悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「大忙しで気持ちが休まらない」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「子育てをしながら、第二子の不妊治療に取り組み中。仕事もしているので、子育て、治療、仕事と大忙し。休まらない」(36歳女性/専門サービス関連)

  • 「忙しすぎる……」

    「忙しすぎる……」


「ハードスケジュールなのに、よく耐えられますね。打たれ強いんですね」

20数年前、知人からそういわれたことがあります。日ごろから僕の忙しさを知っていた彼にとって、僕の働き方は"あり得ない"ものだったようなのです。

たしかに当時から僕はとても忙しく、しかも基本的にワーカホリックなので休む暇がありませんでした(ちなみに、いまも同じような感じです)。ただ、だから「耐えられない」などと感じたことは、一度もなかったんですよね。

別に、自分は強いといいたいわけではありません。全然強くないし。でも、他人からはハードそうに見えているらしい状況を、僕は"好きでやっていること"だと自覚していたのです。だから、ハードスケジュールも受け入れられただけの話。

当たり前のようで、これはとても大切なことだと思います。たとえばご相談者さんにとって、仕事、子育て、不妊治療、おそらく、どれも切り捨てることはできない大切なものなのでしょう。でも"休まらない"からつらいのではないでしょうか?

大切なことをやっていながら"休まらない"のであれば、まずは、それが“どうにもならないものである”と認めるべき。そのうえで、自分の気持ちを(無理にでも)心地よい方向へと誘導することが大切だと思うのです。

そして、"いまできる範囲での"心地よさを生活のなかから見つけ出してみるわけです。大層なことをする必要はなく、寝る前に少しだけ音楽を聴くとか、日記を書くとか、お茶を飲むとか、そんな“些細だけど心地よいこと”を大切にしてみるだけのこと。

そんなことを続けていけば、やがてそれが"少しだけれど休まる状態"につながっていく気がするのです。少なくとも20数年前から現在に至るまで、僕はずっとそうしてきました。

気の持ちようで、変えられることはきっとあるということですね。

苦しみ・幸せを選ぶのは自分の心

人生は、ちょっとしたことで、楽しくなったり、苦しくなったりします。ものの見方、とらえ方の角度を少し変えてみるだけで、まったく違う世界が出現します。(「はじめに」より)

『読むだけで心がラクになる22の言葉』(本田 健 著、フォレスト出版)の著者はこう主張しています。自分の心の状態が、自分の幸せと不幸をつくっているのだとも。

  • 『読むだけで心がラクになる22の言葉』(本田 健 著、フォレスト出版)

だとすれば、そのメカニズムを理解することによって、人生を楽しく、力強く生きていくことができることになります。そこで本書では、不安になっている人や人生の帰路に悩んでいる人などを勇気づける言葉を紹介しているのです。

たとえば著者は、「私たちは、苦しいとき、誰かのせいでこうなったと考えがち」だと指摘しています。もちろん、この場合の"誰かのせいで"はさまざまな物事に置き換えることもできるでしょう。

今回のご相談に当てはめるとしたら、"仕事のせいで"、"子育てのせいで"、"不妊治療のせいで"など。

しかし自分を苦しめるのは、そうした要因や、特定の誰かではないはず。自分で勝手に、ネガティブな概念によって自分を傷つけていると考えることもできるわけです。

つまり、すべての苦しみは、自分自身がつくった考えのなかから引き出されてしまったものだということ。

けれど、すべての出来事は中立だと著者はいいます。その出来事にどういう意味を与えるのは、それは自分自身の選択次第。苦しみを選択するのか、幸せを選択するのか、自由に決めることができるわけです。

いずれにしても大切なのは、自分を傷つけないと決めること。それこそが、人生に平安をもたらす秘訣だそうです。

心がホッとする身にコーチング
□あなたが最近苦しいと感じたことは何ですか?
□その苦しみの裏には、どのような観念がありますか?
□自分を苦しめる観念青書き出してみましょう。「お金がないとダメ」「モテないとダメ」「いい仕事をしている人は偉い」「嫌われたら最悪」「借金は苦」など。
□今度、苦しいと思ったら、何がそんなに自分を苦しめているのか、冷静に考えてみましょう。 『奇跡のコース』――一九七六年、アメリカで出版された名著『A Course in Miracles』(原題)。 (27ページより)

