悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、会社から評価されないと悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「いくら成果を上げても評価されない」(40歳女性/メカトロ関連技術職)
成果をきちんと上げているのだとしたら、評価されずに不満を感じたとしても仕方がないかもしれません。ましてや使命感を持って真摯に仕事と向き合っているのであれば、なおさらですよね。
ですから、お気持ちはよくわかります。が、"成果をあげても評価されない"ことが事実であるなら、その“理由”を考えてみることもまた大切なのではないでしょうか?
もちろん、納得できないだろうとは思います。しかし会社が評価してくれないとしたら、そこには必ずなんらかの理由があるはずなのです。
だからこそ不満をひとまず抑え、その理由を考察してみるべき。必ず納得のいく結論に行き着くとは限りませんが、長く仕事を続けていくうえで、そんな冷静な視点を持つことは重要ではないかと考えるわけです。
なお理由のひとつとして、「人事部」の判断が影響していることも充分に考えられます。いうまでもなく人事部は、社内の状況を細かに俯瞰し、適切な判断をする役割を担っているからです。
人事部の視点で評価の目的を考える
そこでまず最初に、『人事部は見ている。 』(楠木 新 著、日経プレミアシリーズ)を取り上げてみることにしましょう。
著者は生命保険会社で、人事関係の仕事に携わってきた人物。そんななか、組織で働く人がいかに人事評価や人事異動に関心を寄せているかを痛感したそうです。
人事のように、人の気持ちとか、人間全体が丸ごとかかわることは、なかなか理屈や論理だけではとらえきれない。むしろそこからこぼれ落ちてくるところが大事だと思う。矛盾を抱える人間の集団を扱うには、正しいことがストレートに役立ちはしないと思ったほうがよさそうだ。(「少し長いプロローグ すべての道は人事に通じる」より)
この記述からもわかるように、人事や会社の判断が、必ずしも従業員の思惑とは限らないわけです。
注目すべきは、著者が理想論では片づけることのできない本質に斬り込んでいる点。たとえば人事評価に対して社員は、「できる社員だから昇格できるのだろう」というように判断しがちです。
そのため「自分だって成果を出しているのに」というような不満が生まれるのでしょうが、必ずしも力量のある社員を優遇すればよいわけではく、さまざまな要因が絡み合っているというのです。
人事評価は公平に扱うべきと主張する見解もあるが、どんな評価基準を導入しても客観的な評価などありえない。そもそも人の評価は主観的なものであり、感情を伴っている。客観性、公平性よりも、一緒に働く社員たちから「うん、そうだ」という納得感をどれだけ得られるかがポイントになる。(99ページより)
この「一緒に働く社員たちから納得感をどれだけ得られるか」という部分こそ、とても重要な視点ではないだろうかと思います。 つまり会社が集団である以上、多くの社員を納得させる必要があるということ。
とはいえ、全員を満足させるような結果を出すことは現実的に不可能。したがって、「納得できない」と感じる人も出てくるはずなのです。
人事による評価の目的は、会社をよくすることです。だとすれば、結果に満足する人がいる一方、不満を感じる人がいたとしても、それは仕方がないこと。
腑に落ちない部分もあるでしょうが、悔しい思いをあえて脇に置き、「なぜ自分は評価されなかったのだろう?」と考えてみる姿勢を保つことが、将来につながっていくのではないかと感じます。
それは気持ちのよいことではないかもしれませんが、仕事をしている以上、常に評価はつきまとうもの。昇進、昇給、ボーナス、異動、左遷やリストラ、あるいは転職するにしても起業するにしても、キャリアのすべては評価によって決まるわけです。
自分と向き合い、成長につなげる
「評価」とは、基本的には「成果」と「行動」によって決まります。
会社が社員に求めていることは。どんな企業もほぼ一緒。それを理解し、「行動」を変えれば、「成果」につながり、「評価」は確実に上がります。
