悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「だらだらした中身のない会議がつらい」と悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「だらだらした中身のない会議がつらい」(48歳男性/事務・企画・経営関連)
もう何十年も前になりますが、どこかで「最終案 練った挙句に 当初案」というサラリーマン川柳を見たことがありました。
いまだに鮮明に憶えているのは、いかにも会社の会議にありがちだと感じたから。そのため、「まったくそうだよなあ」と思わず大笑いしてしまったのです。
同じように「あるある」と共感せずにはいられない方は、実際のところ多いのではないでしょうか?
僕自身はそこまで極端な会議を経験したことがないのですけれど、とはいえ"ダラダラした空気"が生まれそうな、もしくは生まれつつある状況に身を置いたことは何度もあります。
そして、そんな経験から、"なにも決まらない会議"は次の3つのうちのいずれかに属するケースが多いのではないかと思っています。
1: 参加者が気のおけない仲間に近い関係性であるため、つい冗談を言い合ってしまったり、話を脱線させてしまったり、まさに"ダラダラ"以外の何物でもないような会議
2: やたらと人数が多く、しかも多くの参加者の間に牽制し合っているような空気が漂っているため、肝心の議題が一向に進まない会議
3: マウントを取りたがる「声の大きな人」のおかげで他の参加者が意見を口にしたがらず、ちっとも進展しない会議
僕が経験した会議は圧倒的に1のパターンが多かったので、それはそれで楽しかったんですけどね(だからなんにも決まらないわけですが)。
しかしいずれにせよ、この3つにはひとつの共通点があるようにも感じます。どれも、それぞれ別の意味で「人間くさい」ということ。会議において感情(自分の考え)を言語化することは不可欠。しかし"余計な感情"の入り込む余地ができてしまうと、そこに許さや不安定感が生じてしまい、まとまるものもまとまらなくなるのではないかと思えるのです。
したがって、できるだけ"余計な感情"が入り込む余地を少なくし、なるべくシステマティックに会議を進められる方法を見つけ出すべきなのかもしれません。それが難しいんですけどね。
"会議が長くてもなにも決まらない"理由
産業カウンセラーである『会議は長いのに、なぜ何も決まらないのか?』(別所栄吾 著、日本経済新聞出版)の著者は、「会議が長くても、なにも決まらない」5つの理由を指摘しています。それぞれを確認してみましょう。
1: 会議の場で初めて目的な内容が伝えられるため、その場からみんなで考えはじめることになる。その結果、現状や方向性の確認に多くの時間が費やされ、意見が述べられる前に終了時間を迎えてしまう。
2: 議論を深めたり、担当や行動を検討しようとしても、キーマンが呼ばれていなかったり、欠席したりしている。または、意思決定権を持った人がいない。そのため議論が深まることも、決まることもない。
3: 会議ではなく資料配布で済む内容なのに、人を集めて話をする。つまりは会議ではなく、単なる報告会になってしまうので、その後の意見や展開が深まりにくい。
4: 上司が部下の発言を批判したり、感情的な言い方をしたりする。その結果、誰も発言しなくなり、口を開いているのは上司だけという状態に。部下は感情を害しているため、できる限り自分はなにもしないで済むようになる。
5: 議題を話しているつもりが脱線してしまい、なかなかもとに戻らなくなる。したがって、そもそもなんのための話し合いなのか分からなくなってしまう。とくに年配者や権力者の発言脱線は誰に求められないので、会議が長引いてもなにも決められない。
まさに、このとおりではないでしょうか? いいかえれば、会議でものごとを決めたり進めたりするのは、それほど難しいということ。しかし、だからこそ感情を言語化することが重要なのだと著者はいいます。
感情を言語化できれば、困難に直面しても逃げずにがんばれて、ステップアップできるから。