いちばん大事なのは自分を大切にすること

精神科医である著者によれば、『もうちょっと「雑」に生きてみないか』(和田秀樹 著、新講社)は「人生に疲れを感じている人にエールを送りたい」という目的のもと書かれたものなのだそう。

  • 『もうちょっと「雑」に生きてみないか』(和田秀樹 著、新講社)

がんばりすぎて疲れを感じている人、あるいはその結果としてうつ病になったりする人には完全主義的な傾向があります。
生き方が一直線なのです。こういう方が精神科を訪れれば、「もっと雑に生きていいのですよ」「いい加減になれればいいのにね」と言いたいのがほとんどの精神科医の本音だと思います。 (「まえがき」より)

「雑に生きる」というのは、不真面目でいいとか、適当でいいとかいうことではなく、もっとゆるやかに、揺れ幅を楽しむような生き方のことだそう。たしかに、それは大切なことなのではないでしょうか?

雑になれない人ほど、ふだんから完全を目指して目いっぱいの努力をしています。手を抜くことなんかありません。そのためどうしても、自分の目の前の仕事だけを見つめてしまいます。やらなければいけないことが、いつも頭の中にある状態です。(52ページより抜粋)

そうやって無意識のうちに、自分を追い込んでしまう。だから休まらないという部分は、多少なりともあるように思えるのです。

しかし、「いまよりもっと雑に生きても、あなたは前に進んでいくし、いいことにも出合います」と著者は断言しています。仕事にしても子育てにしても(不妊治療は手を抜けないかもしれませんが)、それくらいの気持ちでいたほうが楽だし、かえってそのほうが、いい結果につながるということなのでしょう。

いちばん大事なのは、自分を大切にすること。そのことに気がつくチャンスは、いままでにもあったし、これからもきっと訪れてきます。(54ページより抜粋)

このことばは、心に留めておくべきではないかと感じます。

プラス思考を手に入れる訓練をする

タイトルからも想像がつくとおり、『シンプルに生きる―変哲のないものに喜びをみつけ、味わう』(ドミニック・ローホー 著、原秋子 約、幻冬舎)のメッセージは「ものを過剰に所有することをやめてみましょう」ということ。

  • 『シンプルに生きる―変哲のないものに喜びをみつけ、味わう』(ドミニック・ローホー 著、原秋子 訳、幻冬舎)

したがって「住まい」「ファッション」「お金」など、物質的なことに関する記述が大半を占めています。が、最終章「自己管理」は今回のご相談内容にも大きく役立つのではないかと思います。

心に秩序をもたらすということは、ものを片付けるのと同じで、役に立たない考えを取り除き、より重要な事柄のために、心のなかのスペースを確保することです。
定期的に、心のなかから不要なものを取り除くように心がけてみましょう。そうすることによって、悩んだり、ストレスをためてしまったりという行為から、自分を解放することができるようになります。(164ページより抜粋)

このような考え方が軸になっているからです。今回のご相談に関していうと、「プラス思考を手に入れる」という項が参考になりそうです。ご相談内容を拝見する限り、(失礼ながら)疲れの影響でややマイナス思考になっているようにも感じるから。

著者はここで、「悪いときがあるからよいときが実感できる、という考え方ができれば、不安は解消できる」と記しています。

心配、孤独、落ち込み、恨み、怒りなどで頭がいっぱいになったときは、「おもしろい本を読む」「いつもと違った服装をする」「花を飾る」「音楽をかける」「香を焚く」「アロマキャンドルをともす」などのことを試し、自分の周囲をできるだけ楽しくするように心がけるべきだとも。

訓練を積むことにより、マイナス思考は抑えることができるようになります。
まず、過去にこだわるのをやめ、今できることに考えを集中することを心がけましょう。例えば、朝は、どのような1日にしたいか自分に問いかけ、眠りにつくまえにも今日の楽しかった出来事を思い出すようにする。たったこれだけでも、続けていくうちに、思考のスタイルが前向きに変わっていきます、(169ページより抜粋)

僕自身も、この考え方には共感できます(序文に書いたことと共通する部分がありますし)。

大切なのは、プラスに考えたとしても、マイナスに考えたとしても、行き着く答えはひとつしかないということ。疲れていると後ろ向きになってしまいがちですが、どうせ答えがひとつ敷かないのなら、そこへ行き着くまでの道のりを楽に過ごしたほうがいいのです。

そうすれば、いつの間にか疲れがなくなり……ということはないかもしれませんが、少なくとも疲れに慣れ、やり過ごすことはできるようになるはずですから。