悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、"言うことを聞かない部下"に悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「部下が若くて言うことを聞かないので困ってます」(55歳男性/メカトロ関連技術職)
こういうことを書くと叱られてしまうかもしれませんが、僕は昔から"生意気な若いやつ"が大好きなんです。仕事の場であれ、プライベートであれ、そういうタイプこそ「いいやつだなぁ」と思えることが多いように感じるので。
もちろん上司としては、どんなことにも従う部下のほうが"表面的には"扱いやすいでしょう。でも前提として大切なのは、意思疎通がしっかりできていることではないでしょうか。そうでない限り、"本当の意味で"つながることは難しい気もするので。
一方、あくまで経験則ではありますが、"少々やんちゃで生意気な若手"のほうが、「意外と伸びしろがあるなぁ」と感じさせることが多いんですよね。
たしかに、言うことを聞かないとか、生意気な発言をしたりするというケースも考えられます。それを容認できるかが、上司にとって重要なポイントだとも言えそうです。
でも実際のところ、そういうタイプにはしっかりとした考え方を持っている子が少なくないし、実は純粋だったりもするのです。そのため腹を割ってじっくり話をすると、大きく心を開いてくれることが多いように思うのです。
ちなみに上司として忘れたくないポイントは、その子のことを否定するのではなく、純粋におもしろがっちゃうことだと思います。少なくとも僕はそうしていましたし、その結果、向こうのモチベーションが上がり、ぐいぐいと伸びていったということも幾度となく経験しています。
上司が立場的に偉いのは当然ですが、だからといって常に抑えつけていたのでは若手だって窮屈になるはずです。でも、「叱るべきときにはきちんと叱る」ということを大前提としたうえで、その子を受け入れ、上司が「こいつ、おもしろいやつだなー」って感じで楽しんでしまう。実はそれが、とても大切なのではないかと思うのです。
「残念な部下」を育てる
「残念な部下」について考えるとき、「仕事なんだから、ちゃんとできて当然!」というその常識(それで給料をもらうわけですから、相応の出来栄えが求められることは百も承知です)から一度離れ、まずは自分自身の「デキの悪い」経験を思い返してみてください。(27ページより)
こう主張するのは、『残念な部下を戦力にする方法』(坂井伸一郎 著、フォレスト出版)の著者。非常に的確な指摘だと思います。いま活躍している中堅以上の方も、かつては「若くていうことを聞かない部下」だった可能性は決して少なくないはずだからです。
「我が子でもない『残念な部下』に対して、なぜ気を揉まなければならないんだ」と感じる気持ちも、わからないではありません。しかし、そういう感じ方を認めたうえで、著者は「自己研鑽は、部下にばかり求めるものなのでしょうか」と問いかけてもいるのです。
上司自身にもまた、部下を「教える」「育てる」「成長させる」「スキルアップさせる」責任があるのではないかと。
ましてや「残念な部下」だからといって、「残念だ」「ダメだ」と考えてしまうのはいかがなものでしょう? そういうマイナス意識やネガティブなスタンスは、相手にそのまま伝わってしまうものでもあります。
上司が心のどこかで思っている「どうせ、また失敗するんだろ」という意識が、相手の心を固く閉ざしてしまい、ミスを誘発してしまうということも考えられるわけです。
著者は「『ないものねだり』をするより、『ないものを育てる』」べきだと主張していますが、そんな考え方には大きな説得力があるように思います。
なお本書においては、部下に学ばせ、それをプラスに作用させるための「スティッキー・ラーニング」というメソッドがていねいに紹介されています。
「sticky(ベタベタする、くっつく)」と「learning(学習)」からなる、「ベタベタ頭に貼りつけていく学習法。
ここでその方法論を詳しくご紹介するのは難しいのですが、「社会常識に欠ける」「やる気が感じられない」「気が利かない」など、部下のタイプごとの活用法も紹介されているので、参考にしてみると役立つかもしれません。
ベテラン社員の成功体験が持つリスクとは?