ただし、それを実現するためには、もう1つ重要なことがあるのです。
それは、自分の「性格」をよく知ることです。(「はじめに」より)
こう語るのは、『なぜ、結果を出しているのに評価が低いのか? 人事の超プロが教える 評価される人、されない人』(西尾 太 著、日本実業出版社)の著者。評価を含む企業の人事全般に携わり、多くのビジネスパーソンの面談や相談を行なってきたという人物です。
本書ではこのような考え方に基づき、「評価される人」になるための考え方やメソッドを紹介しているのです。
著者は重要なポイントのひとつとして「自分と向き合うことの重要性」を挙げています。注目すべきは、「スーパーマンになる必要はない」と断言していること。
自分と向き合うことから逃げていては、何も変わりません。
そもそも完璧な人間なんていないのです。どんなに高く評価されている人でも、弱みや欠点は必ずあります。そこから逃げることなく、自分と向き合っているから、仕事の質が向上し、ますます高く評価されるのです。
なんでもできるスーパーマンになる必要なんてありません。会社もそんなことは求めていません。苦手なことがあっても、それに対処する方法を考えればいいのです。(126ページより)
嫌いなことや苦手なことであったとしても、それらと向き合い、ずっと続けていくことが大切。そうすれば、やがてそれほど苦手ではなくなり、以前よりも好きになっていくものだからです。
そして苦手なことが減り、得意なことが増えていけば、自分を知ることが楽しくなってくるもの。「次はこのスキルを身につけよう」「この知識を習得しよう」と、向上意欲がどんどん湧いてくるものだということです。
成長するためには、そうした"よい循環"をつくることが重要。そこにさえたどりつければ、社内の評価も少しずつ、しかし確実に、よい方向へと変わっていくものなのかもしれません。
「できる人」の特徴を自分自身に生かす
ところで「評価される人」とは、ある意味においては「できる人」であると考えることもできます。必ずしも「できる人」が「評価される人」とは限らないのが難しいところではありますが、とはいえ「できる人」の特徴を把握し、それを自分自身に生かすことができれば、やがて評価につながっていく可能性は大いに考えられるのですから。
そこで最後に、『できる人の共通点』(陰山孔貴 著、ダイヤモンド社)をご紹介したいと思います。
著者は経営学という、企業や働く人を対象にした分野を専門とする経営学者。そのような立場から、これまでさまざまな企業の人に会ってきた結果、各会社・各業界で「できる」と言われる人には次のような共通点があることに気づいたのだそうです。
1 「学ぶことがあたりまえ」だと考えている
2 人生に起きるすべての経験に「意味づけ」をしている
3 独自の「ルール」を決め、習慣化している
4 「運」を大切にしている
5 「試行錯誤」の末に新たな価値を生みだす
6 明確な「判断基準」を持ち、不必要なことはやらない
7 すべては「直感」から始まっている
(「はじめに」より)
これらの共通点はパソコンやスマートフォンの「OS」のようなものであり、後天的に獲得されていったものでもあるのだとか。今回のご相談に関しては、2のなかの「できる人は、悩んでも絶望はしない」という項目が役立ちそうです。
できる人たちは悩み続けています。その中で、大きな出来事や出会いなどがきっかけで自分のあり方を見直し、成長の機会を得ていくのです。
ちなみにですが、「順調すぎると、それはそれでつらい」という話も聞かれました。(74ページより)
そういう意味では、「いくら成果をあげても評価されない」という悩みもまた、ひとつの成長過程と捉えることができるのではないでしょうか?
理不尽だと感じる現実があるのだとすれば、まずは「納得できない」という思いをとりあえず封印し、冷静に自分を見つめなおしてみるべき。そしてそこから、「今後の自分はどう進むべきか」を考えるのです。その過程においては、上記の「できる人の共通点」を参考にしてみるのもいいでしょう。
そうやって地道に誠実に歩んでいけば、いつか必ず納得できる場所へ辿り着けるのではないかと思います。