悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、住宅購入について考え始めた人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「住宅購入した方がいいのかなと思っています。何も決めていないのですが、まず何をしたらいいですか?」(33歳男性/営業関連)
僕は40代で家を持ちました。国土交通省の平成30年度住宅市場動向調査によると、注文住宅(新築)、分譲戸建住宅、分譲マンション、中古戸建住宅の世帯主は30 歳代がもっとも多いそうなので、年齢的には遅かったのかもしれません。いろいろな事情が重なって「買わざるを得ない」状況になっただけのことだったのですけれど(細かい話は省略)。
とはいえ、その年齢で多額の住宅ローンを背負うことにはやはり勇気がいりました。それに、ローンはまだまだ残っていますから、不安だって相変わらず。ときにはネガティブなことも考えてしまいますが、なんとかがんばっている状態です。そして、そんな事情があるからこそ、今回のお悩みにも共感できるのです。
「持ち家か、賃貸か」についてはさまざまな考え方があり、"持ち家派"と"賃貸派"で意見が衝突したりもします。ただ、経験的にひとつだけいえることがあるとすれば、「買うなら早いほうがいい」ということでしょうか。
僕の場合は遅かったものの、早く買って早く完済したほうが、当然ながらあとが楽だからです。とはいえ"正解"はないだけに、なかなか難しい問題ですよね。
幸せになる家選びのためのポイントを知る
『東京で家を買うなら』(後藤一仁 著、自由国民社)の著者は、長らく東京を中心として不動産の購入・売却・賃貸・賃貸経営のサポート、コンサルティング、セミナー、個別相談をしてきたという実績の持ち主。
そのような経験が軸となっている本書は、「家を買うなら、いつ、どのようなものを、どこに買うか」「失敗しない家選びのポイントはなにか」などがよくわからない人を対象として執筆されたものだといいます。
タイトルこそ「東京で」となっていますが、基本的なノウハウが平易な文章でわかりやすく解説されているので、家の購入に関して悩んでいるすべての方の役に立つのではないかと思います。
ところで著者は、「幸せになる家選び」には絶対抑えるべき3つのポイントがあると主張しています。それぞれを確認してみましょう。
(1)資産価値
いざとなれば、すぐ「売れる(家をお金に換えたいと思った時にいつでも換えられる)」、「貸せる(得たい時に比較的すぐに収益を得られる)」ということ)。
(2)安全性
「命」や「資産」を守るために、災害などが起きた時に安全な場所・建物であること。
(3)利用価値
「住み心地」「居住性」「利便性」など、不動産を利用することによる自分にとっての価値。
(19~21ページより抜粋)
この3つの視点は、シンプルではあるけれども家選びをするうえでとても大切なポイントなのだそうです。これらを押さえているかどうかで、その後の運命が大きく変わることすらあるというほどに。
選ぶ家によっては、本人が意識しないうちに自然と資産が築かれていくこともあるでしょう。しかし逆に、10年も経たないうちに売却価格が半分以下になってしまうというケースも考えられます。
そのため、家を買うにあたっては、「自分が住んで快適であること」だけではなく、「安全であること」「将来的に資産価値が落ちない物件」を意識して選ぶという視点がとても大切だということです。
そこで、まずは基本的な考え方として、この3つを意識しておくべきではないかと思います。
いずれにしても、これら3点とも密接に絡むお金の問題はきわめて重要。いうまでもなく、家を買うためには年収の何倍にもなる大きな金額が必要となってくるからです。しかし問題は、数字には人の判断を狂わせる魔力があるということ。
・自分にこの家が買えるのか?
・頭金はいくら必要で、どんな住宅ローンを組むのがいいか?
・家を買ったあと、もしものことがあったらどうすればいいのか?