一人で考え抜けないから、皆で話し合うのです。言葉や表現を何回も変えて、整理を進めてください。そして、会議を通じて強いチームを作ってください。しかし、一度作られたチームも時間と共に硬直化し、対応力が低下してしまいます。常に集団年齢を考え、組織やチームの若返りを図ってください。(230〜231ページより)
会議でなにかを決める際の原動力は、「なぜ、その業務をすべきか、なんのためにやるのか」について話し合い、言語化して共有すること。とくに、「これは、いまなんとかしなければならない」と参加者が共感すると解決策へと話が進み、決定に近づくといいます。
問題なのは、時間ではなく質
『生産性アップ! 短時間で成果が上がる「ミーティング」と「会議」』(沖本るり子 著、明日香出版社)の著者は、「会議はながいからいや」は錯覚だと断言しています。
問題なのは、時間ではなく質だということ。
好きなことであれば何時間続いても苦痛ではないでしょうし、時間を忘れて没頭することもできます。でも逆に、嫌いなことなら30分でも長く感じることでしょう。
つまり「長いからイヤ」なのではなく、「イヤだな」「つまらないな」と思わせる内容だからイヤなだけだということ。ならば、参加者全員が議論に「集中できる仕組み」を仕掛ければいいだけ。
そのコツは3つあるといいます。
1つめ、「時間を区切る」、2つめ、「視点を分解する」そして3つめ、「ひと言で話す」ということです。
1つめの「時間を区切る」というのは、制限時間を設定するということです。
2つめの「視点を分解する」というのは、多面的な視点で意見出しをするということ。
そして、3つめの「ひと言で話す」というのは、視点に沿った“単語”か“短く一文”で話すということです。(23ページより)
「長いからイヤ」と言わせないミーティングと会議は、これら3つのコツを活かした仕組みで仕掛けるべきだということ。
また、会議が習慣化しているとしたら、それが悪い習慣になっている可能性もあるといいます。だとしたら、よい習慣にしなくてはなりません。
そのために重要なのは、「なんのためにその会議を開催するのか」を毎回必ず明確にすること。ミーティングや会議の「目的」を明確にするということで、たしかにそれも重要なことであるといえそう。
いずれにしても、これらのシンプルなコツをクリアするだけでも、会議のつらさは解消できそうです。
伝えたいことをうまく伝える3ステップ
ところで中身のない会議がダラダラと続いてしまう理由のひとつとして、「伝えたいことが、うまく伝わらない」という問題があるのではないでしょうか?
そこで最後に、『伝え方が9割』(佐々木圭一 著、ダイヤモンド社)のなかからヒントを見つけ出してみたいと思います。コピーライターである著者が、伝え方のポイントを明かしたベストセラーです。
会議で重要なのは、自分が伝えたいことを参加者に納得してもらうこと。すなわち「ノー」を「イエス」に変えることです。著者によれば、それを実現させるために重要な3ステップがあるのだとか。
ステップ1 自分の頭の中を
そのままコトバにしない
(56ページより)
なんでもかんでもストレートに言うのは、著者のことばを借りるなら「バクチと一緒」。「ノー」だったものを「イエス」に変えるための最初のステップは、頭で思ったことをそのまま口にするのをやめることだというのです。
ステップ2 相手の頭の中を
想像する
(58ページより)
そのまま口にすることをグッとこらえ、「相手がどう考えるか/ふだん相手はなにを考えているか」と、相手の頭のなかを想像してみるわけです。
ステップ3 相手のメリットと一致する
お願いをつくる
(59ページより)
そして、相手の頭のなかをもとに、ことばをつくっていくわけですが、ここで大切なのは「相手の文脈」でつくること。お願いを相手に「イエス」となるものにするのです。結果的に、こちらが求めていることができればいいので、相手のメリットとするお願いをつくればいいという考え方。
この3ステップは人とのコミュニケーションを成功させるためのものであり、会議だけを想定しているわけではありません。とはいえ、会議も立派なコミュニケーション。だからこそ、応用してみれば自分の考え方が伝わりやすくなり、結果的に会議の「ダラダラ」を解消できるようになるかもしれません。