いずれにしても若い部下を動かすにあたっては、部下を変えることだけではなく、上司として自身が変わっていくことも大切だということになりそうです。そこで次にご紹介したいのが、『令和上司のすすめ ―「部下の力を引き出す」は最高の仕事―』(飯田剛弘 著、日刊工業新聞社)。
「令和上司」とは聞き慣れないことばですが、著者によれば、それはグローバルで活躍する上司の行動特性を持ち、令和の時代に求められるであろう上司を指しているのだそうです。
令和上司は、リーダーとしてチームや部下の成長を促し、結果を出します。(中略)令和上司は共感力を持って、相手の話を聴きます。部下を通じて、自分一人では得ることができない情報やノウハウにリーチします。(中略)つまり、自分一人による偏った経験や知識だけではなく、複数の人の最新の知識や経験を吸収しているのです。そして多様な価値観や考え方、意見を取り入れることで、あらゆる状況に柔軟に対応できるようになるのです。(「プロローグ」より)
第2章「『私の方が優れている』が部下育成を妨げる」のなかで、著者はベテラン社員の成功体験が持つリスクに触れています。
多くのベテラン社員は、自分の仕事に自信を持っているもの。もちろん、それ自体は悪いことではないでしょう。しかし過去の成功体験や実績、その当時の実力にとらわれすぎるのも問題。それは、現状をきちんと理解しようとしないまま、間違った判断をしてしまうリスクにつながるからです。
大事なことは自分の過去の経験の解釈の仕方です。「自分は○○したから、うまくいった」と自分なりの成功パターン、つまり因果関係を決めつけないことです。
「自分は、○○したにもかかわらず、うまくいった」という視点で振り返ることです。
例えば、「徹夜をして企画書を作ったから、うまくいった」と捉えていたとします。
そこで、「徹夜をして企画書を作ったにもかかわらず、うまくいった」という視点で振り返ると、どうでしょうか? 「徹夜をすること」が成功要因ではないと思うでしょう。(中略)
他の成功要因やより良いやり方がないかを考え直してみましょう。客観的に振り返ることで、自分の過去の成功にとらわれず、他の選択肢にも目が行くようになります。現状をきちんと理解し、最適な解を柔軟に見つけることができます。(64~65ページより)
そうすれば、自分の経験を過去の栄光として語るのではなく、過去の体験と現在の課題との共通点などをきちんと部下に伝えることができ、本当の意味で経験を活かせるわけです。
つまりそれは、「相手が本当に欲しているもの」を見抜き、提供できるようになるということ。また成功体験を客観視し、有効活用することで、「現在における客観的な判断」が可能にもなるでしょう。
したがって、部下に言うことを聞かせるためには重要なポイントであると言えるのです。
もし、若手にやる気が足りなく、元気なく見えるのだとしたら、それは、私たち30代以上の世代が、若手を正しく理解できていないからではないでしょうか。理解できていないから、彼らを導けていないのではないか。僕は、そう思います。(「はじめに」より)
若手を動かしたいなら「やりたくさせる」
『若手を動かせ』(中村トメ吉 著、エイ出版社)の著者は、こう主張しています。若い男性をメインターゲットとした美容院「OCEAN TOKYO」の代表。スタッフの大半が20代であり、その8割が男性。顧客も9割が男性。つまり「扱いづらい」「なにを考えているのかわからない」若手男性が社員であり、顧客でもあるというわけです。
そんな著者は、若手を動かしたいなら、やるべきことは「やらせるよりも、やりたくさせる」に尽きると記しています。そして「やりたくさせる」ために必要なのは、「若手が本当にやりたいことをさせる」ということも重要なのだとか。
若手がなにに情熱を持っているのかを知り、その情熱を100パーセントぶつけられる環境を用意することが大切だという考え方。
具体的には、
(1)若手自身に志や夢を語らせ(会社がやってほしいことを押し付けるのではなく)
(2)それを実現させるためにあらゆる障壁を取り除く(多くの障壁は車内にあります)(34ページより)
これに全精力を傾けることこそ、すべてだというのです。これは美容院業界に限らず、すべての業種にあてはまることなのではないでしょうか?
冒頭の話の続きです。上司であろうが部下であろうが、それぞれ個性を持っているもの。で、いい意味で「ヘンなやつだなー」とその若手のことを楽しんでしまうことができれば、向こうだってきっと「ヘンな上司だなー」と感じてくれるはず。そこまで到達できたら、あとはとことん腹を割ればいいのです。
そうすれば若手だって、おのずと「聞くべき話」に耳を傾けるようになり、「この人の話はきちんと聞かなければ」と前向きに感じてくれるだろうと思います。