悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「子どもの就職が決まらない」と悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「子どもの就職がなかなか決まらない」(57歳男性/その他技術職)
とかく親は、子どもの将来に対して不安感を持ってしまうものです。僕にも必要以上に心配してしまった経験があるので、反省の意味も込めて申し上げるのですが。
もちろん、お子さんの就職が決まらないという差し迫った現実がある以上、「そんな呑気なことをいわれても困る」と思われるかもしれません。たしかに、ある意味ではそのとおりでしょう。
とはいえ、親が悩めば子の問題が解決するなどということはあり得ないのです。それどころか、親が必要以上に子の問題に干渉すると、余計に問題がこじれる可能性があります。
就職がなかなか決まらないという現実を前にして、誰よりも苦しい思いをしているのは親ではなく子どもなのですから。
そう、ただでさえ、彼もしくは彼女は、どうしようもない状況に直面しているのです。なんとか、そこから抜け出そうとしているのです。精神的には、まさに綱渡り状態であるはずです。
そんなとき、親から「就職はどうなっているんだ? 大丈夫なのか?」というように問われたとしたら、たがが外れ、無理に押し留めていた感情が爆発してしまったとしても無理はありません。
したがって、心配だったとしても、親はあえて黙っているべきだと思います。どっしり構えていれば、子どもも「信じてもらえているんだな」と感じるはずですし。
ですから、今回ご紹介する3冊も、無理に読ませるべきではないと思います。読ませたいなら、「これ、おもしろかったよ」という感じで、押しつけることなく、さりげなく勧めるくらいがいいのではないでしょうか。
就職活動は親からの自立の機会
『就活がうまくいかない人はまず自分をほめてみなさい』(岸 永三 著、朝日新聞出版)の著者も、就職に際しての“親と子の意識のずれ”を問題視しています。
著者にいわせれば、親の世代の常識は20年前のもの。本書が刊行されたのは2011年ですから、現代に置き換えれば、それは30年前の常識だということになります。なのにそれを押しつけようというのは、どう考えても無理のある話です。
なぜなら、いうまでもなく、ビジネスの世界は時事刻々と変化しているものだから。20(30)年前の超有料企業だった会社が並になり、少し前まで中小企業だった会社が日本を代表する企業になったりしているわけです。
学生はそういうことを就職活動を通じて理解していますが、親は昔の常識のまま止まっているということ。
だから、親子の対立が出てくるのだと著者は指摘しているのです。納得できる話ですが、とはいえ、もうひとつ重要なポイントがあります。それは、「就職活動は、親と子の真剣な対話の場でもある」という考え方。
親子の対話や関係がしっかりしていないと、企業に合格した後に、結構もめます。親と本音のやり取りをして来なかった学生は大変です。一方で、親子が就職活動を通して、きちんと対話をするようになる。就職活動はそうした良い機会でもあるのです。(41ページより)
社会に出て、会社や取引先の人とやりとりする会話の原点は、家庭での親との会話だと著者はいいます。家族ときちんと会話ができない人は、外部の人ともきちんとやりとりができないのだと。
だからこそ、たとえ平行線になったとしても、意見が違っても、がんがんやり合って、きちんと話をすべきだというのです。
先ほど僕は「あえて黙っておくべき」だと書きました。それが間違っているとは思いませんが、とはいえやはりケースバイケース。場合によっては、話し合いも大きな意味を持つということなのでしょう。
数年前に、公務員になれと強硬に主張する親に抵抗する旧帝大の女子大生から相談を受けました。そこで、これからは、公務員がいかに大変かというデータを渡してあげました。彼女は何回も親と議論し、データで説得して親を納得させ、民間企業に就職しました。(42ページより)
就職活動はこのように、親からの自立の機会でもあるということ。もちろん親子の会話は重要ですが、今回のご相談者さんも、子どもに自主性を与え、意見を聞き、伝えられることだけを伝え、自立させることを考えるべきなのかもしれません(もちろん、ケースバイケースですが)。
小手先のテクニックよりもマインド
さて次に、「就職がなかなか決まらない」状況を打破するために必要なものについて考えてみましょう。参考にしたいのは、『必要なのは「テクニック」じゃない! 「マインド」だ! 「選ばれる人」の就活マインド』(小林一光 著、光文社)。
著者は営業マンとして数々の実績を持っている人物ですが、特徴的なのは「営業の仕事と、就活は、似ている」と主張している点です。
トップ営業マンと普通の営業マンに大きな差はなく、持っているテクニックも同じだというのです。ではなぜ、「売れる」「売れない」の明暗を分かつのか?