(「はじめに」より)
「家を買うとは?」の問いに正面から向き合う
だからこそ、これらの問題に対し、決して妥協して家を買ってはいけないーー。そう警鐘を鳴らすのは、『家を買うときに「お金で損したくない人」が読む本』(千日太郎 著、日本実業出版社)の著者。長年のあいだ、大手の監査法人で公認会計士として大企業の監査や自治体のコンサルティングに関わってきたという人物です。
つまり本書は、会計の専門家として数字にこだわり、その魔力と格闘してきたからこそ書けたものだということ。
そんな本書において、著者は「『家を買うとは?』という質問に答えられますか?」と読者に問いかけています。理由は明白。初心者でも百戦錬磨の不動産会社の影響マンと対等に渡り合い、後悔のない家を買うためには、この質問に正面から向き合う必要があるからです。
大切なのは、これから買う家で暮らすのは、その家族であるということ。つまり多くの人が買うのは不動産としての家だけではなく、幸せな家族の人生だという考え方です。
これは、先に触れた『東京で家を買うなら』が力説している「家を買ったあとに、家を通じて、自分やそこで暮らす家族が幸せになること」こそが重要なのだという視点と共通する部分です。
さて、家を買おうとするときには、どうしても目に見える損得のほうに心を奪われてしまうもの。目に見えないものこそが大事なのだと頭で理解してはいても、ついそれを後まわしにしてしまいがちだというのです。そして、いつの間にか、手段と目的がひっくり返ってしまうわけです。
・目的: 将来に渡り家族と自分の人生を守ること
・手段: 損得感情
(32ページより抜粋)
したがって重要なのは、これら「目的」と「手段」を肝に銘じておくこと。いいかえれば不動産としての家だけでなく、完済までの資金計画、菅最後の老後資金の貯蓄、家族と自分の人生を守る計画など、多くのことが重要だということです。
住宅ローンの「取り扱い説明書」を読む
しかし、そうなるとやはり気になってしまうのは住宅ローンの仕組みです。とはいえ、それらを説明した本を書こうとすると、住宅ローンのネガティブな面に焦点を当てることにもなり、難しい数字の面や理論についても解説する必要性が生じてしまうはず。つまり、専門家には書きにくい領域だということです。
そこで、「ならば住宅業界にも金融業界にも属していない公認会計士の自分が書こう」という思いから生まれたのが、『住宅ローンで「絶対に損したくない人」が読む本』(千日太郎 著、日本実業出版社)。『家を買うときに「お金で損したくない人」が読む本』の著者による、住宅ローンの「取り扱い説明書」です。
ところで住宅ローンについて、多くの人は専門的な知識を持っていません。そのため、
・自分の年収、収入で住宅ローンの金額は妥当なのか?
・今ならば変動金利か固定金利、どっちにすべきか?
(18ページより抜粋)
おもにこの2点について有益な情報がほしいと考えるわけです。ところが営業マンは、「お客がいくらの住宅ローンを組むか?」「どの金利タイプで組むか?」にはまったく興味がないそう。彼らにとって重要なのは、「お客がこの物件をどのくらい本気で買うつもりなのか?」、そして「お客が住宅ローン審査に通るのか」だけだということ。
お客が本気で買おうとしているなら、その先にあるのは「契約に向けて一押し」というステージ。そのため、物件代金を支払うための住宅ローンの話が出てくるわけです。
つまり「住宅ローンをどうしたらいい?」と営業マンに聞いた瞬間から、営業マンのなかでは売買契約に向けてのレールが敷かれ、支払いの手段としての住宅ローンを提案することになるということなのでしょう。
営業マンはお客が何を欲しているかを感じ取って、決断の背中を押すプロです。(中略)ですから営業マンにとっては、「お客がこういう答えを欲しているのだろうな」という想定に合わせて答えることで売りたい物件を売ることが、一番重要な仕事です。「いくら借りるか?」「金利タイプは?」といった住宅ローン選びの根幹について、一番聞いてはいけない相手が営業マンなのです。これらの質問に対して有益な情報が得られたと思ったのだとしたら、それは相手にしてやられている証ということです。(19ページより抜粋)
たとえばこれは一例ですが、住宅ローンを組むにあたって無視できないポイントではあります。
いずれにしても、住宅購入には大きな決断、そしてその前提となる知識が必要です。そういう意味でも、教えてもらえる機会のない大切なことが網羅されているこれら3冊を、まずは手にとってみるべきではないでしょうか?