悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「人が怖い」という人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「職場の人達、家族・親戚の人達、世の中の人達がこわい」(31歳男性/事務・企画・経営関連)
人前に出たりすれば、誰でも多少は緊張したり不安を感じたりするものです。しかし、世の中のすべての人が怖いというのであれば、いわゆる「対人恐怖症」だと考えられるかもしれません。もちろん専門的な知識はないので、無責任なことは言えませんけれど。
ですから症状が重い場合は、専門医に相談するべきかも。とはいえ対人恐怖症は、そもそも10人に1、2人がかかる病気だといわれています。それほどポピュラーではあるわけで、言い換えれば「おかしいことではない」のです。
だからこそ、まずは"人を怖く感じてしまう自分"を否定するのではなく、"受け入れる"ことが大切なのではないかと感じます。「怖いと感じる自分はおかしい」という気持ちを多少なりとも排除できれば、気持ちは楽になるはずなのですから。
そしてそこから、「では、人が怖い自分は、人とどう接していけばいいのだろうか?」と"前向きに"考え、少しずつでいいから、できそうなことを試していくべきではないでしょうか。
日常生活に支障をきたしているか自己チェック
『誰でもスグできる! あがり症・対人恐怖症・赤面症の悩みをぐんぐん解消する! 200%の基本ワザ』(木村昌幹 監修、日東書院)の著者によれば、一般的に対人恐怖症と呼ばれているものは「社交不安障害」という病気なのだそうです。
本書では、その症状の特徴や診断、対処法、治療法などが解説されているわけですが、精神科医である著者は「社交不安障害の人は、真面目で高い能力を持ち、自分に完璧を求めるタイプの人が多い」と指摘しています。
それは多くの専門家の共通認識でもあり、つまりは有能な人が多いということ。不安な気持ちが続くとつい自分を追い込んでしまいがちですが、不安や緊張を感じていることを自覚することが大切なのでしょう。
ただし、社交不安障害は自分では判断がつきにくい病気でもあるようです。そのため不安や恐怖の程度を確認し、自分の状態を自覚してみるべき。
そこで著者は、下記の表による自己チェックを勧めています。
重要なポイントは、「その症状が日常生活に支障をきたすほどか、そうでもないか」という点だそう。正しい診断を受けるためには、自分の状態を把握しておくことが欠かせないわけです。
1:多くの人前で話すのが怖い。
2:見知らぬ人に話しかけるのが怖い。
3:他人の視線が気になる。
4:人前でのサイン(記帳)で手が震える。
5:クラス会、飲み会、忘年会などで不安を感じる。
6:他人と食事をするとき緊張する。
7:緊張すると動悸や手の震えがある。
8:社交的な場面で赤面や発汗する。
9:不安や緊張が日常生活に支障を与えている。
10:必要であっても不安・緊張場面を避けている。
はい=5点 ときどき=3点 そうでもない=1点
40点以上なら受診を考えたほうがいいでしょう。
(147ページより)
なお、「性格だから治るはずがない」「受診するほど重症ではない」と思い込んでいる方もいるかもしれませんが、それは間違いだと著者は断言しています。
大切なのは、正しい診断を受け、効果的な治療を始めれば克服できる病気だということ。まずはそのことを理解する必要があるというのです。
「あがる」構造を知る
『もうだいじょうぶ! 心臓がドキドキせず あがらずに話せるようになる本』(新田祥子 著、明日香出版社)の著者は、あがり症と話し方の専門家。人間科学に基づいた心理教育と認知行動療法等によって、あがり症を根本から克服する日本で初めての話し方教室「セルフコンフィデンス」主宰として、多くの人々をあがり症からの解放に導いてきたのだそうです。
そうした活動のなかでわかったのは、多くの人が「あがる」ということについて誤解をしていることなのだとか。
「話し方に問題がある」「準備が足りない」「場数が足りない」「生まれつきだから」などの考え方はすべて間違いで、問題は「脳」にこそあるというのです。