それは「営業とは、どういう仕事なのか」「営業マンとは、どうあるべきか」という営業マンの心構え、つまり「マインド」にあるというのです。
お客様は、勘が鋭いもの。その営業マンが「自分の売上を伸ばすことだけを考えている」のか、「お客様の役に立とうと真剣に考えている」のかをシビアに判断できるわけです。
そのため、多くの商品知識を持っていたとしても、自分勝手に押し売りするだけの営業マンはお客様の心を動かせないということ。
就活も同じではないか。
「なぜ、自分は働くのか」
「なぜ、自分はその会社に入りたいのか」
「自分は、どのような人生を歩みたいのか」
がわかっていれば、すなわち、自分のマインドが整っていれば、少々面接のテクニックがつたなくたって、自分の思いを届けることができるはずだ。(中略)
テクニックを磨くだけでは、内定はおぼつかないと思う。
面接官が見ているのは、キミのテクニックではなく、キミ自身の心(=マインド)にほかならない。(84ページより)
たしかに内定がなかなかもらえないと、テクニックに走りたくなってしまうかもしれません。しかし、テクニックを身につけるより前に、「なぜ、働くのか」を考え、自分のことばで表現できるようになるべきだという考え方。
なるほどそれは、営業マンに通じるマインドでもあるといえそうです。自分という"商品"を売り込む際には、小手先のテクニックよりもマインドが重視されるべきだということです。
うまくいかなくても次のアクションへ
最後にご紹介するのは、『もうダメだと思ったときから始まる「就活」大逆転術』(戸山 孝 著、青春新書プレイブックス)。著者は無名の新設私立文系大学から"逆転就活"を実現し、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)にコンサルタントとして入社したという人物。
同社で数々の実績を打ち立てたのちに独立し、現在はカウンセラーとして活躍しているそうですが、つまりは大きな壁を乗り越えてきたわけです。
そんな著者は、"お祈りメール"をもらって落ち込んでいる就活生には必ず、「次行こう、次!」と声をかけているのだそうです。
簡単なことで、落ち込んでいるヒマがあるなら、次に受ける企業の対策を練ったほうが"千倍いい"から。自分のダメだったところを見なおして改善し、新しい挑戦にパワーを向けたほうが建設的だという発想です。
とはいえもちろん、「そんなことばだけじゃ、前向きになんかなれない」「自分はもともと弱い人間だから、どっぷり落ち込んでしまうんだ」という人もいらっしゃるでしょう。
しかし、性格なんてけっこう変わるものだと著者はいうのです。人の性格なんて、ちょっとした"クセづけ"によって培われている、ほとんど後天的なものなのだと。
そうであるなら、"お祈りメール"が来るたびにいちいち「またダメだ」「俺は必要とされてないんだ」などとヘコんでいたら、ネガティブ思考のクセづけを自ら進んでいているようなもの。いいかえれば、自分で自分を落ち込ませているようなものだということです。
だから、落ち込んでいるヒマもなく「次行こう!」と声をあげ、次のアクションに移る。すると、ポジティブな考え方が自然とクセづけされるというわけです。「次いこう」じゃなくても、ヘコみそうなとき、自分を前に向かせるような"パワーワード"を持っているとラクです。(55ページより)
なお、上記の文章のあと、著者は「そもそも就職なんて相性なんだから」と記しています。追い詰められると本質が見えにくくなってくるものですが、たしかにそのとおりですよね。
あきらめなければ、いつか必ず結果にたどり着くもの。だからこそ、うまくいかなかったとしても「ちょっと相性がよくなかっただけ」だと切り捨て、次へ行けばいいのです。軽く聞こえるかもしれませんが、それはとても本質的で、そして重要なことだと思います