的に使いやすくなるのだとか。

収納が何年もずっと同じ状態で固定されているというケースは少なくありませんが、大切なのは生活の変化に合わせて収納方法を変えること。生活には変化が起きるものなので、収納も変わって当然なのです。

ポイントは、「一度決めた収納を使い続けなければならない」ではなく、「収納を使いにくく感じたら、見なおしをするタイミングである」ということ。そう考えていれば、収納にまつわるストレスからも解放されるというわけです。


「捨てられない」ではなく、「捨てる」習慣をつける。そして「片づける力」をつける。「片づけられない」という先入観を捨ててこの2ステップで臨めば、快適に環境をシェイプアップできるようになるかもしれません。