そこで本書では「あがりの構造」を解説し、さらには「ドキドキせずに話せる方法」「すぐに使える会話実践法」などを紹介しているわけです。
人は生きるために必要なあらゆることを、経験や知識という学習によって身につけ、その記憶をもとに未来を予期(イメージ)しながら行動するもの。その記憶には、「あがってしまった」「なんて恥ずかしい」というような思考や感情も含まれます。
あがってしまうと恥ずかしいですから、誰しもそのことを「忘れてしまいたい」と思うものではないでしょうか。
ところが結果的には、「あがったことなど思い出したくない」と考えるたび、逆に「あがった」という記憶の上書きをしていることになるというのです。なぜなら、「思い出したくない」と考えるたびにそのことを思い出し、学習しているから。
そもそも脳は「命の安全・安心を守る」という使命を持って機能しているので、「自尊心」を脅かした出来事は決して忘れないということです。
だから、新しい学習をして記憶の上書きをしていく、つまり「ドキドキしないで話す」という記憶を上書きすればいいのだそうです。
ポジティブな脳内情報からは、必然的にポジティブな思考や感情が多く生じますので、反省して自分を変えるよりも効果はバツグンです。(80ページより)
「コミュニケーションがうまくいかない」と自分を責め続け、殻に閉じこもっていたところで、なにも解決しません。大切なのは、「できない自分」にOKサインと出しながら挑戦し続けること。
そんな精神でいることが、どのような場面においても強い心を育むことになり、成長を促してくれるのだといいます。
「自分を信じる」ことを考える
ところで「人が怖い」ことの原因のひとつとして、「自信のなさ」があるのではないかと思います。自分に自信がないから、自分以外の人間を向き合うことに恐怖を感じてしまうのです。
逆に言えば、自信を獲得できれば、人間関係もよい方向へ向かうと考えられるわけです。
幸せに生きるためには、自分を信じればいい。わたし自身、そのことに気づくまでに長い時間がかかりました。いまは、その大切さと必要性を痛感しています。(「はじめに」より)
精神科医である『自分を信じるということ ありのままで生きる』(和田秀樹 著、マガジンハウス)の著者も、こう記しています。
そこで本書では、「自分を信じる」とはどういうことなのか、「どうすれば自分を信じられるようになるのか」を考えているのです。簡単なことではないかもしれないけれども、自分を信じてみようというちょっとした頸椎が、自分人を変えていくものだから。
自分を信じるというのは、自分の願望を素直に認めることです。ありのままの自分にはいくつもの願望があって当然なのですから、その自分を受け入れるだけでいいのです。
これは、心を解き放して生きるということですね。
ほんとうに楽になれるということです。(27ページより)
どんな人にとっても、「自分を信じる」ということは大切な心構えになるもの。たとえば人が怖いのであれば、「人が怖くなくなることができる」と心から信じてみる。そんな思いを突き詰めることが、次のステップへとつながっていくという考え方です。
自分を信じる人は、自分の感覚を信じることができます。美味しいものは美味しいと素直に認めることができるし、きれいだと感じたこと、「わたしに合う」と感じたことも素直に喜ぶことができます。
これは何でもないことのようですが、精神科医のわたしから見ても大切な習慣になってきます。自分の感覚というのは信じていいし、それを信じる人が幸せに生きることができるからです。(32〜33ページより)
すなわち、もしも自分を信じられなければ、なにも変わらないのです。それどころか、どんどん深みにはまっていくことになるかもしれません。でも、いずれにせよ行き着く答えはひとつしかないのです。
だとしたら前向きに、「人が怖くなくなることができる」と信じてみるべきなのではないでしょうか? そして、話しやすそうな人に話しかけてみるなど、できそうなことをひとつずつ、少しずつ、試してみるといいかもしれません。
それを繰り返していれば、いつか必ず壁を乗り越えられるのではないかと思います。