悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、中途入社でなじめないと悩む人に贈るビジネス書です。
■今回のお悩み
「中途入社でなかなかなじめない」(37歳男性/専門サービス関連)
ただでさえ、組織内で良好なコミュニケーションを維持するのは簡単ではありません。なにしろ各人が、異なった考え方や価値観を持っているのですから。
しかも年齢を重ねていくにつれ、それら"考え方や価値観"は固まってしまいがちでもあります。"違い"を受け入れにくくなるわけで、ましてや相手との間に5歳も10歳もの年齢差があれば、やはり多少のつきあいづらさは生まれてしまうでしょう。
一般的な組織でさえそうなのですから、中途入社の場合は、なじむことがさらに難しくなるのは当然かもしれません。しかも、ご相談者さんは37歳とのこと。上の世代と下の世代、それぞれに見合った接し方をしなければならないのですから、なおさら大変そうです。
ただ、ひとつ感じることがあります。中途入社して環境が変わったのであれば、なじめなくて当然。ですから、必要以上に神経質になるべきではないという気もするのです。「無理になじもうと意識するから、逆になじめないのではないか?」ということ。
また、無理になじもうとすると、どこかで自分を押し殺さないわけにはいかなくなります。なじむことを優先した場合、「自分を出してはいけない」と考えてしまいがちだからです。
もちろん「自分が自分が」と、過度に自己アピールをしたり、わがまま放題したのであれば問題外。それでは、周囲の人たちから敬遠されることになるでしょう。しかし、そこまでしなかったとしても、どのみち"自分らしさ"というものは出てしまうものです。
なぜなら、それが個性だからです。
繰り返しになりますが、個性はひとりひとり違うのです。したがって、「合う人」と「合わない人」は必然的に出てくることになります。それは、相手が中途入社かどうかに限らず、新入社員同士でもありうることです。
つまり人である以上、合う場合も合わない場合も、うまくやれる関係性になれることも、ぶつかりやすくなることも"当たり前の話"なのです。
そう考えれば、とどのつまりは「自分らしくいる」ことがなにより大切であるということがわかるはず。取り繕おうとすれば、いつかうまくいかなくなりますし、自然に、自分らしくあることがいちばん。
それでも、ぶつかるときはぶつかるでしょう。でも、人間とはそういうもの。そう考えるべきだと個人的には思います。
「笑顔」で強さと温かさをアピール
とはいえコミュニケーションを円滑にしたいのであれば、多少なりとも相手の心をつかむことが必要となる場合もあります。そこで参考にしたいのが、『人の心を一瞬でつかむ方法』(ジョン・ネフィンジャー、マシュー・コフート 著、熊谷小百合 訳、あさ出版)。
人を品定めするときに、私たちが無意識にはかっている二つの観点。
それはズバリ、「強さ」と「温かさ」です。
この場合の「強さ」とは、個人の能力の高さや物事を成し遂げる意志の固さを指します。
また「温かさ」とは、この人にもっと近づきたい、と相手に思わせる優しさや親近感のことを言います。(「プロローグ」より)
これが著者の主張であり、本書のコンセプト。つまり人は、「強さ」と「温かさ」を同時に感じさせる人物には、敬意と憧れを抱くということ。人のために尽くしたいという気持ち=「温かさ」だけでなく、それを実行するだけの能力=「強さ」を持った人のまわりには、自然と人が集まってくるというのです。
たとえば「強さ」と「温かさ」を効果的にアピールする方法として、著者は「表情」の重要性を説き、なかでも「笑顔」に力があると主張しています。
「暖かさを感じさせる視覚要素」の中で、最優先すべきなのは「顔の表情」です。そして「温かさ」を生み出す方法として「笑顔」に勝るものはありません。笑顔は人類共通の行動に深く根差した、究極の非言語コミュニケーション手段です。(145ページより)
人の笑顔は、「幸福」「魅力」「社交性」「成功」といったさまざまなプラス要素を物語るもの。つまり微笑みを浮かべている人は、有能で好感の持てる人物だと判断されやすいのです。
また、伝染力があるのも笑顔の特徴。誰かに微笑みかけられたとき、私たちは自分が笑顔を浮かべているときの感覚を思い出し、自然に微笑みを返そうとするということ。
そんな相互作用は、無意識のうちに生じるものでもあります。つまり人間は、微笑みかけてくる人物に対して好感を抱く傾向があるわけです。
新たな環境で人となじむために必要なことはたくさんあるかもしれませんが、まずはスタートラインとして、笑顔を活用してみる価値は充分にありそうです。
相手と同じことをする、イマジネーションにはたらきかける
『90秒で好かれる技術 改訂版』(ニコラス・ブースマン 著、中西真雄美 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者も"90秒"で好かれるための3つの方法のひとつとして、「人と会ったら、相手の目を見て微笑む」ことの大切さを訴えています。やはり微笑みは、コミュニケーションにおいて重要な意味を持つようです。
では、あとの2つは?
著者によればそれは、「相手と同じことをする」ことと、「イマジネーションにはたらきかける」こと。それぞれを確認してみましょう。まずは、「相手と同じことをする」について。
人は誰かのまねをしながら学んでいく。私があなたに笑顔を向けたら、あなたは笑顔を返すし、私が「おはよう」と言ったら、あなたはたいてい同じ挨拶を返してくる。相手と同じ行動を返すというのは人間が生まれもった性質なのだ。(33ページより)
これはリンビック・シンクロニー(Limbic Synchrony:大脳辺縁系の同調性)と呼ばれ、人間の脳にもともと組み込まれたものだとか。動作や態度、表情を意識的に相手に合わせたら、その人は居心地がいいと感じてくれるというのです。
残りの「イマジネーションにはたらきかける」についてはどうでしょう? このことについては、おなかがすいていなかったとき、イマジネーションによって気持ちを動かされたときの話が引き合いに出されています。
突然マルドゥーンがうしろを振り返り、リアウインドウを指さした。
「あのでかくて古めかしい灯りが見えるかい? あそこのレンガのビルの角だ」
「あれがどうかしたのですか?」と私は尋ねた。
「夕べあそこに行ったんだよ。<ベントリーズ>だ。仕事を終えたジャーナリストや広告業界の人間が集まる社交の場になっている。夕べは友人たちと夕食をとったんだ。あそこの料理は格別でね。
オーダーしたのはホウレン草のスフレのアンチョビソース添え。自家製のパンが付いてきた。パンはサクサク、スフレは口のなかで溶けてしまうようだ。メインディッシュは、ペッパーコーンステーキにクリーミーなマッシュポテトとグリーンピースを添えたもの。仕上げは、高級ヴィンテージブランデーでフランベしたクレープ・シュゼットだ」(35〜36ページより)
話を聞くうちに料理が目に浮かんできて、想像すればするほど食べたくなってきたと著者。つまり相手は、イマジネーションに働きかけて感情を動かしたわけで、これもまたコミュニケーションに欠かせないカギであるということです。
相手をそのままで受け入れる
さて、人に好かれるにはどうしたらいいのかと思いを馳せる人がいる一方、"なぜか好かれる人"がいるものでもあります。そこで最後に、『なぜ、あの人はいつも好かれるのか』(本田 健 著、三笠書房)をご紹介したいと思います。
たとえば著者は本書のなかで、人に好かれる人の特徴のひとつとして「分け隔てがない」ことを挙げています。人に好かれる人は、ポジティブな人ともネガティブな人とも、社会的地位がある人ともない人とも、人間関係を上手に持っているというのです。
相手がどこかの社長でも、フリーターでも引きこもっている人でも、変わらず普通に接するということ。そのため相手も「大切にされた」と感じるわけです。
分け隔てのない人は、話をするときも、なるべく相手が共感できるポイントを意識しながら、 「この年代の人だったら、こういうことに興味があるかな」
「こういう職種の女性だったら、こんな話し方をすると響くかな」
と想像力を働かせながら、会話を進めていきます。
もちろん、彼らもはじめからそういうことができたわけではなく、いろいろな失敗を経て、そういう会話のスキルを身につけたのでしょう。
人間関係を上手に保つには、人を理解するための努力も必要だということです。(17ページより)
人間関係で起きる大きな問題のひとつは、「聞いてもらっていない感じがする」こと。つまり、誰にでも好かれる人になるための簡単な方法は、「人の話をじっくり聞いて、理解しようとする」ことであるのです。そのためには、相手をそのままで受け入れることが大切だと著者は記しています。
新たな環境であれば、うまくなじめなくて当たり前。そう考えて「自分らしく」(←ここが大切)振る舞っていれば、あとは時間がきっと解決してくれるはずだと思います。